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四話目。書き溜めたストックの最終話です!
「全治一ヶ月です」
「・・・・・・」
ソファに座り医者に足を見せているハロルド様。
ごめんなさい・・・まさか、まさか、こんなことになるとは!!
「「大変申し訳ございませんでしたぁぁぁぁ!!!」」
お父様と一緒に土下座をする私は、カルヴァン邸の客間にいる。そしてハロルド様の右足の指をお医者様に診てもらっていた。というのも、突然しゃがみ込んだ彼の元へ駆け寄ると、足の痛みを訴えていたのだ。靴を脱いでもらうと、指先が赤紫に変色し腫れ上がっていた。
大変なことになってしまった・・・
全身の血の気が引いた。
けれど驚いてばかりいられない。エナとメルに頼んで、すぐさまお医者様を呼んでもらった。ハロルド様は平気だと断って歩こうとしたけれど、立ち上がり歩き出すと、びっこをひいていた。その姿を見た瞬間、突然おそろしい文言が頭をよぎり寒気が走った。
このまま侯爵家の騎士団長のひとり息子を家に返したら私の一族は大変なことになる!!!!!!!!
そこでハロルド様を強引に引き留め、屋敷の客間に案内した。アンドレアス先生もなぜかついてきた。まだダンスレッスンをするつもりなのかしら、困ったわ。
エナとメルから連絡がいったのだろうか? お医者様を待っている間に、出先にいたはずのお父様が血相を変えて戻ってきた。そして彼に深くお詫びし、私と一緒にお医者様が来るのを、今か今かと首を長くして待っていたのだ。
我が家のメイドたちが連れてきたのは、齢九十歳のレンガ街の町医者のおじいちゃま。
ヨボヨボのおじいちゃま先生は、しわしわの白衣を翻しながらプルプル震える足取りをしていた。私は風邪を引いた時とか、昔からこの先生に診察を受けているのだけれど。数年前に会った時よりも、歩くのがやっとのように思える・・・診察の腕の方は大丈夫なのかしら?
先生はどっこいしょと言ってゆっくり屈んだ。そしてハロルド様の足の指を見るや否や、診断をくだした。
「全治一カ月です」
「「大変申し訳ございませんでしたぁぁぁぁ!!!」」
私とお父様は冷たい床に額をつけながら、侯爵家のご子息に土下座をしていた。表向きは反省しているように見えるわね。けれど私の腹の中は、実のところ煮え繰り返っていた。
くそぅ、くそぅ! 何が悔しくて、わざと足を踏んだ相手に土下座しなきゃいけないのよぉ!!!! ・・・私が悪いんだけど。
額をつけたままでいると、頭上から穏やかな低い声音が聞こえてきた。ハロルド様の声だ。
「二人とも顔を上げてください。私は平気です。心配には及びません」
その発言を耳にしたおじいちゃま先生は、ゆっくりと腰をくの字に曲げると手を伸ばし、ハロルド様の患部をいきなり押した。すると彼は「うっ!」と呻いて歯を食いしばるのだった。
先生はその様子をチラリと見ると、二、三度頷いた。そして顎を撫でながら、しわがれ声で、驚愕の事実を言ってのけた。
「やっぱり骨折しておる」
「「こっ、骨折!!!?」」
私とお父様がハモった。その場に居合わせたエナとメル、アンドレアス先生も目をむいた。当のハロルド様は驚きこそしなかったものの、横を向き、指を組んで黙りこんでしまった。そしてしばらくすると、口を開いた。
「治療は必要ですか?」
「もちろん。足を固定し、一カ月の間は安静にしなければなりませんだ」
「それは無理だ。二週間後に討伐の任務がある」
「そうですか。しかし忠告を無視して動き回れば、おかしな方向に曲がった状態で骨がくっついたり、後遺症が残るかもしれませんのぅ」
「構いません」
いつもと変わらない、淡々とした口調だった。そして片足を庇いながらも立ちあがろうとしたーー刹那、お父様が彼の前に立ち塞がった!
「ハロルド様ぁぁ! ご無理をしてはいけません! もし貴方様の身になにかあれば、私は自責の念に駆られて生きていけなくなってしまいます!」
「自責の念? その必要はありません。この怪我は私の不注意でーー」
「いやいやいや、こうなったのは娘のしでかしたことのせいじゃありませんか」
お父様が彼を説得している間に、エナとメル、アンドレアス先生が私を囲ってきた。そしていきなり緊急会議が始まった。
「ちょっとぉ、リーネ嬢。このままじゃ、カルヴァン男爵家の評判が落ちるわよ〜。侯爵家のイケメン息子を骨折させたまま放置したなんて世間様に知れ渡ったら、大変な目に遭うわよ」
この上品な喋り方は、ダンス講師のアンドレアス先生。彼女は長い金色のまつ毛を何度も瞬きさせながら、神妙な顔つきで忠告してきた。
それを受けたエナが追い討ちをかけるように低い声音で脅してくる。
「このままでは婚約破棄されかねません、お嬢様」
「こ、婚約破棄ですって!? 恐ろしいことを言わないでよ、エナ」
「お嬢様、エナの言う通りですよ。このままにするのは、さすがにちょっとマズイ気がします・・・
あっ! お嬢様の治癒魔法で治して差し上げることはできないんですか?」
メルが突拍子もないことを言ってのけた。否定しようとしたところで、「そうだ!」という悲鳴にも似た大声が・・・
振り返ると、こちらを向いたお父様と目が合ってしまった。
「その手があったぞ、リーネ! お前の魔法で治して差し上げるんだ!」
私は自分の口の端がピクリとひきつるのを感じた。
魔法で治せ、ですって?
