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ちょい血生臭い話なのですが、ストーリー上、大事なところなので読んでほしいです。グロ苦手な方の気分を害したら、すみません
ハロルドに声をかけてきたのは、可愛らしい女の子だった。彼女は豊かな金髪をリボンで結いあげ、くりくりとした空色の瞳が印象的な少女だった。
ハロルドは眉間に皺を寄せた。
殺伐とした救護班のテント内部とは対照的な、華やかで可憐な少女に対し違和感を覚えたのだ。しかし彼女はそのことに気づく様子がなく、彼のために椅子を用意すると、これから治癒魔法で治療すると説明しはじめた。
少女は治癒魔法を使うヒーラーだった。ハロルドはこの魔法を目にするのが初めてで、少しばかり緊張した。だが彼の視線は珍しい魔法を使う手ではなく、その顔に向いていた。
小綺麗にしている身目と、丁寧な振る舞いから、平民ではなく貴族であることがすぐに分かったからだ。だが・・・
なぜ貴族令嬢が戦場に? それに、俺より年下に見える。
疑念に駆られながら治療を受けた。
幼さの残る手が傷口にかざされた。すると柔らかな光が現れ、痛みが引いてきた。やがて傷口が塞がり怪我のあとはなくなってしまった。
初めて治癒魔法を経験したハロルドは感動し、少女に感謝を述べた。
「どういたしまして」
空色の瞳を細め、にこりと微笑んだ。
普段は必要以上に他者と話をすることはないハロルドだったが、この時は気持ちが緩んだせいか、自然と口が動いた。
「今日は初陣だったんだ」
「あら、私も今日はじめて救護活動に参加したのよ。私たち、同じですわね。これからお互い頑張りましょう」
同年代のためか、話しやすいと感じた。しかし彼女の発言に胸が痛くなった。
頑張りましょう。
その言葉を耳にすると自信がなくなり、地面に視線を落とした。そして、ポロリとこぼしてしまった。
「さっき、はじめて人を斬ったんだ」
「え?」
女の子の顔から、さっと笑みが消えてしまった。瞬間、まずいと直感したが、既に遅かった。
ハロルドの手には、人を初めて斬った直後に覚えた手応えが、救護班のテントに居る今この瞬間にも、まだ残っていた。噴き出る血飛沫と、顔にかかった返り血の生ぬるい温度。くずおれる姿と、血の泡を口から垂れ流す素性の知れぬ男。死にかけの虫のようにピクピクと痙攣しているが、彼には家族がいるのだろうか? 毎朝祈りを捧げ、男の身を案じる母親が待っているのではないか。あるいは彼を愛する恋人は? もし結婚していればスープの甘い香りが漂う温かい家があり、幼い子どもが彼の帰りを待っているかもしれない・・・
やがて男の瞳孔が開き、命が消え去った。彼の死は、彼の死だけではない。彼の帰りを望む人々の希望の灯火までもを消してしまったのだ。そして、その灯を吹き消したのは、他でもない自分なのだった。
生命の輝きが消え去るその瞬間が、一秒前のことのように、何度も鮮明に甦る。臭いと共に・・・
戦場では殺し合いが繰り広げられ、砂埃とともに鉄の錆びたような生臭い匂いが入り混じり、鼻をつく。だがそれだけではない。流れていく血が酸化すると、強烈な異臭を放ち、吸い込んでしまうと吐きそうになるのだ。その臭気は救護班のテントの中にも漂っており、自分の体の中に染み込んで、ずっと取れない気がしてくる。
死の匂いはやがて自分の中に棲みついてしまうのだろうか?
