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三話目です!

 レッスン中のダンスの名前を告げると、ハロルド様はこれまた涼しげな顔で頷いた。余裕たっぷりな態度が癪にさわってしょうがない。


 ・・・いいですわ。その綺麗なお顔を、私が泣き顔に変えてやりますわ!! 

 後悔するがいい、ハロルド様!!


 ーーーー私の目標は、そう!


 彼の足を踏んづけること!!



 1、2、3、ふんっ!


 1、2、3、ふんっ!!


 1、2、3、オラァ!!!



 私はダンスのテンポを心の中で口ずさみながら、四拍目にハロルド様の足目掛けてヒールを当てることに全力集中した!

 けれどヒールは健気なクローバーたちに食い込むばかりで、なかなか足を踏むことができない。


 ダンス講師、アンドレアス先生との練習光景を思い浮かべ、振り付けを思い出す。そして四拍目にハロルド様の足を踏む! 

 踏むったら、踏む! 踏みつけてやるのよぉぉぉぉ!!



 1、2、ふんっ! オラァ!!


 1、2、ふんっ! オラァッッ!!



 私の踊りが下手だと言うなら、二度と私と踊りたくないように後悔させてやりますわ!!


 どんどん怒りのエネルギーが増す。

 けれどもステップを踏めば踏むほど避けられてしまう。


 そうか、正確なリズムを取ると必ず避けられてしまうんだわ。


 そこでテンポをちょっとずらし、ハロルド様の足を狙ってヒールに力を込めた!


 ーー瞬間、ハロルド様が一瞬飛び上がった。


 よっしゃぁぁ! やっとヒット! やってやりましたわぁ!! 

 痛そうな顔をしているじゃない! それっ! もっと踏むわよ!!


 今度は両足でジャンプしてダブルヒットを狙った!


 行くわよーーっ!!!!!!!



 瞬間、フワッとした。



 そして私の両足はハロルド様の足を踏むはずが、宙に浮いたままになった。


「あ・・・・あれ?」

「・・・・・ぷっ。くくくっ」


 彼は飛び上がった私をキャッチしていた。つまり、両脇の下に手を入れ、体を持ち上げているのだった。

 彼の足を踏もうにも、地面に私の足が届かない。宙ぶらりんの足を振ってみる。



 ぶんぶんぶん


 ぶんぶんぶんぶんぶんぶん



 すると私を持ち上げているハロルド様の両手が大きく震え始めた。目が合うと、途端に彼が吹き出してしまった。


「あははははは! リーネ、全然ステップを踏めていないぞ」

「そ、それは・・!!」

「私の足を踏みたかったんだろう?」

「・・・・・・」


 図星だった。でもそんなこと言えるはずもない。

 笑いすぎて涙している彼の顔から視線を逸らすと、俯いて沈黙することしかできなかった。調子に乗りすぎたことを今更だけど後悔しはじめていた。

 私の様子の変化に気づいたのだろうか? 彼は笑うのをやめると、穏やかな眼差しを私に向けて、こう訊ねてきた。


「私のことが、そんなに嫌いなのか?」

「き、嫌いとかじゃ、ないんです」


 ハロルド様が地面に下ろしてくれた。地に足がつくと、ようやく安心することができた。

 

 それにしても・・・悔しい。


 思わず唇を噛んでしまう。だってダンスしながら足を踏んでやろうと思ったのに、負けた気がするのだ。そして私の心の狭さをすごく、すごーく感じた。


 私、私、私・・・・・・・いろんな意味で、負けたのかしら。


 足元のクローバーを睨んでいると、ハロルド様の視線を感じた。見上げると同時に、背中に腕を回される感触。って、いきなりなぜ!? 

 訊ねるよりも先に、真面目な顔をした彼の唇が動いた。


「どうしたら、君に好きになってもらえるのだろうか?」

「・・・・・・」


 胸がドキドキして、全身に鳥肌が総立ちする。


 き、き、き、き・・・・・・


「気持ち悪いですわーーー!!! 私に触らないで!」


 泣きながらぶ厚い胸板を突き飛ばす! 叩く! 両手で叩きまくる! 

 けれども、私の体は彼から離れるどころか、よりきつく抱きしめられてしまうのだった。


 くそぅ、全然びくともしない!! こんな時のために、毎日お菓子ばかり食べないで筋トレしておくんだった!


 泣きながら一心不乱に叩きまくっていると、ハロルド様は顔をしかめ、それから困ったように言った。


「痛てて・・・リーネ、そろそろじっとしてくれ。それとダンスだが、最後は酷かったが最初のうちは上手だったと思う」

「え・・・?」


 上手? 

