7話 流石に、疑っちゃいなかったが
ダルズの振り子が、激しく揺れ始めた。
いや、揺れているどころじゃない。振り子が、ダルズの手の中で、まるで暴れているかのように跳ね回る。
「な、なんで……こんなこと、今まで一度も……ッ!」
ダルズの声が、裏返る。震える両手で振り子を握ったまま、足が動かない。
「どうやら向こうも、こちらの存在に気付いたようだ」
ベルトルトは、前方の気配を見据えたまま、淡々と言った。
「……流石に、疑っちゃいなかったが」
ガラナが、珍しく冷や汗をぬぐいながら言う。
「まさかここまでの大事だったとは……厄災、ねえ……」
声のトーンはいつも通りだが、目だけは笑っていない。
しばらくの沈黙。
「……しゃーない」
ガラナは、目線を前方の気配に向けたまま、口を開いた。
「ベルさん、試してみますが、上手くいくかわかんねえす。後始末は任せました」
少し間があった。
「……任せる」
ベルトルトの一言に、ガラナは小さく息を吐く。
両手を静かに構え、魔法を練り始めた。
次の瞬間、景色が、変わる。
「…………は?」
ガラナは、自分の横を、ゆっくりと見た。
見知らぬ場所。樹海から離れた、森の一角。そこまでは、いい。
――隣に、残してきたはずの、ベルトルトも立っていた。
「…!!ベルさん、なんでアンタまでいるんだよ……!」
「確かにおかしい」
ベルトルトは、表情ひとつ変えずに答える。
「話では、魔物らしきもの三体と、厄災の村人一人だったはずだが。……どうやら、その人間を連れてくることはできず、俺が巻き込まれたのかもな」
「……おいおい」
ガラナは、頭を抱えた。
「ってことは、今ヤツと対峙してるのは、ダルズ一人ってことか……?あいつは自衛の手段はあれど、どこまで持つか……」
自分の魔法が、連発に向いていないことは分かっている。今すぐベルトルトを戻すことはできない。焦燥が、ガラナの心臓を叩き始めた。
ベルトルトも、分かっていた。
三体の目の前で、厄災とダルズたちの元へ戻らせるなど――許されない。
二人は、黙って顔を見合わせた。
「これはどういうことっすかね…??」
不気味で、未知の魔物が、周囲を見渡しながら言った。
―― ―― ――
見知らぬ場所。さっきまでとは違う森の中。アゲルの姿が、どこにもない。
「俺の結界で殿を守ることはできたが、結果として殿のみを置き去りに……なんということを!!!!」
柵が、巨体を震わせながら、涙をにじませた。
「泣くな」
御座が、静かに言う。
「殿は強い。我らを導いてくださったお方だ」
「そうっすねぇ〜!ただ」
鍬の声が、少しだけ低くなる。
「俺たちが殿のお側を離れたこと自体が、失態。……こいつら人間をサクッと殺して、殿に詫びたいすね。」
―― ―― ―― ――
気づいたら、辺りは静かになっていた。
魔車の揺れも、鍬の声も、御座の気配も何もない。
俺は、一人だった。
……一人?
いつの間に。どこへ行った。三体が消えるなんて、今まで一度も。
当たり前だと思っていた。気配があって当たり前で、声がうるさくて当たり前で。
それがいつの間にか、俺の「安心」になっていたんだと、今になって初めて気がついた。
夜の森。月明かりだけが頼りの、静かな暗がり。
怖い。
正直に言うと、怖い。
その時。
ドサッ。
正面の森の奥から、何かが倒れる音がした。
三体かもしれない。
俺は、不安を飲み込んで、音のした方へ走った。
木々の隙間を抜け、藪をかき分けてそこにいたのは。
振り子のようなものを握りしめたまま、地面に倒れ込んだ、一人の少年だった。
俺と、同じくらいの年に見える。
「……え、どなた?」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました(^^)




