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秋の話  作者: ¡no pasarán
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12/21

ギュスターヴ

 穴倉の階段を一人の男が上がってくる。夜である。露天の壕は地下水道のように暗く、厚い雲に覆われた空に、月は見えない。

 男が射撃台に腰を下ろすと、夜空に遠い恒星が上がった。緩衝地帯に敵影がないか確かめる為、監視哨が打ち上げる照明弾だ。

 雲の下の輝きを受けながら、男は一通の便箋に目を落とした。親しい友の、母からの手紙だ。

 男の名はマテューといった。今まで友人の母から手紙を送られたことはなかったが、軍隊、それも前線で受け取るとることになるとは思ってもみなかった。

 火薬の弾ける響きに続いて照明弾が炸裂し、手紙の文面が明るく浮かび上がった。落下傘を開いた照明弾は、少なくともマッチよりは長く照らしてくれる。

 マテューは、自分へと書かれた言葉の一つ一つをゆっくりと拾って行った。

 何処か線が細く、熱帯植物のように寒さに弱く且つ渇きに堪えられない。友人の母は、自分の息子についてそのように表していた。マテューは手厳しい母だと思ったが、実にその通りだとも感じた。

 友人はまた、自分と比べてサボテンのように逞しい戦友──コートドールの大男──についても、よく手紙に(したた)めていたらしい。それによれば、“あのような類の野生人を、僕は見た事がありません”とのことである。

 新石器時代から人の住む町で育った自分の何処に野生があるのか。マテューは眉をひそめつつ読み進める。

 そこには友人の母からマテューへの感謝、そして懇願が続いていた。母は息子を心配したが、彼は稀にみて丈夫な戦友がいるので大丈夫だと返した。そうすればまず生き残れ、帰ることが出来ますと。もし居たとすれば、あのような男が兄というのではないかと。そして母は、そんな頼りない一人の青年、息子をよろしく頼みますと、銃後の生活がそう豊かとは思えない中、小瓶とはいえジャムを送ってくれたのだ。


 ──兄。

   そうか、俺とやつとは、思ったより尊い間柄だったらしい。

   俺はてっきり自分を、やつに日陰を与える大木のように思っていた。

   しかしその実、やつは小さな、本当に僅かな泉だったんだろう。

   知らず知らずの内、俺はその泉から潤いを貰っていた。

   だから俺は、背に厳しい日射しを受けても、真に渇くことがなかったんだ。

   ああ、寂しいぞジュール。俺は遂にお前を名で呼ぶことがなかった。

   お前の名は似合わなかった。それに、すぐお迎えが来そうだった。

   だから、ジュール(神の子)と呼んだのさ。


 マテューの背を、照明弾の輝きが明るく照らし出す。


 ──ジュール。

   お前は緑の海で溺れちまった。

   ほんの少し、マスクを着けるのが遅れたんだ。

   ジュール。こいつは真剣な話だ。

   俺は、お前を見つける。

   必ずお前を見つけ出してやるぞ。

   そして、今度こそギュスターヴ(神の助け)と呼んでやるぞ。


   ギュスターヴ─おわり

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