素性を調べるべき人
千紘の話を聞いた後、静寂が辺りを包む。
「……どうして僕のことを調べたの?」
咎めるような口調ではなく純粋な疑問だったようだ。昨日、扉前で佇んでいる記者と話していた内容を聞き疑問に思ったことを話す。
「お、もしかして俺のせいか?」
ゲラゲラと笑う男はやっぱり不審者感が拭えなくて千紘の傍にすすっと寄る。そんな菜緒の様子を嬉しそうに眺めた千紘と美樹だったが、菜緒達の言葉に目を見開く。
「一昨日、多分可那子さんが同じ内容の記事をコピーしてました」
「係員の話じゃ、それだけコピーして慌てて入り口にいた男に渡したって。なぁ?」
「う、うん。私が見つけたもう1枚のは見てなかったっぽいね。あ、でももう一人コピーしてたって……」
勇気と沙世が順々に続けた所、記者が手を挙げる。
「それ俺だ。俺も昨日コピーしてコイツに突き出してた」
何ともう1人は記者だったようだ。誰だか分かりホッとした反面、紛らわしいことをしないで欲しいとムッとする。
千紘は話された内容について考えているのか、腕組みをしてカウンターに寄りかかり目をつむっている。
その姿が樹とダブり、やっぱり樹を演じていたんだと実感していく。そして樹が生きていると見せかける考えに到った千紘や美樹の心情を考えると、胸に悲しさや寂しさが宿ってしまう。
「美樹さん……」
「菜緒ちゃん。巻き込んでごめんね」
こんな時でも優しい。首を横に振り笑顔を見せると、ぎゅうっと抱き締められる。小さな声でありがとと言われ、互いに微笑みあった。
千紘は……と見ると、考えが纏まったのか顔を上げる。
「以前、福山さんを尾行したことがあって。その時も男性と会っていた。恐らくその人が図書館の入り口にいたんだと思う」
「えっ?」
旦那さんのことを疑っていて、シロだと知り安心した様子を見せていた。2人の今後の幸せを考えていたのに、何だか裏切られた気分だ。
千紘は尾行していた時にケーキ屋前で見たらしい。
「あれか……」
何か思い付いたのか菜緒を見る。
「あの男性、菜緒ちゃんと一緒に会ってる」
「え?誰ですか?」
「えーっと、記者の人がまだ素性も知らなくて……」
「ああ、俺が通報された時か」
「で、通報受けて俺が来た」
記者と刑事は息が合うのかゲラゲラと笑っている。千紘は苦笑いを見せながら頷く。
「ケーキ屋の前でもその時も、独特の足音を立てていた。恐らく左足が悪いんだと思う」
「そんな偶然凄いわね」
「うん。でも、偶然じゃない。彼が通報した時も僕と菜緒ちゃんを観察してたんだと思う」
「観察?」
「彼は不審者がいなくなって、その場に僕もいるのに留まろうとした。もちろん心配してって可能性もあるけど……警察が来た時に念のため名前を確認したりするでしょう?それで僕の名前を知れると期待した可能性がある」
「でもどうして?」
美樹の疑問は当然だ。何を思ってそう言っているのか。この場にいる全員が千紘に注目する。
「菜緒ちゃんの依頼の時、菜緒ちゃんがあの人にぶつかっている」
「……ぶつかって」
菜緒の依頼はミナミ探し。確かに人にぶつかった。
「彼は荷物を受け取って、僕の顔を見て驚いていた。樹の知り合いかと思ったけど、誤魔化す言葉だけ言っていたね」
あの時はモデルか何か聞かれていた。別段それが不思議に思わないほど樹演じる千紘はモデルのように格好良い。やっぱり千紘も格好良いんじゃないか……と思ったのは頭の片隅に置いておき、千紘の言葉をじっと聞く。
「その後も樹のスマホに連絡もなく、何回かチャンスは会ったのに話しかけて来なかった……」
だから最初の出会いは本当にただ驚いただけかと思っていて、今の今まで記憶の奥底に眠っていたようだ。それでもその些細なことまで記憶に残っているのは凄いと思う。
「ソイツの素性調べるか?」
「お願いします。福山さん……以前依頼に来た人と不倫関係だと思われます。彼女を言葉巧みに動かす話術があるかもしれない」
「ん?てことは、その女は嵌められたってことか?」
「それは分かりませんが……依頼をするよう仕向けたのは彼だと思います。お忙しいとは思いますが、よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げる様子に目を瞬かせた記者は、昨日もそのくらい素直ならなぁ……とぼやく。
「君たち、警察としての忠告。常に誰かといなさい。暗くなったら外に出ない。万が一出たとしたら、なるべく徒歩以外。お金がかかっても良いからタクシーを頼みなさい」
真面目な顔で注意事項を話してくれる姿に緊張感が増していく。
不安そうな高校生達の姿を前に、千紘は3人を見回し頭を下げた。
「君達の不安を直ぐに解消出来るよう頑張るから……ごめん」
テスト週間なのに。まだ高校生なのに。ただ興味本位だっただけなのに。色々と考えが出てきて頭の整理がつかない。
だから、送ろうか?という千紘の言葉を初めて断ってしまう。息を呑んだように声を詰まらせた千紘の顔を見たくない。
気にしてません。信じてます。それは真実な筈なのに喉の奥に引っ掛かっている。
「気を付けて」
「今日は俺たちが送るから」
「おう、変質者が送ってやるからな」
ニヤリと笑う記者に沙世と勇気が笑う。
美樹はまだ残るようで、手を振って別れる。
まだ不安は沢山あるけれど、きっと大丈夫。そう信じて今日は帰るしかない。




