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《最強》になりえない彼が、《最恐》と呼ばれる理由  作者: 岡部雷
日常も、昔はそうじゃなかったかもしれない
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昼食戦線・前編

 戦争の始まりというのは、意外にもしょうもない理由だったりする、というのが俺の持論だ。

 ほんの小さな出来事のせいで、世界を巻き込むときもある。

 しかし、今日の戦争に限って言えば、そうでもないような気がする。



 ◆◆◆



 結局、伊藤と太一は放課後まで戻ってこなかった。

 昼休み直前、俺の端末に〈俺の分の弁当はやる〉と書かれたショートメールが送られてきた。

 が、たまたま飢えに耐えかねて早弁してしまっていたので、結構お腹が一杯だった。


 ちなみに、俺の弁当も太一が作ってくれている。春休みのお礼だと本人は言っていた。

 おまけに、実家の食堂の永久タダ券までくれた。適用、俺個人だけだけど。

 律儀なのは結構だが、ここまでされると今後が不安になる。

 というか、そのせいかクラス(特に一部の女子)で噂がたっていた。

 その腐りかけの想像はやめた方がいい気がする。


 しかしこの弁当、どうしよう。



「あれ、それ太一の弁当じゃん」



 俺が鞄を漁ったのを見咎めたのか、宇田川が寄ってきた。



「いや、あいつがくれるって言うからさ。でも俺、腹一杯だし」


「タダ飯かよ、せっこいなあ」



 いやおまえらだってタダで飯食えるじゃん。


(※この学校のものは、全て税金で賄われています。ただし、器物損壊の賠償など、法律に触れるものは別です。「主人公、部屋の壁ぶっ壊してなかった?」とのご指摘があるかと思いますが、主人公は言い訳をきちんと考えています。そのエピソードはまたいずれ)


「食いたかったらやるよ。無駄にするよりはいいだろ」


 思えば、これが火蓋を切る行為だったのだ。


「ちょっと待って!」


 女子が一人割り込んできた。

 陸上選手のような、細く引き締まった体つき。

 日焼けしているせいか、歯が真っ白に見える。

 確か、名前は佐藤、だったような。


「いらないなら、うちにちょうだい!」

「ああ、まあ、別にいいけど……」


 彼女に渡そうとしたが


「おぉい、それはおかしいだろぅ?」


 宇田川がガッチリと俺の腕をつかむ。


「先に声かけたのは、俺だぞ?」

「いや、欲しいとか言ってなかったじゃん。じゃあ、二人で決めろよ」


 ジャンケンでさっさと決まる。




 はずだった。




「お、俺も食いたい!」

「私も!」


 なぜか、クラスから続々と声が上がる。

 学食なり購買なり自分で作るなり、方法はあるだろうに。

 争奪戦を任せることにした俺は、どこかから視線を感じた。


 二瓶さんだ。

 彼女は眩い笑顔のまま俺を見て、顎をドアの方に降る。そのまま布袋を持って、自然な動作で教室を出ていく。

 付いてこい、ということだろうか。

 喧騒を後にして、俺は二瓶さんに続いて教室を出る。

 行き先は、屋上のすぐ手前の踊り場だった。

 二瓶さんは人気がないのを確認すると、袋の中身を俺に押し付けた。


 なんと、弁当箱。もちろん中身入り。


「食べてくれる?」

「俺が?」

「他に誰がいるの?」


 あまりにも澱みのない返事。

 落ち着け、俺。言葉は慎重選ぼう。


「俺、他人の恋を応援したいとは思うけど、これは彼氏にばれたらまずいんじゃないかなあ?」

「大丈夫。あなたが思ってるよりは、あたしたちの腐れ縁は凄いから」


 腐れ縁って、ポジティブな意味で使っていいのだろうか。


 俺は弁当の中身を観察する。いかにも健康志向な人が考えそうな、野菜メインの弁当だ。タンパク質は卵くらい。

 見た目はいい。

 匂いも悪くない。

 なんで俺に食わせるんだろう?