 いま、上手って褒められた?


 思わず顔を上げた。ハロルド様と視線がぶつかる。彼のことは信用ならないけれど、褒められるのは好きだ。実を言うと、褒めて伸びるタイプなのよ。ましてや苦手なダンスを褒められたのだ。もっと続きを聞きたいと、耳を傾けた。


「練習は嫌いなのかもしれないが、もう少しだけ我慢し続ければ、もっと上手くなるんじゃないか?」

「・・・・・・」

「気が済むまで俺の足を踏んでいいから、また俺と踊ってくれないか?」



 あ、足を踏んでも、いい・・?



「その・・・踏んづけても、いいのですか?」

「あぁ」

「わざと踏もうとしていたんですよ? それでも、本当の本当に、いいんですの?」

「あぁ。構わないと言っているだろう」



 ・・・・・・



「・・・ふふふっ。あはははは! 気づいてましたの?」


 思わず大笑いしてしまった。そんな気なかったのに。

 侯爵様の足をわざと踏もうとしたなんて自殺行為なので絶対笑ってはいけないのに、なんだか面白くなってきて、笑うのを我慢できなかった。

 そんな私を、彼は目を細めて見つめていた。


「当たり前だ。最初から物凄い殺気を放っていたからな」

「だって、私のことを馬鹿にするんですもの」

「俺が? まさか。そんなつもりはなかったんだが・・・」

「だって下手くそって言ったじゃないですか。でも、いいんですの。私も思いっきりハロルド様の足を踏めましたし」

「ははは・・・どうりで、すごく痛かったよ」


 顔をしかめながら苦笑する姿を見て、不思議に思った。


 なんでこの人は怒らないの? 普通こんなことをされたら、怒鳴りつけたり、軽蔑の眼差しを向けて突き放すでしょうに。

 なのに、なんで私を抱きしめたまま、笑えるのかしら?


 ハロルド様の腕に目をやる。


 温かいこの腕は・・・「敵」では無い?


「リーネ?」


 ーーーーはっ! 私としたことが、油断してしまいましたわ!

 もう一度、ハロルド様の胸を押し返して離れようとした。が、やはりびくともしない。力で勝てないのなら、言葉で説得するしかなさそうだ。


「もうっ、いい加減に放してください!」

「じゃあ、また俺と踊ってくれると約束してほしい」

「・・・・・・」


 本気?

 でも、もう一度ハロルド様の足を踏めるのなら、それもいいかもしれない。


「分かりましたわ。次こそ、最後まで踊ってみせますわ」


 彼は満足そうに目を細め、形の良い口の端を僅かに上げた。そしてようやく、腕を離してくれたのだった。

 体が自由になり、心から安堵した。


「そうと決まれば、しっかり練習してくれ」

「はい!」


 すると何故かハロルド様が頭の上に大きな丸を両腕で作った。なにをしているのだろうと思った次の瞬間、いつの間にか近くの木の影に隠れていたエナとメル、アンドレアス先生が走って来て、いきなり私の両腕をしっかりと掴んだ!


「きゃあぁぁぁぁ!! 何するの!? 放してよ! っていうか、今までの全部見ていましたの!?」

「お嬢様、練習しましょう!」

「恐れ多くも侯爵家のご子息様の足を踏んでしまうなんて〜! 練習が足りてませんよぉ!」

「一刻も早く上達させるわよ! あぁ、腕の見せ所ね!」

「いやぁぁぁ! 先生、やる気を出さないでぇぇぇ!!! エナ、メル、この腕を放しなさいぃぃぃ!!!」


 私の意思を無視して、屋敷へずるずると引きずられていく。こちらを見ているハロルド様が、どんどん遠ざかっていく。


 くそぅ、嵌められた! あの笑顔に騙された! 私のことを好きって言ったのも、きっと嘘だわ!! じゃなきゃ、こんな酷い仕打ちなんて出来ないもの! ハロルド様の、ハロルド様の、バカーーーーー!!!


 と思っていたら、いきなり彼がしゃがみ込んだ。あれ、ハロルド様?


少しだけ仲が深まったような、そうでないような・・・笑

そしていきなりどうしちゃったの、ハロルド様!?


次の更新は→16:40!


書き溜めたストックがそろそろ尽きます。一話を書くのに、やけに時間がかかるのです。

・・・でもがんばりたい! アイガッタビリーブ!

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