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本日二話目です!

 作物をついばんでいた魔鳥たちは、仲間の断末魔に気がつき顔を上げた。彼らの視線の先には、ひとりの赤い人間ーー修羅を宿したハロルドがいた。

 彼らは兜の隙間から覗く碧眼と視線が交わった途端、目を逸らしガクガクと小刻みに震えはじめた。しかしその中で、一匹だけハロルドを凝視する魔鳥ーー左目の下に傷のあるリーダー格の魔鳥だけは、しっかりと仲間の仇を見据えていたのだった。が、次の瞬間には羽を大きく広げ、畑から飛び上がった。彼の手下もリーダーに続いて次々と畑から飛び去りはじめる。撤退するつもりなのだ。

 すかさずハロルドが叫んだ。


「逃すな!」

 

 彼の号令に従い、近くにいた弓兵たちは矢をつがえると次々に放った。ブンという鈍い音が空を切り裂き、オレンジ色の体目掛けて飛んでいく。矢が命中し、落下する魔鳥たち。しかしリーダーの魔鳥はジグザグと飛行し、器用に避けてはぐんぐん上昇してしまう。

 ハロルドはノートンに馬を用意するように命令した。瞬間ーー


「みんな、撃てーー!!」


 先ほど蜘蛛の子を散らすように逃げていた農民達がいつの間にか集まり、空に弓を構えて一斉に放った。


「クェェェェ!!」


 いくつかの矢が命中し、鮮やかな体を貫いた。落下する魔鳥たち。だがリーダーには届かなかった。彼は既に弓矢では届かない上空まで浮上し、群れの先頭を飛行していた。仲間を誘導し陣列を整えながら逃げに徹しているのだ。



 上空に浮上し遠ざかっていく魔鳥の群れ。その数は多く、農民達は今回も魔物たちを仕留められなかったことに落胆し、みな下を向いて歯を食いしばった。


 また逃してしまった・・・

 懸命に作物を育てても、またあいつらがやって来て、全部食われちまうのか?


 畑に目をやると、無惨に食い散らかされた作物があたり一面に転がっていた。本来ならば、日中に収穫して市場へ出荷するはずだっただけに、痛恨の極みだった。

 だが隊員たちの目は、まだ空の彼方を見つめていた。農民のひとりも天を仰ぐと、彗星の如く現れた羽の生えた白馬が、魔鳥たちの陣列に猛烈な速さで近づいていくのが見えた。

 羽の生えた白馬ーーそれはペガサスだった。そしてその背には、剣を構えた赤い騎士の姿があった!



 ペガサスとは、真鍮の蹄と白い翼を持ち、空を駆ける稀少な白馬である。彼らは滅多に人前に姿を現さず、北の大地の一番大きな雪山に住んでいると伝えられているのだが。

 ヘルベリー近衛騎士団の団長はそのペガサスを何頭か生捕りにすることに成功していた。そして調教、繁殖し、いずれは飛行騎馬隊を作る計画を立てているのだった。計画を実現するためには、実戦においての有益性を検証する必要がある。そこで今回の魔鳥討伐に、ペガサスを用意していたのだった。


 大空を自由に舞う魔鳥は、飛翔している間はほとんど無敵だった。天敵といえば、種族の異なる魔鳥か、飛竜などが主なのだが、この辺りの空の縄張り争いでは飛竜を見かけることはない。幸運なことに、自分たちより体の大きな魔鳥もいなかった。

 リーダー格の魔鳥は巣に戻る帰路に就きながら、数日後に再び畑に舞い戻ることを考えていた。

 彼は新しく立ったばかりのリーダーであり、頭の中は群れを繁栄させることでいっぱいだった。夏から秋にかけては繁殖の時期であり、メスを肥やす必要がある。そのため食料が不可欠であり、ひと月前に上空から食糧源を偵察していたのだが、ちょうどいい場所を見つけた。人里近くに大量の野菜があったのだ。

