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《最強》になりえない彼が、《最恐》と呼ばれる理由  作者: 岡部雷
日常も、昔はそうじゃなかったかもしれない
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昼食戦線・後編

今度からはもう少し投稿頻度があがりそうです。

 この弁当の争奪戦も、最初は、公平にジャンケンで決めようとした。

 ところが、一人が抜け駆けをしようと画策したことにより、事態は一変した。

 《迷彩》の能力者が、こっそりと弁当箱を持ち出そうとしたのである。それに気づいた《個体操作》の能力者が、弁当箱を〈操作〉した。

 宙を舞った弁当箱を、全員が血眼になって目で追う。


 最初に動いたのは、宇田川だった。

 能力もさることながら、彼は反射神経に優れいている。いち速く跳躍し、弁当箱に手を伸ばした。



 が。



「うおっ!?」



 死角から、何か熱を感じた。

 ギリギリで回避すると、火柱が天井まで届いて焦げ目を作る。



加藤(かぁとう)ぉっ! てめぇ――」



 彼の意識がそれた瞬間、弁当箱の行方が不明になる。

 次に弁当箱に手を伸ばしたのは、《気体操作》の能力者の女子。

 弁当箱周辺に風を起こして、軌道を自分の手前に変更する。


 が。


 《気圧操作》の能力者である男子が、別ベクトルの風を起こしたことにより、彼女の目論みは崩れる。

 そしてずれた軌道の先で



「オーライオーライ!」



 手を《巨大化》させた別の男子が、受け取りの体勢をとっていた。



「よっしゃぐわあああああああああああああああああっ!?」



 巨大な手が、鈍い音と共に床に叩きつけられる。

 しかし、誰かが上に乗っているような様子はない。

 彼の手に起こった事態は、



「くっそてめえ、《重力》か……!」



 更に別勢力の妨害があった。

 《重力操作》の能力者である男子と手を組んだのは、宇田川。


 そのまま再び弁当箱に向かって跳躍するが―――



「ぶべらああああぁぁぁっ!?」



 どこからか現れた、大量の水。

 しかも、熱湯。



「桐山ぁ、(ひいらぎ)ぃ……、殺すつもりか?」



 前者は《液体操作》、後者は《温度操作》。触れたものの温度を自由に操作できる。

 熱湯はそのまま、窓の外に投げ捨てられる。



「その弁当は女子がもらう! 男子に取られるよりはいい!」



 桐山が高らかに宣言した。

 その宣言が終わると同時に、漁網が男子勢に向かって投げられる。投げたのは、《物質生成》の能力者の女子。



「オラァッ!」



 宇田川が怪力で網を引きちぎる。

 その穴から脱出を図ろうとするが、そこに向かって、一人の女子が突進してくる。


 その女子の能力は、《速度操作》。今の彼女は、自動車を越える速度で男子の塊に突っ込んでくる。


 しかし、宇田川は、近くにいた一人の男子生徒の首根っこを掴むと。



「ぐええええっ!」



 不幸な目に遭った男子生徒は《柔化》の能力を持つ。

 受けた衝撃をある程度受け流すことができる。

 とにかく、ダメージは軽減した。



「こうなりゃ戦争だ! なんとしても弁当を―――」



 が、肝心の弁当がない。


 全員が辺りを見回す。そして一点に集中した。


 弁当箱が中に浮いている。

 そのまま教室の入り口に動いていく。



「「「「「待てやコラァァァッ!!!!!!」」」」」



 男女入り乱れて弁当を追う。

 だが。



「なんだこりゃ……!?」

「動けない……!」



 全員の動きが止まる。



「ごめんね~、弁当はうちらがもらうから」


「「「「「や、山田ァァァァァッ!!!!!!」」」」」



 彼女の能力は《伝達操作》と呼ばれる、人の運動神経に干渉できる異能力だ。

 その力で、弁当箱の運搬役以外の生徒が全て、動きを封じられていた。

 運搬役の女子も、《透明化》で姿を隠している。



「よし、(あおい)ちゃん、戦利品の分配といこ―――」



 教室の出口を見た山田の顔が、いや、その場にいた全員の顔が硬直する。


 鬼のような形相を浮かべた、クラス一の美少女がいたのだ。




 ◆◆◆



「食べ物を粗末にするなーーーーーーーーーっ!!!!!!」



 二瓶さんが一括をいれると、クラスの全員がビクッとした。



「能力使って取り合いなんてしたら、せっかく作った弁当がぐちゃぐちゃになるでしょ!? 食べたいのは分かるけど、もっと平和に解決してよ!」



