5話 いや、何も疲れてないんだが
あれから、二ヶ月が経った。
俺が寝ている間に、行き先は三体で話し合ったらしい。林道を外れ、獣道を通って、樹海の中をひたすら進んでいく。止まることなく、スイスイと。
「……お前、本当に柵だった?」
馬車――いや、魔車のスピードに、思わずそんな言葉が漏れる。
「どっからどう見ても、そうでしょう‼︎!」
柵が、元気よく答えた。
この二ヶ月、衣食住は、すべて三体が回してくれている。
水を探すのは、鍬の役目だ。
「この先に川あるっす!音で分かるんで♪」
蛇のような体をぐねぐねと動かしながら、鍬は迷うことなく水場を見つけてくる。飲み水も、水浴びも、おかげで困ったことがない。
食事の準備は、柵と鍬のコンビだ。
「殿!今日は良い獣を仕留めたぞ!!」
柵が、足の筋肉をこれ見よがしに見せつけながら、大物を運んでくる。鍬がそれを器用に捌く。俺は、御座の上でちょこんと座っているだけだ。
寝床については――もう、何も言わないことにした。
夜になると、柵が自分の体を展開して俺を囲う。その上に御座が乗って屋根代わりになる。鍬は蛇の感覚で周囲の音や熱を察知し続けているらしく、索敵も完璧だ。
うん。
なにこれぇ。
うまく行きすぎぃ。
「殿、本日もお疲れさまでした」
「いや、何も疲れてないんだが……全部お前らがやってくれてるから……」
「殿のお役に立てることが、我々の喜びっす!」
「そうだ!殿!もっと頼っていいんだぞ!!」
柵が、わけもなく足の筋肉をバキバキに膨らませながら言う。
……正直、ちょっと怖い。何が怖いかって?
快適すぎる。
「……御座。樹海の出口は、まだ遠いか」
「あと半日ほどかと」
御座が、いつも通り、静かに答える。
「そっか……」
木々の隙間から見える空が、二週間前よりも、少し開けてきている気がした。
樹海を抜けたら、どうなるんだろう。
誰も俺たちを知らない、遠くの土地。そこでなら――。
「……殿」
鍬の声が、少し低くなった。
「どうした」
「……何か、来るっす」
蛇のような体が、ぴたりと止まる。柵と御座も、同時に動きを止めた。
俺たちが進む先、まだ遠いはずの方向から――何かが、こちらに向かって来る気配がした。
試しに一章終了までは、毎日3話投稿をしてみようと思います。
ご都合の合う時に、是非読んでいただけたらと思いますm(_ _)m




