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本日最後の投稿です!

 朝食を済ませると書斎に向かった。仕事に取り掛からなければならなかったが、最近あることが気がかりでならなく、今日もエンジンが掛かるのに時間を要する気がするのだった。


 カルヴァン男爵は書斎に入ると、右手にある棚を見やった。上部分は本棚になっており、街の経営に関する書類をまとめたファイルを並べている。下部分は開き戸で、これまでの領主ーー父の代以前の書類を箱に詰めてこの中に保管していた。

 男爵は本棚に手を伸ばした。棚にはおびただしい数のファイルがぎっしりと並べられており、その横に書類を平置きでしまえる大きさの引き出しを置いている。未分類のものや、こまごまとした雑貨なんかをしまっているのだ。その一番下の段に手を伸ばすと、手前に引いた。

 中には数枚の手紙と銀貨が一枚。それと半分に折られた白い紙が、一番上に置かれていた。紙は、あるリストを書いたものだった。その紙をつまみ取ると、丁寧に開いて、中に目を通しはじめる。左右に目を動かし、何かを確認していく男爵。やがて彼は、あることに気がつき眉をひそめた。


 やはり、そうだ。名前が載っていない。


 彼が確認していたのは、リーネの縁談の手紙を送った宛名のリストだった。

 そこには知り合いの貴族や名門貴族の名が連なっている。ヤケクソで作業していたから、伯爵家や侯爵家にも手紙を送った覚えはある・・・が、詳細は覚えていなかったのだ。

 そこでリストをもう一度調べてみたところ、驚くべきことに、ヘルベリー侯爵の名前はなかった。

 男爵は首を捻るしかなかった。


 手紙を送っていないのに、なぜ返事がきたんだ?


 幸運が舞い込んだと思った娘の縁談。当初は舞い上がってしまい、このおかしな点に気づかなかったのだが。顔を見たこともない、ましてや近衛騎士団を抱える極寒の地ヘルベリーに住む侯爵に、手紙を送るわけがなかったのだ。

 しかし相手に手紙を送っていないとすると、どういった経緯でヘルベリー侯爵に届いてしまったのだろうか? 

 郵便配達人の間違い? だがそれなら、宛名を読んだ時点で返却されるか捨てられただろう。それが偶然にも侯爵家の執事の手に渡り、侯爵に届けられ、中身を読まれた。そしてあろうことか、ヘルベリーとは何の縁もない、シェニパーの田舎貴族の娘を嫁にすることを決めたのだ。

 しかし、その決断が、彼らになんの利益をもたらすのだ?

 男爵家にとっては奇跡のような縁談だが、侯爵家は大切なひとり息子の結婚が掛かっているのだ。必ず利益が生じるはずなのだが・・・それが見当たらない。奇妙すぎる。この縁談は、どこかおかしい。

 もしかしたら、思いもよらぬ誰かが裏で糸を引き、何かを企んでいるかもしれない・・・


 コンコン。


 ノックの音と共に、妻がドアを開け中に入ってきた。その手にはコーヒーカップを載せたトレーがあった。私が書斎に入ると、何も言わずにコーヒーを淹れてくれるのが彼女の日課だった。

 仕事机の上にはまだ書類を出していなかったため、中央の位置にコーヒーカップが置かれた。


「ありがとう。ところで、君に聞いて欲しいことがあるのだが」

「なんですか?」

「ヘルベリー侯爵にリーネの肖像画と手紙を贈っていないのに、どういうわけか手紙の返事が来て婚約することになった。なぜだと思う?」


 妻は目を丸くして、夫の顔を凝視した。それからゆっくりと、首を傾げるのだった。


「さぁ。どうしてかしら? でも私たちの可愛いリーネが結婚するんだもの。このまま未婚を貫き通すと思っていたから、私、今は心から安心しているのよ。だから、細かいことは気にしなくていいんじゃないですか?」


 幸せそうに目を細める妻の顔を見ると、男爵の杞憂は吹き飛んでしまった。


「それもそうだ。考えすぎは良くないな! 体に毒だ!」

「そうですわよ。気楽に構えましょう」

「「あははははは!」」


 心地よい笑い声が書斎に響く。

 笑いながら、男爵は思った。理由なんかどうだっていいのだ、と。

 何より大事なのは、家族の幸せなのだ。侯爵家と繋がりができ、その結納金で新規事業への投資金を確保することもできた。いずれは可愛らしい孫の顔を拝むことになり、一族に新たな幸せが訪れる未来が待っている。

 その事実さえあれば、少しくらい不自然な点など、目をつぶってしまえばいいのだ。


 再びノックの音が書斎に響いた。


 カルヴァン男爵が返事をすると、ドアが開きエナが一礼した。


「ご主人様、お客様がお見えです」

「あぁ、そうか」


 約束の日は今日だったか、と、壁に貼ってあるカレンダーに目を向け、左手の指で顎をさすった。それからコーヒーをひと口含むと、客人に会いに行くために書斎をあとにした。

 玄関に向かうと、黒いシルクハットにワインレッドのモーニングを着た男が立っていた。彼の胸元には、蛇と羊の紋様があしらわれたネックレスが光っていた。


明日も投稿するので、お付き合いいただけたら幸いです!

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