セパルという女について
「よくいるんだよ、珍しいからって私を書こうとする人達 悪いけどお断わ」
「美しく綺麗だからです!」
男は筆を決して離すことなくセパルの発言を遮るように答えた。
「わ、私が!?美しい…?」
「はい!何を動揺してらっしゃるのか分からないのですが、俺の目にはお美しい姿が写っておりますよ?」
セパルは恥ずかしそうに、口元を手で隠しながら顔を赤くした。
「…まぁ、少しだけなら書いても良いぞ。」
そう語る昔のセパルをどこか懐かしみながらこれからおこる展開を知っているセパルは透明な壁から見ることしか出来なかった。
「どこだ!磯女 この街の人々に取り付きおって!我々が退治してやる!」
画工が絵を完成させて、街に売り出した頃 爆発的に人気になったその絵は隣町まで浸透しており その中で磯女がこの街にいると勘違いしたとある岡っ引きがセパルを退治しようと大きな声を上げながら湖に現れた。
(な、何事じゃ…?)
セパルは何が起きているか分からないまま、湖に潜り、息を潜めることしか出来なかった。
大声を出す岡っ引きの声が聞こえなくなった頃、セパルはゆっくりと水面から顔をあげた。
するとそこには顔がアザだらけになっていた画工が良く集まってた場所に立膝で座っているのが見えて、画工に波の音を立てないようにゆっくり近づいた。
画工はアザで膨らんでる目元からゆっくりと湖を見つめるとそこには身体を潜めながら頭だけを出してるセパルがおり、2人は目を合わせた
「おい、画工何が起きとんじゃ」
セパルは画工にだけ聞こえるような小声で問いかけた。
「あいつ、隣町の岡っ引きでさ 家に急に上がっては十手で、こっぴどく殴ってきやがって 殺されたくなかったらここを描いた場所を教えろって 言ってきやがったの…ここを売ってしまってすまんな」
今誰よりも体を傷つけられて辛いはずなのに画工はセパルに頭を下げた。
「気にするな、それよりあんたは大丈夫なのかい?」
心配するセパルに顔をあげ
「おうよ、俺はこんなんで挫けるわけには行かねぇのよ この街一番の画工だからな」
と男は自慢をするように両腕を組みながら月を見つめた。
「画工や、私に名前を教えてくれないか?」
「俺かい? 俺は 関谷 獅子之助 先程名乗った通り、この街1番の画工よ」
セパルは画工の名前を胸に刻むように両手で右胸を抑えながら目を瞑った後
「セキヤ…来世までその名を忘れないぞ」
と言いその場で微笑んでる獅子之助に微笑み返した。
「ここはもうじき、人々が通えなくなる…、俺も名残り惜しいが仕方ねぇ また会う時にはまた別の水を使った和妻を見せてくれよな…さぁ!行った行った!」
獅子之助はセパルにそう約束し、手を払った。
セパルはもう少しそこに留まりたかったが、近づいてくる足音に気づいて湖の深海へと潜り込むようにその場から立ち去った。
セパルは深海に潜る際 湖の外から聞こえる必死に抵抗する獅子之助の声に涙を1粒流しながら深く、さらに深くと深海へ泳ぎながら潜り続けた。
零した涙は水色と橙色に輝く魚のような鱗へと成り代わりセパルとは逆方向に浮き上がって行った。
「―きろ、起きろ!!」
セパルは涙を浮かべながら横になってる体のまま目を開けた。
目に写っている光景は現代の夜談湖に月明かりが水面を照らされている風景だった。




