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おはようございます! ゴールデンウィークが始まりましたね。もっと早く投稿するつもりが、思いのほか時間がかかっちゃいました。ごめんなさい! 話を忘れてしまった方のために、前回のあらすじをどうぞ↓
◾️自分より身分の高い婚約者の頬をビンタしたリーネは、父親と共に愚行を後悔し、号泣していた。その際に、結納金を新事業の投資金(高額)に充ててしまったことを知り真っ青になるリーネ。そこへ、タイミング悪くハロルド様がやって来てしまうのだった・・・
早朝に屋敷を訪れたハロルド様は怒っている様子だった。瞬間ーー
「申し訳 ございま せーーーん!!!」
お父様がハロルド様の前に突進し目にも止まらぬ早さで土下座した! 意表を突かれた彼は、目をみはってお父様を見下ろした。
「不出来な娘のしでかしたことのために、わざわざ足を運んでくださったのですよね!? 大変申し訳ございませんでした!! 婚約破棄でしょうか!? それとも娘を修道院にぶち込めば良いのでしょうか!!? お転婆じゃじゃ馬娘ですが、私にとっては可愛い娘なのです! どうか、どうか命だけはご勘弁を!!! 何を差し出せば許して頂けるでしょうかぁぁぁぁぁ!!! 我が家はおしまいだぁぁぁ!!!」
「お父様、本当にごめんなさい! 私が、私が至らないばかりに土下座をさせてしまってぇぇ・・・!!」
えんえんえんと泣く私たち親子を見て、彼は呆気に取られ、何も言わずに立ち尽くしていた。
謎の空白の時間が一分ほど過ぎる。と、ハロルド様が声を発した。
「・・・なにか勘違いなさっているようですが。
私は今日討伐に行くので、その前にリーネの顔を見に来ただけです」
私とお父様はむせび泣くのをやめ、顔を上げた。
「と・・・討伐??」
「はい。このあと、ヘルベリー領を荒らす魔物の討伐に向かいます」
え? 婚約破棄を言い渡しにきたわけじゃないってこと・・・?
お父様はヨロヨロと立ち上がると、私にも起き上がるようにと手を差し伸べてきた。皺の目立つようになった節くれた手を握ると、どうにか立ち上がることができた。と、お父様が異様に明るい声音で笑い始めた。
「いやぁっっはっはっはっはっ!!!! お見苦しい姿を見せてしまいましたなぁ! いや、歳を取ると、早とちりしてしまって! いやいや本当にお恥ずかしい!!
ほら、リーネ! ぼさっと突っ立ってないで、ハロルド様が待っているんだから、ふたりで話をしてきなさい!」
さっきまで号泣していたお父様に背中をバンバン叩かれ、私は言われるがままにハロルド様と歩き始めた。
ふたりで肩を並べて家の門の手前までやって来た。が、醜態を晒した手前、なんと声を掛ければ良いか分からなかった。彼の方もずっと無言。
あぁ・・・会話もなく気まずい時間に耐えないといけないなんて。心苦し過ぎて、地獄みたいな状況だわ。なにか言わないと。
思案しようにも、あっというまに屋敷の門の下に着いてしまった。互いに向き直ると、さらに戸惑ってしまう。
今度こそ何か言わなきゃ・・・
「あの、昨日は本当に、申し訳ございませんでした。私、混乱してとんでもないことを・・・」
「いいんだ。気にしていない」
と言い切る割には無表情だった。おまけに随分と無愛想な言い方のように思えた。けれど、気にしていないと聞き、ひとまず胸を撫で下ろした。
心が広いのね。あぁ、本当に良かった。
鬼のように怖い視線を飛ばしてくることもあるけれど、お咎めもなしに許してくれるようだし、ここは素直に彼の言葉を受け取りましょう。
黙っていると、今度はハロルド様の方から話しかけてきた。淡々とした口調に、思わず背筋を伸ばしてしまう。
「ここは穏やかな土地だ。年中雪の降るヘルベリーと比べて、温暖で植物も多い」
「へっ? ・・・ええっと、そうでしょうか? 私にはただの田舎街にしか思えませんが」
「見慣れていると、その美しさには気づきにくいのかもしれない」
「そうなのでしょうか。私にはヘルベリーの雪景色の方が美しく見えましたけれども・・・」
欠伸が出るほど見飽きてしまった街の風景を見回してみた。
我が家からよく見えるのは、お父様の右腕として働く小作人たちの家と、作物の生い茂る畑。その一角は、先日収穫したばかりで茶色い土が剥き出しになっている。そして畑の隣には、近づくと糞の匂いの漂う鶏舎。風向きによっては屋敷まで届く鶏舎臭。やだ、ガッツリ田舎だわ。恥ずかしい。なのに、この風景が美しいだなんて。
見えすいたお世辞だわ。でも、嬉しくないわけじゃない。
チラリとハロルド様のお顔を見上げると、ずっとこちらを凝視していたようで驚いてしまった。
彼は私と視線が合うのを待っていたようだった。それだけでも驚きなのに、あろうことか、冷たい眼差しが一変し、青い瞳が細められ、僅かに目元が微笑んだ気がしたのだった。思わずドキリとした。
彼は口を開いた。
「戻ってくるのに一週間ほどかかる。その前に、君を一目でいいから見ておきたかった」
「・・・一目、見たかったのですか? まだ会ったばかりの私に、なぜそんなことを言ってくれるのですか?」
「それは・・・」
「・・・・・・」
それは、なんなのよ?
そこが知りたいのよ。何の魂胆があって私に近づいてくるの?
しばらく待ってみたけれど返事はなく、ハロルド様の耳が薄っすらと赤く染まっただけだった。
なに? どういう反応なの、これは?
よく分からなかったけれど、それにしても、本当に頬を引っ叩いたことは気にしていないように思えた。あぁ、本当に良かった!
安心すると言葉が湧き出てきて、自然と口をついて出た。
「そういえば、討伐はどちらまで行かれるんですの?」
「グレイ家の管理する谷だ。魔鳥が現れ、近くの村や街の作物を狙っている。村人の被害も出始めているから、急がねばならない」
「魔鳥ということは・・・シェニパーに近い隣国との境にある谷ですね。心配ですわ。あそこの魔鳥といえば、オレンジ色の体の魔物ですよね? 賢く凶暴だと、よく耳にしています。実際に遠くから見たこともありますが、怖くて近づけませんでしたの」
ここまで話して、貴族令嬢が自分の住む領地からずいぶん離れた土地の魔物の生態について知っているのは、おかしいということに気がついた。そこで慌てて付け加えた。
「じ、実はですね・・・私、数ヶ月前まで聖東騎士団の救護班に所属してましたの。貴族令嬢が戦場に赴いていたなんて、不謹慎に思われるかもしれませんが。私は幼い頃から治癒魔法を使えます。だから令嬢としての評判が悪くなることを覚悟の上で、救護班で働いていたのです」
本当は、別の理由もあるのですけれど。
それは伏せて、言葉を続けた。
「私はヒーラーとして働けたことを誇りに思ってます。怪我を負った兵士を治すことで、シャスティスのために貢献できたのですから」
「君の活躍は知っている」
え?
ハロルド様の顔を見上げた。刹那、私は思わず目を細めてしまった。
⭐︎今日の更新
13話→12時10分
14話→15時30分
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