 普段は笑顔でいるだけに、まわりに与えた影響は底知れず。



「そ、そうだな……」

「ごめん、ちょっとやり過ぎた……」

「やべ、片付けないと」



 おお。

 平和が訪れた。


 結局、弁当のおかずは一品ずつ、じゃんけんで分配することになった。

 ちなみに、クラス20人中、太一、俺、二瓶さん、伊藤、あと教室から逃げた女子一人を除いた15人。

 弁当の品物は、おにぎり二つ、鳥胸肉の唐揚げ三つ、ブロッコリーとプチトマトのマリネ。

 マリネの具材が細かいお陰で、全員に行き渡った。



「……!」

「……!」

「……!」



 たった一品。たった一口。

 それしか食べていないにも関わらず、クラスが再び沈黙した。

 本当に美味しいものを食べた人間は、なにも喋らず味を堪能するのだ。

 食レポをしている人も、本音では「静かに食べさせて!」と思っているのではないだろうか。


 あとで聞いたところによると、太一の実家の食堂は、ネットで話題が広まった、超人気店らしい。その代わり、テレビの取材は一切断っている。

 情報によると、父親はフランスで修行を積み、母親は和食の一流店で腕を振るっていたと言う。

 恐ろしいまでの料理人家族だった。


 ……俺の記憶が正しければ、どちらかの祖父が軍人だったはずなのだが。



 ◆◆◆



 太一が自宅に戻ってきたときには、日はもう沈もうとしていた。

 時間がないという理由で、今日はうどんだった。

 シンプルなぶっかけうどん。



「なんか俺の弁当のせいで大変だったみたいだな。悪ぃ」


「それは別にいいよ、で、生徒会に誘われたのか?」



 ご相伴に預かりながら、それとなく聞いてみた。



「う~ん、なんか俺が把握してなかった勢力があるみたいで、それを討伐するのに協力しろって」


「ふーん」


「正直、俺としてもおまえの方が適任だとは思ってるんだけどな」



 別に呼ばれなかったからと言って、俺は怒っているわけではない。

 むしろ面倒事が少ないなら大歓迎だ。



「たった二人に、そこまで本気にならなくてもいいような気もするんだけどな」


「二人?」



 なんでも、学校で唯一、生徒会に牙を剥く二人組がいるのだとか。



「生徒会と全面対決か。結構な見ものじゃねえか」



 もう一つの戦いの火蓋が切られる日も、そう遠くはないようだ。



 ◆◆◆



 生徒同士の醜い部分まで露見することになった今回の戦争は、意外な終着点を見せた。


 後日、珍しく太一が弁当を作らなかった。

 料理が生活の一部どころか、やらないと落ち着かないと豪語する彼がだ。



「何があったんだよ?」


「まあ、昼間になれば分かる」



 昼休みなり、学食に向かうと、物凄い人だかりができていた。



「あれ、学食ってあんなに混むもんなの?」


「いや、普段は多いときでもあんなには……」



 一緒にいた宇田川や伊藤も、首をかしげていた。

 太一は人混みを掻き分けて進んでいく。

 俺たちも急いで雑踏に身を投じた。

 並ぶのかと思いきや、太一は定食を頼むわけでもなく、一直線に目的地に向かった。


 日当たりのいい席には、4人分の定食セットが並んでいた。



「なにこれ?」


「おまえらのメシ。俺の分もあるけど」



 不思議に思いながら、豚カツを口に運んだ。



 途端に、箸を落としそうになった。



「こ、この味は……!」



 間違いない。太一が作る料理だ。

 しかしどうやって?



「おー、やってるねえ。なるほど。こんだけがっついてくれるなら、争奪戦が起きるのも納得はいくねえ」



 少し男勝りな、女性の声が聞こえる。

 声のした方を見ると、食堂の制服に身を包んだ、ショートカットの美女がいた。

 でも、見覚えがある。わりと最近。



「真田舞子(まいこ)です。うちの愚弟が世話になってます。ここで働くことになったんで、よろしくね」



 太一のお姉さんだった。弟と顔がよく似ているが、まー美人。

 二瓶さんの場合は「カワイイ」も含まれているが、このお姉さんは「キレイ」に全振りしたような感じだ。



「こ、この人、太一のお姉さんなのか!?」



 欲望に忠実な宇田川が、鼻息を荒くしている。



「悪いねー、そこの男子。悪いけど、あたし既婚だから」



 宇田川の願いは脆くも崩れ去ったが、その日以降、食堂の盛況は以前にも増していったという。

次回は8月18日の投稿です。


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