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ダミアン バクランド 〜第二王子殿下の親友の日常〜  作者: 島田すい


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 さて、妹の安全対策を考える余裕もないまま、僕は豪華絢爛な装飾が施された食事室で、飾りの一部のように控えている。

 午後に王都から戻ってきたばかりなので(しかも二日連続での移動だった)、さすがのエステルも今夜またすぐに向かうことはないはずだ。そのため、その件はひとまず後回しにし、今は自分のやるべきことに集中しなければならない。演技が見破られてしまえば、主人であるロイも含めて立場が危うくなる。



 フィリップとリシャールの二人は、十人は余裕で同席できる大きさのテーブルに向かい合って座り、形式的な会話を続けている。芳香を放つ淡い黄色の酒を口にし、色とりどりの野菜が使われた海老のサラダを当たり前のように食べているが、これだけでも平民の一日の食事と比較にならないほど、豪華だろう。



「フィリップ兄さんは、ロザリーって女優を見たことがある?」

「リシャール」


 フィリップは小さくため息をついた。


「私にそんな暇があると思うかね?」

「兄さんが多忙なのはもちろん知っているけど、いま王都で話題になっている劇団女優だし」

「――そもそも私が劇などに興味がないことを、おまえが知らないわけないだろう?」

「そうだけど……もの凄い美人って有名だから」


 二人の会話を盗み聞きしながら、僕もため息をつきたいのを何とか我慢した。もちろんそのロザリーという劇団員は知っている。噂で耳にしただけなので、彼女の外見に興味があるわけではないが、そのロザリーは妖艶なタイプの男好きする女性で、どう考えても潔癖なフィリップが食いつく内容ではない。

 リシャールは兄から自分が分からない分野の話をされないよう、自ら話題を積極的に出しているようだ。だが二人は兄弟といえども性質は全く似ていないのか、その後に振った話も、フィリップには関心がなさそうに感じられた。


 そんなことをロイに報告するために、僕はここにいるわけではないと思いながら、淡々と空になった食器を厨房まで持っていき、新しい皿を運んでくる。

 先ほどの酒を飲み終わったので、新たなものを用意する。フィリップの方が量を飲んでいるが、顔には何の変化も見受けられない。


「最近、王都の広場で集会のようなものが開かれているみたいだな」 

「――何かお祭りでもあったんですか?」


 灰色の瞳を向けられ、リシャールが少したじろいだように動いた。


 お祭りとの返答は、フィリップの意に沿わなかったようだ。この間、王都の宿泊所でも聞こえてきた集会という単語……。

 二人はこの内容を掘り下げず、結局最近の天気――話題がない時の手段――について話し始めた。



 メインの肉もすでに終わった。最後のデザートも出され、忍耐が何より重要ともいえるロイの助手をしているのにもかかわらず、収穫はなさそうだと諦め、若干焦り始めていた。

 もちろんロイに怒られそうだからとかではない。進展がなかった場合、エステルが事件解決のために何か少しでも情報を得ようと、無茶するだろうという心配からだ。


 そんなことを思案していたので、急に耳に入ってきた会話に危うく反応しかけた。


「そういえば兄さん、バードン男爵って知っている?」

「当然だろう」

「いや、家名だけじゃなくて実際に」


 フィリップはわずかに顔をしかめた。その問い自体が心外だったようだ。


「それで、バードンがどうかしたのか?」

「いや、その三男が殺されたと、最近耳にしたものでね」

「ああ、物取りだと聞いているが?」


 ――え? フィリップがその事件のことを知っていた。しかし、驚きはそれだけではなかった。


「兄さんが知っていたなんて、意外だったよ」


 フィリップは視線を皿に落とし、残っていた菓子をフォークに載せた。


「だが実際には、盗人の仕業ではないだろう」 


 この発言の根拠は……? その問いを、リシャールが僕の代わりにありがたくも口にしてくれた。


「それは――どういう意味です?」

「彼を知っていれば、普通に推測できると思うが?」


 意外にもフィリップはジュリアンを知っていた――、いや、事件後に知ったのか。だが今の、『知っていれば』との言い方では、殺される前から知っていそうだ。実際に交流があったのか、悪評を耳に入れていただけなのかは判断できないが……少なくとも、警備隊の見立てとは違う。いや、リュー地区の人たちの見解と同じということか……。


 一部の者たちに鷹のようだと揶揄されているフィリップから鋭い視線を向けられたリシャールは、居心地が悪そうに唇を微かに動かしたが、言葉は出てこない。政治に大して興味がない彼は、兄に咎められていると感じているのだろうか。


 少しの間を置いて、リシャールがわずかに上擦った声で言った。


「でも、それだけで怨恨のせいって決めつけるのは、少し強引ではないですか?」


 フィリップの冷気を携えたような灰色の瞳の温度が、より一層下がったように見えた。普通の者ならば、これだけで凍ったように動けなくなるだろう。それは実弟に対しても例外ではなかったようで、リシャールが口を閉ざした。ピリピリとした空気が室内に満ちている。


 息が詰まる雰囲気の中、僕は二人の会話に引っかかりを感じた。このまま聞き続けたいところだが、二人が食べ終えたデザートの皿を下げなくてはならない。少しでも変な行動を取り、故意に盗み聞きしていたことが見つかれば、叱責では済まず、ロイにも迷惑がかかる。



 自然な振る舞いで皿を取り、一度部屋を離れ厨房の洗い物担当に渡す。二人がいる部屋に戻った時には、すでに話題は移っていた。食後の茶を出すと、熱いにもかかわらずリシャールが一気に飲んだ。酒の追加をしなかったところを見ると、喉が乾いていたというよりも、早く食事を終えたいように思えた。




 王弟殿下たちが退出し全ての片付けが終わったのは、すでに夜も深くなった時だった。

 ロイはまだ起きて執務をしていそうな気もするが、雑用係の僕がこの時間に訪ねるのはよほどの緊急時以外ありえない。実際は親友だから普通に入れるが、誰かに目撃でもされたら困る。正体が露見してしまうというより、暗殺者と誤認されかねないからね。


 ということで宮殿の外にある家に帰ったら、いるはずだと思っていた妹の靴がなかった。収納棚の中にも見当たらない。

 ジュリエットに確認したいが、この時間に起こすのは悪いし……。申し訳ないと思いつつ妹の部屋の扉を叩いたが返事はなく、少し覗いてもいなかったので、彼女が外出しているのは確実だろう。ジュリエットは寝ていたので、何か問題があったわけでもなさそうだ。


 まさか王都へ向かった? だがいくらエステルが若いとはいえ、長時間の馬車は体に負担がかかる。夜中に到着するとなれば襲われたりする危険性も増す。

 そんな無謀な真似は――妹なら……するな。しかし、この時間に行ったところで、ルグランは表向きは普通の喫茶店だから開いてないだろうし、そもそも何か裏があるというのも、完全に僕たちの推測の域を出ない。

 使用人たちが寝ているところをわざわざ起こすのはエステルなら遠慮しそうだが、王都にあるバクランド家の屋敷に泊まって、明日(あす)の朝から活動するつもりなのかもしれない。


 仕方ない……妹とはいえ彼女も子供ではない。むしろ冷静だし優秀だ。どちらにせよこの時間では大した情報は得られない。今夜は寝て、朝から動いた方が効率が良い――無理やり自分を納得させた。

 音を立てないように寝巻きに着替えて寝る準備をしてベッドに入ると、疲れのせいか自然と眠りについた。

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