みんな揃って無茶を言わないでほしいわ。
ヒーラーではない人たちは知らないだろうけれど、治癒魔法は万能ではないのだ。どんな傷や怪我でも治せるというわけではない。
表皮にできた傷なら私にも簡単に治すことができる。しかし骨折となると極めて腕の良いヒーラーでなければ簡単には治せないのだ。
私は首を横に振った。
「申し訳ありません。私の実力では治せません・・・まぁ、つきっきりで治癒魔法を掛け続ければ、治らない事もない気はしますが。どなたか腕のいいヒーラーを探しーー」
「君に頼む、リーネ」
「・・・へ?」
気づけば、ハロルド様がこちらを見ていた。
頼むとは・・・どういう意味でして?
訊ねる前に、彼が説明してくれた。
「君が付きっきりで看病してくれればいい。そうすれば、ニ週間後の討伐に間に合うのだろう?」
「え? ええぇぇぇ・・・・・・あのぉ、多分のお話なんですが」
「リーネ、やりなさい!!!!」
お父様の厳しい声が飛び、思わず萎縮してしまう。
「でも、でも、私の家からハロルド様のお屋敷まで、馬車で一週間以上かかりますわ。なので通うのは無理・・・」
「馬鹿者! そもそもお前の責任だろう! そんな弱気でどうする! それに移動魔法のスクロールを使えば何度でも往復できる!」
「でもスクロール自体が高価なのに、二週間分の往復だなんて・・・どうやって準備するのですか?」
答えに困ったお父様が顔を真っ赤にして怒鳴った。
「気合いだ!! 気合いでどうにかなる! とにかくやるんだ、リーネ!」
「そ、そんなこと言われましても・・・」
怒りすぎて茹でタコみたいに真っ赤になっているお父様に続いて、エナとメル、アンドレアス先生までもが「そうだ、そうだ」と首を縦にふりながら口々にやれと命令してくる。
こうなったら、借金してスクロールを爆買いしてでもやるべきなのかしら・・・
すると、ハロルド様がみんなの声を遮るように言った。
「毎回通うのは彼女の負担が大きすぎます。無理をさせてはいけません」
「! ハロルド様!」
もしかして、許してくださる!?
*
そうしてハロルド様のお屋敷の一室をお借りして、私は住み込みで看病をすることになりました。
・・・って、どうしてこうなるのよ!!!?
「なんで!? どうして!? 私、なんでハロルド様のお屋敷で寝泊まりすることになったんですの!?」
「こうすれば、往復する手間が省けるだろう」
しれっとハロルド様が告げる。
「たしかに手間は省けますけれども!!! 私じゃなくて、もっと腕のいいヒーラーが看病すれば良いじゃないですか!?」
「いいや、どんなヒーラーよりも君の治癒魔法が俺には一番効くんだ」
そこまで言うと、ハロルド様が私の手に彼の大きな手を重ねてきた。そして低く甘い声音で囁くのだった・・・
「誰よりも君が一番好きだ、リーネ」
「くぅぅぅぅ・・・!!!!」
さっきからハロルド様に治癒魔法を掛けているというのに、なぜその間に好きだと囁いてくるわけ!? ゾッとしますわ!!
こんなことになるなんて、誰も一言も言わなかったじゃない!!!!
誰か、誰か、助けてぇぇ〜〜〜!!!!
リーネにとっては辛い生活を強いられそうな2週間の幕引きです笑
あと今日はもう一話投稿する予定だったんですが、思うところがあって引っ込めたので、本日はこれで最後の投稿になります。急な変更ごめんなさい!!
さて、何度も知らせてますが書き溜めたストックが尽きました!
ちょっとずつ溜めて、またドカンと投稿するつもりです。その時はまた、この話の後書きにて連絡しますね。
読者のみなさま、稚拙な文章にも関わらずここまでお付き合いいただきありがとうございます!
話はまだまだ膨らむ予定ですので、最後まで読んでもらえたら、本当にめっっちゃくちゃ嬉しいです。




