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今日の二話目!

 何者かの気配を察知し目を開けた瞬間、ハロルド様のどアップのお顔が私を覗き込んだ。


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 私は悲鳴を上げるや否や、ゴロゴロと横に転がり草まみれになりながら逃げる態勢を取った。それはさながら戦闘態勢のチーターのようだったに違いない。

 でもハロルド様は涼しげな顔をして私を静観している。こっちは必死なのに、よほど余裕があるみたいね。憎たらしい。


 それにしても、この殿方、私の跡をつけてきたの? うまく撒いたと思ったのに! エナとメルに私を連れ戻すように言われたってわけね。悔しいけど、日々鍛錬に明け暮れているであろう騎士を相手に、逃げ切れる自信がないわ!


 警戒していると、彼は私に向かって片手を伸ばし、静かな口調で話し始めた。まるで野獣をなだめようとする獣使いのように。


「メイドたちから話は聞いた。ダンスの練習から抜け出してきたんだろう?」

「そうです・・・分かっているのなら、見逃してください」


 と、いきなり獣使いの目の色が変わった。


「駄目だ。練習してもらわないと、私が君と踊れないじゃないか」

「ハ、ハロルド様とダンス、ですか・・・!!?」


 そうだった!

 婚約者であるこの人とは、どこかのタイミングで必ずダンスをすることになるじゃない! っていうか、そういえばそのために練習をしているのだったわ!

 息を呑み、冷や汗が頬を伝った。


 これは・・・見逃してもらえないかも。

 でもダンスは嫌だし。どうすればいいの!?


 動揺を察したのか、ハロルド様が私を追い詰めるように低い声音で訊ねてきた。


「それとも、私とは踊りたくない、ということか?」

「そ、そういう訳ではありませんの!!」


 今のは嘘。本当は踊りたくありません!


 ・・・なんて、口が裂けても言えない。だってお父様の借金と一家の命運がかかっているもの。

 本音を隠すために顔を逸らして口笛を吹いていると、気配が近づくのを感じた。目を向けると彼の大きな手が私の体にのびてきていた。



 ーーもう少しだったのになぁ。



 聞こえるはずのない声が聞こえた。刹那、唐突にひどい吐き気に襲われた。頭がグラグラし、立っているのが辛くなる。全身に鳥肌が総立ちしている。


 逃げられない。


 固く目を閉じ、身を縮こめて耐えていると・・・ゆっくりと、手が近づく気配を感じた。全身がびくりと反応し、いつ捕まえられるのかと極度の緊張に晒される。けれど頭の方でカサカサと音がするだけで、待てども待てども、何も起きなかった。

 とうとう耐えきれなくなり、おそるおそる目を開けると・・・私の頭についていた緑色の葉をせっせとつまみ取るハロルド様の姿が目に飛び込んだ。

 そこでようやく気がついた。

 彼は私に触れようとしたのではなく、私の頭についた葉っぱを取り除いているだけだったのだ。

 張り詰めた神経が、ふにゃりと緩むのを感じた。


「・・・ハロルド様?」

「無理をさせて、申し訳ない」


 何に対しての謝罪なのだろうと思った。返事できずにいる間にも、次々と葉っぱを取ってくれる。彼の行為に思わず首を傾げてしまった。

 

 私を無理矢理捕まえようと思わないのかしら・・・?


 手際良く葉を取りながら、彼が訊ねてきた。


「踊りの練習は嫌いなのか?」


 ズキンと胸が痛くなる。図星だった。

 けれど否定する理由もないから、ここは正直に白状することにした。


「そうです・・・いくら練習しても、面白くないし。嫌いなんですの」


 葉っぱが大分取れたのか、ハロルド様の手が止まった。しばらく喋らずにいると彼の口が動いた。


「俺も踊りはあまり得意じゃない」


 思わず耳を疑ってしまった。


 ハロルド様もダンスがお嫌いなの?


 彼は落とした葉っぱに目をやりながら、その場に座り込んでしまった。私も同じ様に、隣に腰をおろし、話の続きに耳を傾けた。


「でも何でもできるようにならないと、父上は許してくれなかった。父は平民の出自だ。先の大戦を終わらせる活躍をしたおかげで姓と爵位を賜ったが、元々は平民。母上は伯爵の家系だが、グレイ家は貴族たちから侮られている。

そのせいか、俺が恥を掻くことがないようにと、幼い頃から厳しく躾けられた。昔はその理由も分からず、とにかく目の前の課題を必死でこなしていた。ダンスの練習もその内のひとつだった。お陰で、人並みには踊れるようになったな」


 淡々と語っていたが、最後は小さく笑った。


 驚いた。エリート侯爵一家だと思っていたけれど、そんな過去があったのね。それに比べて私は・・・


 沈思黙考していると、ハロルド様は私の肩についた葉っぱを一枚取り、端正な顔の前に持っていくと、じっと眺めていた。

 こうして横から見つめると、やっぱりカッコいい。風が吹けばサラサラした銀髪が揺れ、氷のような青い眼差しがミステリアスに煌めいている。質の良さそうな薄手の青いマントが彼の瞳の色とよく似合うし、マントの下の鍛え上げられた体も魅力的だった。何度見ても、思わず胸がときめいてしまーー


「そんなに下手なのか?」


 え? へ、下手・・・? 

 今、下手って言われました??


 奇襲を仕掛けられた気分になった。彼の鋭い一言が私の胸を抉ったのだ。

 驚きすぎて、端正なお顔をポカンと眺めていると、彼は私に向き直り、こう言ってのけた。


「逃げるほど、ダンスが下手くそなのか?」

「そ、そんなことありませんわ! ただ同じ練習ばかりするのが嫌いなんですの!」

「そうなのか」


 大きな手が、つまんでいた葉っぱを離すと、クローバー畑の上にヒラリと落ちた。彼は立ち上がると、今度は私の顔の前に手を差し出してきた。


「では、どのくらい踊れるのか、私に見せてくれないか?」

「それって・・・もしかして、私を誘っているのですか?」

「そういうことになるな」

「・・・・・・」


 ・・・なにを、偉そうに!! 


 お顔が綺麗だからって、侯爵家だからって、偉そうに人のダンスを下手くそだと言う権利が貴方にあるというわけ!? 挙げ句の果てに、私の腕前を確認されたいと・・・!!?


 抑えなければならないのに、再び心の堤防がガラガラと決壊する音が聞こえてくる。まだ修理したばかりで、壊れやすくなっていたのかもしれない。

 私は、ゆっくりと立ち上がった。


「望むところですわ」


 彼の顔を見るや否や、闘志に火がついた! 

 そして差し出された手を力強く握った。でも彼はというと、余裕たっぷりの涼しげな顔をしているではありませんか!?


 ・・・いいですわ。私と踊ろうと思ったこと、たっぷり後悔させてやろうじゃありませんの!!!!

なぜか闘志に火がつくリーネ笑 次は婚約者との楽しいダンス回です♡


更新は14:40!

よろしくお願いします⭐︎

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