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超えられない季節(僕の心臓がとまるとき)  作者: 秋山 冬夏


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6/13

あきという名の孤独

はるとの「失踪」から、二年の月日が流れた。


季節は三度巡り、水戸の街には再び冷たい秋の風が吹き始めていた。

あきは、建設現場での激務を終えた後、毎日のように一通のメールを、誰もいないアドレスへと送り続けていた。


『はると。なつは、少しずつ笑うようになった。今日は職場の同僚とランチに行ったらしい。お前がノートに書いていた通り、あいつは「俺たちへの憎しみ」を燃料にして、なんとか前を向いている。……でも、俺はもう、自分の顔を鏡で見ることができないよ』


あきは、はるととの約束を守り続けていた。

なつが生活に困らないよう、彼女が知らないところで彼女の仕事の仲介をし、台風の日には彼女のアパートの様子を遠くから見守った。

なつからは今も「はるとの共犯者」として蔑まれ、無視され続けている。


ある日、あきはなつの職場近くのスーパーで、彼女の姿を見かけた。

なつは、はるとが好きだったカレールーを手に取り、一瞬だけ動きを止めた。

けれど、すぐにそれを棚に戻し、無機質な表情でレジへと向かう。

その背中は、はるとが願った「再生」とは程遠い、ただ感情を凍らせて生きているだけの、氷の彫像のようだった。


(……これで、いいのか。はると)


あきは、自分のポケットに入っている、はるとからの「最後の手紙」を握りしめた。

そこには、はるとの病状がいよいよ末期であり、意識が混濁し始めていることが記されていた。


(なつを、あいつに会わせるべきじゃないのか。……いや、そんなことをすれば、はるとの二年間はすべて無駄になる。俺たちのついた嘘は、永遠の嘘として墓まで持っていかなければならない)


あきは、千波湖の三番目のベンチに向かった。

夕暮れ時、人影のまばらな湖畔。

あきはベンチに座り、裏側をなぞった。


『Summer never ends』


はるとが命を削って刻んだ、あの文字。

その指先に、なつの微かな温もりが触れた気がした。

振り返ると、そこには、信じられないものを見るような目で立ち尽くす、なつの姿があった。


「……あきくん。あなた、そこで何をしてるの」


なつの声は、秋の風よりも冷たく、あきの心臓を射抜いた。

あきは、咄嗟に手を離した。

けれど、なつの視線は、あきの手が触れていたベンチの「裏側」に釘付けになっていた。


「……見せて。あきくん。そこに、何があるの」


なつが、一歩、歩み寄る。

あきは動けなかった。

真実という名の怪物が、水戸の街の暗闇から、ついにその頭をもたげようとしていた。

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