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一章 朝に紅顔ありて夕べには白骨となる②

『早速お聞きしますが、アナタ一体何を代償としました?見たところによれば、身体的なものでは無さそうですネ…視覚聴覚も良好、ともすれば…』


 失礼!と微塵も思ってなさそうに言いながら、腕をいきなりギュゥとつまんできた。こう書くと、子供のちょっとした悪戯程度のように見えるだろう。しかし実際は、エグい程皮膚が伸びてる。大人の力で全力でやってんじゃないのかコレ?

 皮膚は痛いと言っている。何なら反射で痛ッ!!と言ってしまった、私は痛みの信号が来るのを待つ。…が、何故か、何も来なかった。確かに皮が引っ張られ赤くなっているが、痛みどころか触れられている感覚さえないのだ。

 いや今に限った話ではなかった。此処に来てからずっと、何かを触った感覚も痛覚もわかなかった。恐怖のせいだと思っていた、私が混乱しているだけだと。…そう考えればさっきの男は、ただ頭がおかしいだけと思っていたが確かな行動原理が見えるような気がした。床を這い、私の声が聞こえず、只々藻掻くのみ。なら転移で代償となったのは、


『感覚、でしょうね。しかし今回は魔法陣による転移だったため代償が2分割された。アナタは触覚と痛覚を失いました。良かったですネェ、目と耳じゃなくて。』


いや、触覚がなくなるのも結構な痛手だし舐めるなって話だけど…いちいち言っていたらキリがない気がして一旦は流すことにした。


『先に行っておきますが、私の世界を旅する目的はとある探し物デス。探し物は、プライバシーがあるので言いませんケドネ♪まァ機会があればお教えしましょう』


 そう言ってピエロは私の手を引き、ゆっくり歩き始めた(とは言っても足の長さが違いすぎるので、私の早歩きくらいの速さではあるが)。ていうか何処向かってるのこれ…



 元々ミミズといい勝負をする私の体力は当たり前の様に尽き、

「ちょっと待って…」

「いや待とうよ!私少女!さっきまで死にかけてた、可哀想な少女!」

『オヤオヤ…おんぶ必要ですか?』

「いやRTAしてんの?休憩させてよ…あと初対面でおんぶが許されるのは余程のイケメンだけだと思う。私の世界で貴方みたいな現身は、ロリコンって呼ばれてる。名誉だよ、名誉。」

『…傷つキまシタ。ロリコンっていう言葉は此方にも存在しますヨ』

「あら、意外。あと傷ついた顔してるんならその仮面投げ捨ててその面拝ませてよ」

『貴方さては強かデスネ??』

みたいな攻防を途中で挟みつつ歩く。正直後半は嫌がらせである。


 しばらく歩いた後、ピエロはある位置で止まった。一見何の変哲のないように見えた其処は、何かよく分からない模様…があり、「何しているの」と問うと、『待っているんでスヨ。私達を運んでくれる便利な便利な乗り物を。』と返された。

 よく分からなくて訴えかける様ピエロの顔を見ていたら、下から…なんて形容するのが正解なんだろう。形で言えば豪華な観覧車のゴンドラ、中身はふわふわもこもこの椅子と壁。言ってしまえばネ◯バス。タイヤも車輪もないので動き方に予想がつかない。


『バス、と呼んで頂いて構いマセン。正式な名は''カルーゼル''ですガ、滅多に使われないからか最早名前を覚えてイル人間は絶滅危惧種デスネ。』

ピエロは懐から硬貨と思わしきものを取り出し車体にねじ込んだ。外側は硬い筈だが硬貨はスルッと消えていった。おそらく運賃なのだろう…か?