しかし一番の問題は、自らの手で人を殺めたという事実と、戦場の生み出す恐ろしい環境だけではない。
強い罪悪感こそが、ハロルドを最も苦しめるのだった。
野盗討伐、国のための戦争。聞こえは良いが、つまりは人間同士の殺し合い。正当化された殺人。その感触、臭い、正義を振りかざした悪行に対し、強烈な抵抗を感じてしまう。
だが、この思いは誰にも気づかれてはいけない。これからは、戦場に身を置かなければならないのだから。今後成長するに従って戦争に参加する機会が増えていくのは分かっていた。それは近衛騎士団長の息子であり、次期ヘルベリー侯爵を継ぐ者として、避けては通れない道なのだと、幼い頃から言い聞かされていたからだ。
彼は討伐が終わってからも平静を装った。が、実はずっと動揺し、怯えていた。
ひとりでは、とても抱えきれそうにない・・・
押し潰される寸前だった。
そこへ偶然にも、優しそうな少女に出会ってしまった。自分とは何の関係もない他人。彼女になら不安な気持ちを打ち明けても平気だろうと、たった一言だけ、こぼした言葉。
聞き流してくれてよかったし、弱虫と軽蔑してくれた方が楽だった。だがその発言のせいで彼女から笑顔を奪ってしまうと、途端に後悔した。
それだけでは済まなかった。
ハロルドが後悔した次の瞬間には、彼女の瞳からポロリと涙がこぼれ、静かに頬を伝い、顎を滴った。
まさか自分のせいで、女の子を怖がらせた挙げ句、泣かせてしまうとは。全く考えてもみなかった。
どうしてあんなことを口走ったんだろう・・・
不甲斐ない自分を悔やみ、謝罪しようとした時だった。幼さの残る手が、ハロルドの手を、ぎゅっと包んだ。
顔を上げると、いつの間にか涙を拭い、小さく微笑みかけてきたヒーラーの少女。そして彼女は、小声で何かを呟いた。が、聞き取れなかった。
何を言ったのか全く予想がつかなかった。自分の行いに対し、彼女は何を感じ、どんな言葉を口にしたのだろう。訊くのが怖い気もしたが、訊かずにはいられなかった。
ハロルドはおそるおそる尋ねた。
「・・・いま、なんて言ったの?」
「おまじない。私のお母様が、いつもこうやって、ケガをしないようにと魔法をかけてくれるんです。けっこう効きますよ」
にっこりと笑いかけてくる女の子。
思わず拍子抜けしてしまった。続いて、よくある気休めの常套句を口にしただけという事実に、がっかりしてしまった。
そんなもの、効くわけないのに・・・
そう思ったが、朗らかな笑顔と、柔らかく温かい手の感触に、不覚にも口元が緩んでしまうのだった。
「リーネ、手伝ってくれる?」
「はい!」
テントの入り口から別のヒーラーが顔を覗かせ、女の子の名前を呼んだ。幼いリーネはハロルドの手を離し立ち上がると、「行かなくちゃ」と言い残して背中を見せた。が、振り返ると再び微笑みかけた。
「さようなら。もう怪我をしないようにね」
汚れのない、一輪の花のような笑顔だった。
別れの挨拶を済ませたリーネは、テントの入り口に駆け寄ると、苦渋の色を見せる兵士を支えて椅子に案内しはじめた。座らせると手当てに取り掛かるため、先輩ヒーラーから鎧の脱がし方の説明を受けている。その眼差しは、真剣そのものだった。
*
救護班のテントを出たハロルドは、先ほどの出来事を思い出し、呆然と立ち尽くした。
あの女の子・・・リーネは、俺に怯えて泣いてしまったのだろうか? でもそれなら、なぜ手を握り、まじないをかけてきたのだろう。なぜ何度も俺に笑いかけることができたのだろう。
あの子は、なぜ涙したんだろう?
・・・いくら思案しても分からなかった。やがて彼は胸に手を当てた。
変だな。さっきからここが痛い。
俯くハロルドの耳に、何者かが近づいてくる足音が届いた。
彼が顔を上げると、騎士団員のひとりが目の前に立っていた。
「ハロルド様、お怪我は治りましたか?」
「・・・はい」
小さく頷くと、彼は心のうちを読まれないように平静を装った。幼い頃から不安や恐れを隠すために、表情を出さず、心に仮面を被る場面が多くあった。それは侯爵家の後継ぎを作り上げようとする大人たちから自分の心を守るための、本能的に身につけた防衛手段だった。
そうして彼は、毅然とした態度で、何事もなかったかのように、兵士とともに野営地へ戻り始めた。
次で今日最後の更新です→17:50!
よろしくお願いします⭐︎
それと全然関係ないのですが・・・
若い人は知らないかもだけど、スーパー懐かしの『パラッパラッパー 』というゲームの主人公のパラッパーを描きました⭐︎ 画像が大きすぎて、めちゃくちゃびっくり!!!! これ良くないわ。でも直さない。
存在は知っていたけど最近初めて内容を知ったこのゲーム。ゲーム機を持ってないので実際にやったことはないんだけど、めっちゃ沼っております。
何が良いって、楽曲が最高なんです! 洋楽が好きなんですけど、全曲名曲! いや、まじで!! 作業しながらひたすら聴いてます。
お話がドロドロしてたので、気分転換にパラッパー を載せてみたのですが・・・知らない人はYouTubeで見て癒されてほしい! そして知ってる人は、是非シャウトしてください!!
アイガッタビリーブ!!!!
大幅に脱線してごめんなさい。
では次回の更新もよろしくお願いします⭐︎




