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本日、二話目です!

 青い目を細め、口角をあげて微笑むハロルド様。そのお顔の周りは、紺碧の海に降り注いだ日差しの煌めきの如く、神々しく光り輝いていた!


 くううっ・・・! 眩しい!!

 イケメンの微笑みは、なんて威力なの!? キラキラし過ぎて正面から直視できないわぁぁぁ! 


 ・・・って、見えない力と戦っている場合じゃなかった。


「なぜご存知なんですの?」

「ヘルベリーにも君の名が届いているからだ。既に知っていると思うが、盗賊団の討伐に人手が足りない場合は、聖東騎士団、聖西騎士団、そしてヘルベリー近衛騎士団の部隊が協力し、互いに応援を出すことになっている。その時に救護班が共に活動することがあっただろう? もしかしたらリーネは、俺の部下たちを治療してくれたかもしれない。礼を言う」

「・・・いえ、そんな。お礼だなんて」


 あ〜・・・私ったら、有名になってたのね。


 無意識に苦笑いしてしまう。


 って、世間話をしてる場合じゃないですわ。ハロルド様はこのあと討伐に行かなければならないのだから、早く帰ってもらわないと。


 私はこれから魔物と対峙する婚約者のために、胸の前で両手の指を組み、常套句を述べた。

 

「ハロルド様、お怪我をされないように祈っております」


 口にしながら、以前見かけた魔鳥の姿を頭に思い浮かべた。

 シェニパーとヘルベリーの国境上空で頻繁に見かけるオレンジ色の魔鳥は、その体色が目立つこともあり、数回だが、遠目に見かけたことがある(これは前回の話でも述べた通りだ)

 害のない鳥と比べて体が非常に大きく、長い鉤爪で兵士を引っ掻き、敵の体を足で掴んで持ち上げて落とすことができるほど力が強い。特に彼らの嘴は鉄の鎧を貫通するほどの威力があり、つつかれて鎧ごと皮膚を抉られた兵士たちが救護班のテントに担ぎ込まれることもある魔物である。


 私は指を組んだまま、小さな声でおまじないを唱えた。

 ヒーラーの時によくしていた、治療を終えた人がまた怪我をしないようにと願いを込めて唱えていたおまじない。その癖がまだ残っていて、自然と口が動いたのだった。

 おまじないを終えると、ハロルド様に笑いかけた。


「大きな怪我をしないように、お祈りしましたわ。無事に帰ってきてください。私、ここであなたの帰りを待っています」


 組んでいた指を外し、手を下ろそうとすると・・・ハロルド様の右手が私の右手をぎゅっと握った。手を引っ込めようとしたけれど、がっしりと握られて微動だにしない。私はおそるおそる訊ねてみた。


「ハ・・・ハロルド様?」

「リーネ、君に祈ってもらえるなんて思いもしなかった」

 

 まっすぐに私を見つめる眼差しが熱い。下を向いて視線を逸らすと、今度は左手を添えてきた。大きな掌で、私の右手を完全に包みこむ。

 その手はハロルド様の顔の前まで運ばれ、そのまま僅かに両手を開いた。何度目かと思うのだけれど、手の甲に唇が触れる感触がした。

 生ぬるい温度に、ゾゾゾと鳥肌が立ち瞼を伏せた。


 嫌だって言ったのに、また口付けを・・・!


 再び内側から怒りが湧き上がるのを感じる。私は感情を抑えられないまま目を開いた。

 刹那、私の手をしっかりと両手で握り、甲にキスを落とすハロルド様の姿が目に飛び込んできた。彼は瞼を閉じていたが、私の視線に気づいたのか、上目遣いの青い眼差しを向けてきた。

 その瞳は驚くほど青く澄んでいた。けれど背筋の凍りつくような冷たさを孕んでもいる。怖い。けれども、恐れずにもっとよく目を凝らして覗きんでみると・・・いまにも氷を溶かしてしまいそうなほどの、深い情愛のようなものを感じた。


 驚いて言葉も出なかった。

 ハロルド様の私に向ける視線は・・・なんというか、奇妙だ。


 しばらく見つめ合ったあと、彼は私の手を離し、背筋を伸ばした。


「行ってくる」


 青いマントを翻すと、いつの間にか懐から出していた魔法スクロールを開いて、あっという間に消えてしまった。


 彼がいなくなり、見飽きた田舎の街の景色が視界に広がった。鶏の大きな鳴き声を耳にして、ようやく我に返った。

 また手の甲にキスされてしまった。けれど、断れなかった。

 ふと、令嬢たちが冷血漢と噂していたことを思い出し、首をかしげた。


 彼女たちが話していたあの噂は、本当なの? グイグイ近づいて来るし、冷たそうに見えるけど、違うような気もするし・・・

 あり得ないとは思うけれども、まさか本当に、私のことが好き? 

 貴族令嬢たちに黄色い悲鳴をあげさせる、あの銀髪の貴公子様が? 私なんかを・・・?


 いやいや! そんなわけないわね!!!!

 美しい令嬢なんて、星の数ほどいるわけだし!


 思い切り否定しながらも、なぜか悪い気はしなかった。ただしこれからも定期的に婚約者として会うのならば、仮面夫婦になることは無理な気がしてきた。それは私の望んでる結婚生活ではないのだけれども・・・


 そしてもう一つ気になることが。ハロルド様は私が救護班にいたことをご存知だった。

 なぜ侯爵家が男爵家に求婚するのか疑問に思っていたけれど、その見返りは治癒魔法使いが欲しかった、ということなのかしら?

 シャスティスではヒーラーになれる素質を持つ者の数は少ないのだ。希少価値はある。けれども私はそれほど優秀な能力を持つヒーラーではないし、そもそも治癒魔法の使い手を手中に収めることが、婚姻で得られる権力よりも重要なのだろうか? 本当に? どうもこれでは納得できない・・・


 沈思黙考していると、背後から声が聞こえてきた。


「お嬢様! 朝食ができましたよー!」


 振り返るとメルが手を振っていた。


「いま行くわー!」

 

 大声で返事を返すと、お腹の虫が鳴った。今日の朝食はなにかしらと考えた時、再びハロルド様のお顔が浮かんだ。


 彼は今朝、何を召し上がるのかしら。我が家に寄り道したわけだし、もしや食事をとれていないのでは?


 だんだん気が気でなくなってきた。お父様との茶番劇などは見せずに、朝食にお誘いすれば良かったと罪悪感が込み上げてきて、両手で顔を覆いうつむいた。


 もしまた朝早くに来ることがあれば・・・その時は食事にお誘いしようかしら。そうしたら、好きな食べ物が何か訊けるわね。うん、次はそうしましょう。


 顔を上げ、屋敷に戻ることしにした。玄関に続くアプローチを歩きながら、ふと、口の端が緩んでいることに気がついた。即座に両頬をバチンと叩くと、「なんでニヤついてるのよ!?」と自分を律した。


「ほっぺに何かついてたんですか〜?」


 少し先で私を待っているメルが首を傾げて訊ねてきた。気の緩んでいる自分に喝を入れていたのだと言い掛けたが、では、なぜ気が緩み微笑んでしまうのか? ・・・正直に言って、自分の気持ちが分からなかった。

 結局、朝食を食べ始める直前まで考え続けたのに、納得のいく答えは出なかった。

次話更新、15:30です!

引き続きよろしくお願いします⭐︎

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