 そこで閃いたのが、人間の畑を襲うことだった。人という種族は良質の作物を育てることに長けているのだ。だが彼らだって食糧を守ろうとするだろう。

 だから最初は、おっかなびっくり畑を襲った。だが回を重ねるごとに、よく考えて出し抜いてしまえば、人間の仕掛ける罠など恐るに足らないと実感しはじめていた。

 このまま栄養を摂り続けることができれば、今年は多くのメスが卵を産むに違いない。


 ーー刹那、背後の視界に地上にいるはずの敵が現れ、警戒の号令を叫んだ。



「キィーーーーー!!!!」


 耳をつんざくような鳴き声だった。直後に、リーダーの背後を飛翔していた魔鳥たちが、次々と攻撃を仕掛けてくる。ハロルドはペガサスを操り、鋭い鉤爪を避け、剣で薙ぎ払った。

 魔鳥たちは美しい流線型を描きながら攻撃の手を休めようとしない。虚を突くために、剣身に青炎を纏わせ振りかぶった。狙い通り鳥たちは炎に驚き、ハロルドから一定の距離を保つと陣列を崩し始めた。

 リーダーの魔鳥は攻撃を諦めると、号令を変え、追手を巻くために旋回しながら急降下をはじめた。後方の魔鳥部隊もそのあとに続く。

 気づけば八の字を描くような美しい飛翔を繰り返していた。

 ハロルドはその一定の動きにすぐ気がつくと、ペガサスを操り群れを追うように飛翔しーーなぜか追い越してしまった。そして美しいターンを描くと、今度は魔鳥の群れへ真っ向勝負を挑んだ。

 彼はリーダーの動きを目で追いながら、心の内で数を数え始めた。


 5、4、3、2、1・・・


 刹那、リーダーがいるであろう空間に、渾身の力を込めて剣を振り下ろした。



 遠くから見ていたハロルドの部下たちは、一連の出来事を地上から見守っていた。


「さすが隊長。戦意を失くした魔物にも容赦がないとは」

「あの魔鳥たちも気の毒だ。結構利口だったのに、相手が『戦場の修羅』だったのが運の尽きだったな」

「他の隊だったら逃げきれたかもしれないのに。可哀想なヤツら」


 みなが天を仰いでいると、ペガサスがふわりと地上に舞い降り、隊員たちに近づくいてきた。空を駆け回ったばかりのため荒々しく息を弾ませる白馬。その背に乗ったハロルドの左手には、目の下に傷のある魔鳥の首が。その両目と嘴は、驚きと恐怖のためか、ギョロリと大きく開かれていた。

 おぞましい表情の生首が、ノートンに突き出された。


「畑の前に晒せ。そうすれば、しばらくの間は魔物たちも近づいてこないだろう」

「しょ、承知いたしました!」

 

 兵士たちは慌てて太い木の棒を見つけてくると、畑の近くに棒を立て、ノートンがその先端に生首を刺した。


 農民達は近衛騎士団の討伐隊員たちに深く頭を下げて礼を述べた。けれどその一方では、怯えていた。

 隊の指揮を執っている、赤く染まった鎧の男。彼は兜を脱ぐと、銀髪の髪を左右に振った。ひどく端正な顔立ちをしていることに驚いたが、その碧眼からは慈悲の心を微塵も感じることができなかった。そのうえ、魔鳥の返り血を浴びても拭おうともせず、血まみれになりながら戦う姿は夢に出そうだと体が震えた。


 彼は敵だけでなく仲間うちからも、非情で冷血、戦闘狂だと噂されていた。戦場でその姿を見た者は生きて帰さないことから、通り名は「戦場の修羅」だった。

 シャスティスの令嬢たちの間では銀髪の貴公子ともてはやされていたが、こちらこそが、ヘルベリー侯爵の子息、ハロルド・グレイを表するのに最も相応しい呼び名だった。


◾️15,16話のまとめ

 無事に魔鳥討伐を終えたハロルド様。彼の通り名は「戦場の修羅」で、しつこく敵を追い回す騎士として有名です。令嬢たちからは「銀髪の貴公子」なんてエレガントな呼称で持てはやされてますが、実際の人物像とは雲泥の差があるのでした。


⭐︎次話更新→12時です!

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