8話 ぶるぶる!俺は悪い人間じゃないよ!
三体じゃなかった。
それだけで、胸の中にすとんと、何かが落ちた。
でも――同じ年くらいの少年が、目の前にいる。村の人間じゃない。俺のことを知らない、知らない場所の、知らない顔だ。
なんだろう。それだけで、少し、息がしやすくなった気がした。
よし。警戒させないようにしないと!
「やあやあ!こんなところで会うとは!これも何かの縁だねえ〜!あ、俺?俺チャンはね〜、アゲルって言うんだぜ⭐︎ シクヨロでーす!キミ、名前なんていうのカナ?」
満面の笑みで、ぐいっと距離を詰める。
残念ながら、少年には届いていなかった。
「う、うわああああ!!!!」
倒れたまま、少年の両手がぶるぶると震える。握りしめた振り子が、突然光を帯びた。
ドン。
鋭い針が、俺の頬をかすめて、後ろの木に深々と刺さった。
「あぶね!!何すんだよ!」
(こいつ……もしかして、御座が言ってた、村から依頼を出された傭兵ってやつか……!?ヤバ過ぎる!!)
「お、おい!落ち着け!ぶるぶる!俺はわるい人間じゃないよ!」
「うわあああ!!魔物!!!!」
「ちげえって!!!!」
倒れたまま放つくせに、飛んでくる。夜の森だから、どこから来るかも分からない。針が木をえぐる音が、あちこちから聞こえてくる。
「あ〜!……あいつら、どこ行ったんだよぉ……」
三体の顔が、頭をよぎった。
その瞬間、足元に影が走った。
気づいた時には、遅かった。
振り子の針が、足に深々と刺さる。
「っ……!」
衝撃で後方へ飛ばされ、背中が大木に叩きつけられた。
ドゴッ、という音が、頭の奥まで響いた。
……あ。
ヤバい。
これ、死ぬわ。
意識が、じわじわと遠のいていく。背中の痛みも、足の痛みも、なんだかぼんやりしてきた。
もう、無理だ。切り抜けることを、完全に諦めていた。
刺突が、当たった。
それだけで、ダルズの中で何かが、すとんと落ち着いた。
錯乱していた頭が、少しずつ冷えていく。
目の前の少年が、大木にもたれて動かなくなっているのが見えた。
(……厄災が、死にそうになってる)
これは、もしかして。
トドメを刺せる。
ダルズは今回、探知担当のつもりだった。ベルさんとガラナさんがいれば、自分が戦う必要なんてないと思っていた。
なのに。
自分が、仕留めた。
じわりと、高揚感に似た何かが胸に広がっていく。
立ち上がり、一歩。
また一歩。
震えていた足が、少しずつ、地面を踏みしめていく。
俺は、そんな彼の変化を、ただ見ることしかできなかった。
「あの少年君……動けるんかい……」
唯一の逃げ道が、なくなった。
あと少しで、三体と一緒に樹海を出られたのに。これからのことは何も決まっていなかったけど。それでも、なんとなく、楽しみだったのは確かだ。
「ちくしょうめ……!」
背中を預けていた大木を、バチンとはたいた。
八つ当たりだ。分かってる。でも、他にどうしろって言うんだ。
その瞬間。
忘れていたあの感覚が、指先から呼び起こされた。
大木が、黒い泥のような波動に、静かに包まれていく。