 ……あれだろうか。

 メシマズヒロインなのだろうか。

 略してマズイン。

 彼氏に食べさせる前に、俺に毒味役をさせるつもりだろうか。

 ご丁寧に割り箸まで用意している。

 勇気を振り絞って、卵焼きを一つ取って、口に運ぶ。


「……美味しい」


 とても美味しいだし巻き玉子だった。


「で、これを俺に食わせた意味は?」

「多分、明日の弁当に、同じ卵焼きが入ると思うから、味が同じかどうか検証してほしいの」


 ほほう、なるほど。

 納得させるクオリティではある。


「しっかし、よくメニューの予想なんてできるね。俺なんて毎回驚かされてばかりだから、そんなの考えもしなかった」

「多分、私が今日、機嫌が悪いの知ってるから。そういうのの次の日って、あたしが好きなこれになる確率高いんだよね」

「え、二瓶さん機嫌悪いの?」


 全くそんな素振りを見せていない。

 完璧に隠しきっている。


「あの牛女……」


 あれえ、なんか今、すっごい怨念のこもった声が聞こえてきたような。

 それにしても。

 ……牛女?

 昔読んだ怪談に、人面牛の話があったけど、それとは違う気がした。


「ねえ、優哉くんから見たら、あたしってどう映る?」

「完璧美少女?」

「違う違う。もっとこう、男子高校生っぽい視線で」


 ……答えづれー。

 今まで、彼女の顔や性格は確かに完璧だと伝えてきた。

 スタイルだって、悪くない。


 そう、悪(・)く(・)な(・)い(・)。


 スレンダーなのだ。

 女性からすれば、羨ましいモデル体型だろう。

 しかし、世の中の女性のほとんどがそうであるように、彼女も、自分の体型は気に入っていないようだった。


「太一ってさ、イケメンじゃん? 今は坊主にしてるけど、それでもカッコいいって分かるでしょ。付き合ってるのは最初から隠してるから、中学の時も他の女が寄ってきてさ」


 半分以上惚気にしか聞こえないが、彼女の評価は正しいと思う。

 交際を隠していたということは当然、周りの人は太一をフリーだと思ってもおかしくないわけで。


「3年の時に、太一に気に入ってもらおうとして、結構露骨にアピールする人がいたんだ」


 そこから先の話は、若干R18に引っ掛かりそうなので割愛する。

 要するに、体を使って誘惑してきたのだ。

 キーワードは、プールの更衣室(夏)。

 あとは想像にお任せする。


「いくら太一があたし一筋って言ってもさあ、育ち盛りの男子じゃん? で、実際そいつに興奮したかどうか聞いたんだよ」


 あの馬鹿、まさか欲望に正直になってしまったのか?


「『ふくらはぎとうなじがイマイチだった』って」



 ……

 …………



 あいつが二瓶さん一筋な理由って、これじゃね? と本気で考えた。

 うなじは髪で覆われているので分からないが、足は美脚だ。


「でも、マッパで寄ってきたら男ってムラムラするんじゃないの? 誤魔化されたようにしか聞こえなかったから」


 どう返事をするか迷ったが、


「……でも太一は大丈夫だよ。二瓶さんとの生活のために、必死になってるんだから。確かにあの先輩は男子高校生の欲を刺激するスタイルかもしれないけど、足ちょっと太かったし」


 友人を信じることにした。

 本当の災難がこの後やって来ることを、知らないまま。



 ◆◆◆



 教室に戻ると、何やら騒がしい。


 廊下にはクラスメイトの小柄な女子が、不安げな顔で中を見ている。

 俺も中を覗くと、なぜかバトルロワイヤルが勃発していた。

 二瓶さんが彼女に声をかける。


「何があったの?」

「さ、真田くんのお弁当の争奪戦が、始まっちゃって。でもなんか、みんな、おかしくなって」


 よく見ると、男女入り交じって太一の弁当を狙っていた。

 自分の能力を全力で解放して、ヤツの料理を狙っている。


 《火炎操作》の能力者が、全身に炎を纏って体当たりを繰り返し。

 《個体操作》、《液体操作》、《気圧操作》、《気体操作》が本気で争っているので、教室の中のものはグチャグチャだ。

 他の能力者も入り交じって、カオスだった。

 最終的に、《伝達操作》の能力者が、全員の動きを止めたところまでは見えた。



 ……弁当一つでなんでそんなにムキになってんだ?

 俺がそんなことを思っていると、二瓶さんが笑いながら立ち上がる。


「あはははー、おかしいねえ。弁当ごときでなにをそんなにムキになってるんだか」


 二瓶さん二瓶さん。






 声も体も震えてる時点で全然隠せてないよぉ!!!!!!





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