『イスに座りまショウか。それとも私の膝の上にでも乗りますか?』

…無言でどつき、ゆっくりと座る。すると、止まっていたバスが動き始めて感動する。小さい子供のように窓に手を着いて、風景を眺める。家と道はある、が全体的にボロボロである。走っているのは専用の道路ではなくさっきまで歩いた道だし、そもそもそも飛んでいるのだ。目に映る光景は現実と非現実が混じっている…それはそれとして、こんなに人工的な建物があるのに人間が見当たらない。


不意にピエロが話しかける。

『オヤ!忘れていまシタ。アナタの名前は?』

私は、素直に答えようとした。しかし、おかしい事に思い出せない。確かが私を呼んだ記憶はあるのだ。だが、モヤがかかったように、不思議と思い出せない。名前は自分の半身で、私を表していて、何故今まで気づかなかったのかと困惑と恐怖が身体に鳥肌として出てくる。いつからか、なぜ、身体に染み付いている筈なのに。

 そんな私の様子をみてだろうか、ピエロは頭を撫でた後おどけた口調で話し始めた。


『アラアラ…名前、思い出せないンですネ、、、でも呼び名がないと不便…特にこの世界ではネ。そうだ、コレから、名前を思い出すまでミュオ、と名乗ったらどうです?私の好きな花からとったンですヨ♪』


 ピエロの様子は変な緊張が抜ける。流石道化師というべきだろうか。そんな簡単に?とも思ったが、それでいいか…と肯定の頷きを返す。偽名のようで、少しワクワクしている自分がいる。貴方の名前はと聞こうと口を開いた瞬間、大きく身体が揺れて叶わなかった。

『オヤ、着いたようですネ。早速目的地に向かいたい所ですガ、もう夕暮れ…遅いので今日は宿に泊まります。』

「今になって知らない男に着いていって一緒に泊まろうとしている事の恐怖に気付いた。」

『アヤシイモノジャアリマセンヨー』

「こっわ…」

母は多分絶対やめておきなさいと言うけれど、事態が事態だからな…と自分に言い訳し、ピエロの後に続いてバスを降りる。降りた先は同じく荒廃した街の中だった。


 ピエロはまたも速いスピードで歩いていく。しかし今度は、彼は私の服を掴んでいる為置いていかれる事はなかった。引っ張られて最早引きずられているけど。

 着いた先は何もない、開けた空き地であった。街の外れと言うのが正しいか…。

「此処で何をするの?」

『一晩此処で過ごしマス。』

「…野宿って事?」

『いや?此処は治安に目を瞑レバ便利な場所です。家を建てるナンテ一瞬で…テントの更に進化と考えて下サイ。ほら、こういう事です。』

そう言うとピエロはポケットから球体の、何か怪しげなテカった黒色の物体を出し放り投げた。信じられない事に、球体は途端に大きくなってやがて高さ3m、底面10平方メートル程度の直方体となった。ただ真っ黒なのは変わらずで周りとくらべると異質さが目立つ。

「悪趣味…」

『これが一番楽に手に入リマス。』

「これに入って一晩過ごすって事?」

『ソウ言う事デスネ』

「にしては狭いような…っていうか何処から入れば」

『何処からでも入れマスヨ。ただ…扉の位置は鍵を持つ生物が入った場所に固定シマス。セキュリティ面では完璧で、鍵を持つ者と共に入らなければ誰も入れません。だから、一緒に行きマスヨ、おいで。』


 そう言って手招きする様はなんとなく色気があり。手を差し出せば気付けば私はピエロの影にすっぽり収まった。そのままピエロは一歩、また一歩と壁に近づく。ピエロは手を壁に差し込み…なんと言ったらいいのか、ダイラタンシーに手を突っ込むのと同じようにめり込み、そのまま手は物体に消えて行った。

 私も同様に手で触れてみる。感覚はないのに差し入れる程にどんどん見えなくなっていく私の身体に恐怖しながら、顔を突っ込んで見る。なんとなくで目を開ければ、中は凄い事にホテルの様な部屋があった。広さは大体六畳一間といえば伝わるか。廊下がありその先に5.5畳程の広さにベッド二つが収まり、廊下の隣にあるのはおそらくお手洗いと風呂だろうか。キッチンはないが食べ物さえあれば生きていける部屋。


