3-12話 これ…王国中…いや
翌朝。
拠点に、全員が集まった。
ベルトルトは、目の前の光景を、黙って見ていた。
昨日は、暗くてよく見えなかった。
しかし、夜が明けて——拠点の全貌が、はっきりと分かった。
整備された石畳。積み上げられた石垣。湧水沿いに並ぶ建物の跡。谷の入り口に設けられた、六割ほど完成した防衛ライン。
そして。
「…………」
四方から、視線が集まっていた。
緑色の小さな体。尖った耳。丸い目。
小鬼族が、いる。
どこを見ても、いる。
石垣の上に。建物の跡に。棚田の畦道に。谷の斜面に。
「……何体いる」
傭兵の一人が、震える声で言った。
「せん、さんびゃく……いや」
別の傭兵が、首を振った。
「数えられない」
その時、ギコが前に出てきた。
頭の葉っぱを誇らしげに揺らしながら、胸を張って言った。
「いま、ぜんいんかぞえおわったでち」
「……何体だ」
「ちょうど、いちまんにせんよんひゃくはちじゅういちでち」
静寂。
「……一万二千?」
「ふえてたでち」
ギコは、あっさりと言った。
傭兵たちが、一斉に顔を見合わせた。
一万二千体超の小鬼族が、拠点を埋め尽くしている。
傭兵団の九人が、その中に立っている。
圧巻だった。俺が言うのも何だが。
「殿!!本日もお疲れ様でち!!」
「でちっ!!」
「でちでちっ!!」
あちこちから声が上がる。
傭兵たちが、呆然とした顔で、その光景を見渡している。
ベルトルトだけが、動じていなかった。
いや——正確には、動じていないように見えた。でも、その目が、一万二千体を静かに見渡している。
(これ…王国中…いや、王国外の小鬼族が集まっていないと、説明がつかないぞ…)
「ベルトルト」
俺は、声をかけた。
「……なんだ」
「昨日、話が途中だったな」
「…」
「続きをしよう。」
俺は、ベルトルトの前に立った。
一万二千体が、静かに見守っている。
「お前に、もう一度聞く」
俺は、まっすぐベルトルトを見た。
「俺たちは、ここで暮らしたいだけだ。誰かを攻めるつもりはない。王国に喧嘩を売るつもりもない」
ベルトルトは、黙って聞いていた。
「でも——お前たちがここに来た以上、この場所はもうバルツとやらに知られる。そういうことだよな」
「……ああ」
「次は、もっと大きな隊が来るか」
「……おそらく、そうだろうな」
俺は、息を吐いた。
「そうか」
しばらく、沈黙があった。
一万二千体が、じっと見ている。
「かみさま」
ギコが、そっと隣に来た。
「なんだ、ギコ」
「みんな、かみさまのために、たたかうでち」
「……ありがとな」
俺は、ベルトルトを見た。
「お前たちには、しばらくここにいてもらう」
俺は、ベルトルトを見た。
「拠点の情報を持ち帰られるわけにはいかない。それだけだ」
ベルトルトは、表情を変えなかった。
「……殺さないのか」
「殺す理由がない。ただ——逃がす理由も、今はない」
ベルトルトは、静かに頷いた。
「……分かった」
その答えが、どこか清々しかった。言い訳も、交渉も、しなかった。
「かみさま」
ギコが、そっと隣に来た。
「なんだ、ギコ」
「みんな、かみさまのために、まもるでち」
「……ありがとな」
その夜。
焚き火を囲んで、傭兵団の九人が座っていた。
ベルトルトは、炎を見ながら、静かに考えていた。
一万二千体。
ミクラという存在。
そして——あの少年の顔。
厄災と呼ばれた少年が、「誰も攻めない」と言った。
信じるかどうかは、別の話だ。
でも——あの目は、嘘をついていなかった。
「ベルさん」
隣に、ダルズが座った。
「……なんだ」
「あの人、怖くないんですかね」
「何がだ」
「一万二千体に囲まれて。ミクラって人がいて。それでも——なんか、普通に話してましたよね」
ベルトルトは、少し考えた。
「……怖いだろう」
「え?」
「ついこの前まで、ただの村人だったんだ」
ダルズは、黙った。
振り子を、そっと握りしめた。
さすがに増えすぎて笑えないですね(^ω^)
着々とよくわからんカリスマが爆発しています。
最後まで読んでいただきありがとうございました^ - ^
本日は、あと2話投稿します。




