矜持
鉄格子の内側。石畳の広間でアバルとガルバスが食事をしている。
ガルバスが一足先に食事を終えると、カフカの食器を取りに行った。
アバルは鉄格子の外に気配を感じ、ゆっくりと顔を上げた。
足音もなく現れたのはユーイだった。
アバルは何も言わずに静かに怒っていた。
自由を自ら投げ捨てたユーイの思考を、全く理解できない。
食事を終え、真っ先にユーイの部屋に行く。
「なぜ戻ってきた?」
部屋の入口の石椅子に座っていたユーイは静かに首を振った。
「これは、私の矜持の問題です」
その瞳には、後悔の色など微塵もなかった。
それがユーイの、最後の言葉となった。
◇◇◇
ある日の昼下がり。
アバルは立ち尽くしていた。
微動だにせず、ただ一点、彼女の穏やかな横顔を見つめる。
いつものようにユーイは石の椅子に腰かけているようだった。
光を浴びて透けるほど白い髪、瞼、肌、首、指、爪。
もし今、ユーイに触れてしまったら。
伝わるはずの熱がなかったら。
その瞬間に、ユーイが永遠に動かなくなる気がした。
アバルは、ユーイに触れること、近づくことさえできなかった。
内側からせり上がってくる熱い塊。
それが瞳からあふれ出ることを、アバルは許せなかった。
アバルは、ゆっくりと右拳を固め、壁を殴りつける。
じわりと赤い液体が滲み出し、指を伝って床に落ちた。
アバルの拳は、ボタボタと鮮血を滴らせながら、さらに硬く、赤く染まっていく。
「……ア、バル……?」
いつもは傲慢で暴力的なカフカ――紅のトゲが、今は顔を白くして大人しく見つめている。
アバルの姿に、言葉を失い、ただ茫然と見つめる。
アバルは構わず、さらに拳に力を込め、壁へと打ち付ける。手の骨がきしむ。
その時。
分厚い、巨大な手が、アバルの右拳を体全体で包み込んだ。
「がまんするな……」
ガルバスが、いつになく真剣な、地を這う声で、アバルの自傷を止めようとする。
その大きな掌は、アバルの血で赤くなりながらも、それ以上の力を込めることに抵抗する。
それでもアバルはガルバスの制止を振り切ろうともせず、壁に拳を打ち付けようとする。
ガルバスの掌に、アバルの拳からその衝動が伝わり続ける。
ユーイのいなくなった、この世界で。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本作は、こちらで一旦の完結となります。
時期は未定ですが、続きが一定のボリュームになった段階で、一括投稿という形でお届けしたいと考えています。