 …いや、さっき会ったピエロと二人きりとかいう何の罰ゲームですか状態のまま1夜を過ごすことになっている!狭い部屋で…。安全のため、私が寝る時はピエロには丁度よくある縄にグルグル巻きにされてもらう事にした。

『アナタ…』

「いやでも乙女の純潔を守らなきゃと思って…」

『オト、メ…!?』

「信じられないような目やめて。正真正銘14歳のうら若きか弱い少女なんだから」

『…』

「ピエロの面被っててもどんな顔してるか大体想像つく…身体の動きが腹立つ!!」

茶番はさておき、私は早速ベッドで寝ることにした。ピエロはベッドの上で動かず寝てるかどうかすら分からない。恩人にする態度ではないのは百も承知だが。


 その日は風呂に入る(感覚がないため頭が洗えているのか、シャワーはちゃんと出来ているかがまるで分からないためいちいち泡が手につくかの確認をした。とても面倒だった。)以外何も気力がわかず、お腹も減っていないため寝ることにする。着替えも欲しかったが寝ているか分からないピエロに話しかけ縄を解くのも億劫で、贅沢は言っていられないとも分かっているためゆっくり瞼を閉じる。眠れないのは知っている、今日は色々ありすぎた。茶化して笑って誤魔化そうとしたが、未だピエロへの恐怖心もこの先の不安も、拭えてはいないのだ。感覚こそなかったが、死が肌に触れた記憶は消えない。帰りたい。


『人間の昔話でもしましょうか。』

そんな私の不安を感じ取ったのか、仰向けのままピエロが不意に話し始めた。

『昔は、人間がそれはもう沢山いました。しかしアナタの世界程教育はちゃんとしていない。元々そこまで文明や技術は発展していまセンデシタ。しかし面白い事に、宗教の基盤はしっかりあった。カミサマがいる事を人間は皆信じている。ほぼ100%、ネ。』


『そして人間は魔法陣を発見シマス。魔法陣は人間によって作られたか土に刻まれた物を誰かが読んだかはたまたお告げか、正史は分かっていまセン。そしてアナタの様な…ヒトがやって来まシタ。ご存知の通り多くの代償を転移には必要とスル、しかし驚く事に、ヒトの欠損部位には魔素という黒い物体が代わりにある。代償の代わりにヒトは魔素を生み出しマス。魔素は、説明が長くなりますネ、短冊のような物と認識して下さい。魔素を持ちカミサマに願えば魔素は何にでもなる。勿論願いを叶えるか決めているのはカミサマです。驚く程この世界は都合が良すぎる。そして人間はアナタの世界程、いやそれ以上に文明を発展させまシタ。』


『しかし、ある時を境に様々なことが悪い方向へ向かい始めます。ある時、寿命が短くなっていっていることを人間は認知しました。しかし原因、きっかけのなにも掴めない。寿命の短縮は45程度で止まりましたが、それでも元より40年以上短い。魔素ではどうにもならなかった。天命だと皆思っています。上辺はネ。』


『そして短い人生何とか効率的に生きようと技術を求め、自分を何より優先し、倫理を捨て始めました。そして…この後は、分かりますね。昔の寿命も割とこれくらいだったのに、人生に余裕があると思いそれに慣れきり娯楽を大量に生み出した人間は、欲と焦りの間で藻掻き苦しみました。しかも中途半端に様々なものを認め、互いを尊重する文化も過度にエスカレートしそのまま緩やかに数を減らしていきました。全ては寿命が短くなった事から始まり、そしてそのままカミに縋りその機嫌を良くせんと祈りを捧げるもの、逆に悪魔に心臓を捧げ自らを生贄とするもの等…宗教が更に発展しまシタ。』


 …どう考えても泣きそうになってる子供に話す内容ではない。しかし、その空気が読めてるけれど読めてないのピエロの不器用さに、少し。本当に少しだが安心した。瞼が、落ち始めた気がする…。

