疾走
言のトゲの力を借りて、アバルはどうにかゴブリンの偉い人から森への立ち入り許可を取った。
一行が城を下りれば、ユーイと抜け殻とはお別れだ。
「すぐ戻るから」
抜け殻がそう言い残し、薄暗い石造りのトイレへと消えた。
その背中を見届け、アバルは従者車に足をかけようとしたユーイの細い腕を掴んだ。
「ユーイ」
「えっ、ちょっと……?」
アバルはユーイを物陰に引き寄せると、その耳元で短く、至近距離で何かを囁いた。
その言葉を聞き、アバルの顔を見て、ユーイの目が大きく見開かれる。
ユーイの喉が小さく動き、互いの視線がしばらく交錯したままとなった。
アバルは彼女の返事を聞く前に、ユーイの背中に手を添えた。
そして、待機していたゴブリンに、抗う間も与えずユーイを連れ去らせた。
それから、アバルは手際よく従者車の座席に細工を始めた。
城付近に予め隠しておいたユーイの精巧な替え玉を、座席に押し込む。
そして、上からひざかけを頭まで被せた。
その間、里芋は一切を見て見ぬふりで過ごしていた。
戻ってきた抜け殻は、ユーイの身代わりの足をチラッと確認すると、疑いもなくその隣に腰を下ろした。
それとほぼ同時に、従者車が音を立てて動き始める。
木道をゴブリンの従者車が颯爽と駆け抜けていく。
抜け殻一人を乗せて。
国境に到着するまでは、抜け殻はユーイがいないことに気づきもしないだろう。
アバルは遠ざかっていく車輪の音に耳を澄ませた。
そして、アバルは里芋と従者車に乗って、抜け殻の後を追った。
◇◇◇
「アバルさん」
里芋が肘でアバルを小突く。
アバルはその時、ユーイが反対側の国境へと無事に逃げ切った夢を見ていた。
「気づいたみたいです」
「ん……」
アバルは遥か先で、右往左往している影が見えた。おそらく抜け殻だろう。
そのままどうするのかと思ったら、元来た道を走りだした。
想定外の抜け殻の行動に肩を揺らしてしまうアバルと里芋。
「あの人、なんで車を使わないんですかね」
「わからん」
抜け殻の走り方も特徴的だ。
膝を高く上げて全力疾走。まるで宙を駆け上がろうとしているみたいだ。
抜け殻に気づかれないようにするため、従者車の日除けを下ろすアバル。
笑いをこらえようとするも、横を通りすぎた時の抜け殻の表情にアバルと里芋は、思わず吹き出してしまった。