『ひとはもとのせかいにk…しかし、まほうじんで…まほuじんh ………



ーーーーーー

『オヤ?寝てしまいましたか。子供、子供ですものね。あの方とは違うんだ。』

『未練は、ない方がいい。幸せになって…ヒト、いやミュオ。』


『どうかいい夢を、ミュオ。』

ーーーーーー




『オハヨウございマスお嬢サン♪いいお天気ですヨ〜、まさにお出かけ日和!今回の目的地は人間の歴史が感じられるスポットになっていマス♪楽しみですネェ』

寝起きは良い方ではない。休日ようやく布団から出るのが11時くらいなんだぞ…

『早起きは三文の徳!The early bird catches the worm!朝から身体を動かした方が身のためですヨ♪ちなみに起きなかったらお姫様抱っこで運びマス。』

急いで起きた。多分RTAしたらトップ狙えるんじゃないかなという勢いでベッドから滑り落ちた。

『ソンナに嫌がらなくテモ…』

「自分のビジュアル確認してから言いなよ…少なくとも私の目に映ってるのは何処からどう見ても不審者かサイコパス殺人鬼のピエロだよ。何それ?トマト?仮面に付いてますが…」

ピエロの仮面には真っ赤な液体が付着しており、より一層殺人鬼感が増していた。

『オヤ!コレは失敬』

…?あれ、何か忘れている気がする。夜、私はピエロをグルグル巻きにした筈だ。コメディかと思う程に。それが何故、ピエロはこんなに動けている?縄は?

「ピエロ!!」

『何デスか?』

「縄、縄は…」

『アッいや切ってナイです!見て下サイ此処!ほら、結び目そのままでしょうが!』

「ナイフ隠し持ってた方がまだ現身(人間)らしくて良かった。なにそれこわ…」




 顔を洗おうと洗面所に行くと、新しい私のためだと思われる服があった。ビジュアルはアレだけど中身は優しい、と思う。白いブラウス、黒いスカート、タイツ、そしてピエロとお揃いの手袋。シンプルだけどいい素材を使ってるんだなというのが目に見えて分かる。私のことを気にしてくれているという事実が照れくさいけど、嬉しい。早速袖を通すとサイズがピッタリで、少し恐怖も感じたが…。しかし嬉しかったのは事実。



さっきの所に戻ると、ピエロはソファーで優雅にコーヒーを飲んでいた。

「服、ありがとう。私こういうデザイン好きだから嬉しい」

『…ちゃんと、感謝が伝えられる子だったンですネ。』

哀愁漂う口調で、そう返される。

「失礼な」

『コレ、差し上げマス。』

そう言って渡されたのは、水色の綺麗な石が光るループタイ。

「流石に貰いすぎて申し訳なくなる…」

『素直に受け取って下さい。ワタシの友人から貰ったんデス。でも使い所がないママ彼女は消えてしまった。アナタに使ってもらった方がきっとイイ。』

「なら、責任持ってちゃんと大事に使わなきゃね。改めて、ありがとう。」

ピエロがフッと、笑ったような気がした。


『エエ。気を取り直して、今回の目的地へ行きまショウか!』

「え、えちょっと待ってよ!まだ付けてない!準備出来てないって!!」

コレだからピエロは…もはや見た目は諦めて荷物だけ詰めこんで急いで扉を開ける。



「お願いだから…余裕…を…持っ…て…行動して…」

年頃の娘の朝の準備時間を奪った罪は大きい。何で急いでるの、と責めながらバスに乗る。

『アラアラ、お疲れのヨウで!』

「誰のせいだと…」

『起きられなかった方も悪いと思いマスが』

「グッ」


 それからは、私の世界や最近何があったか…何か分からない事はないかを話しながら目的地に着くまで待った。

『お、見えて来ましたヨ!』

そう言われて窓を見ると、ひらけた土地が目に入る。ただ、そこら中にコンクリートの欠片や建物の跡らしき物があり市が滅びた土地という印象を受ける。ピエロの方を見ると、彼は言った。



『ここが天界の掃き溜め、戦地カサブランカです。』

分かりにくい設定ばっかあります…一回全部まとめようかな…今覚えなくても大丈夫ですし、大体「こんな感じなんだー!」ってなればOKです!

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