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3-8話 御座……俺はさ


 御座(みくら)が、倒れた。


 俺は、最終防衛地区から飛び出していた。


 御座衆の小鬼族が「神!!お待ちくださいでち!!」と叫んでいる声が聞こえたが、もう止まれなかった。


 大樹は……俺を治してくれた。


 あの時の黄金の蔦。傷口に巻きつくと、みるみる癒えていった。


 そうだ。あれを使えばいい。木に触れて、魔物化させれば——その魔物が、御座を治してくれるかもしれない。


 俺は、拠点の中を走りながら、近くの木に手を当てた。


 手袋を、脱ぎ捨てる。


 黒い波動が広がり、赤い光柱が立つ。

木が、魔物へと変わる。


「頼む!!仲間が倒れた!!治してくれ!!」


「殿よ……申し訳ないが、私には……」


 魔物が、困惑したように揺れた。


 違う。次だ。


 また木に触れる。

 また魔物化する。


「頼む!!治癒の光、あるだろ?!」


「そ、そのような御業、私たちには……」


 また違う。次だ。


 手当たり次第に、触れた。走りながら、触れた。


 どうしてだ。なんで誰も持っていないんだ。大樹は持っていたのに。




 頼む。

 誰か、御座を助けてくれ。







 気がつくと、辺りに魔物化できる木はなくなっていた。


 そして俺は——御座の目の前に、立っていた。


 御座が、拠点の石畳の上に、ぺたりと伏せている。


 無数の刀傷が、畳の表面を走っていた。縁の装飾が、いくつか剥がれ落ちている。


 ベルトルトが、後ろで仲間に告げる声が聞こえた。


「あの魔物化したやつらを、木片に戻してこい」


「はい」


 足音が遠ざかっていく。


 お願いだ。もう、やめてくれ————


 誰も傷つけないでくれ————


 俺は、御座の前に膝をついた。





「ごめん、御座……」




 返事はない。




「お前を治す方法、わかんないんだ」




 声が、震えた。




「俺たちは、ただ皆んなで暮らしたいだけだったのにな」




 石畳に、雫が落ちた。




「どうしてこんなことになっちまったんだろうな」





 チャキッ。


 金属の音がした。


 ベルトルトが、刀を握っている。一歩、また一歩、俺の元へ迫ってくる。




 俺は、顔を上げなかった。




「御座……俺はさ」


 大粒の涙が、頬を伝った。


「お前を失うわけにはいかないんだよ」




 足音が、近づいてくる。


 俺は、御座に手を伸ばした。




「——頼む」



 声が割れる程、俺は叫んでいた。





御座(みくら)ああ!!!!!!」








 初めて、「マ」魔法を使ったあの時のように。


 あの神社の、()()()()()()()()()()()()()()()


 黒く泥のような波動が——手の平から、溢れ出した。


 溢れ出した、どころじゃない。



 濁流。



 腰まで埋め尽くすほどの黒い奔流が、手から、腕から、全身から溢れ出して、御座がいた場所を中心に、ぐるぐると渦を巻いていく。


 黒い奔流は、みるみる盛り上がっていった。


 まるで、そこに()()()()()()()()ように。


 赤い光の柱は立っていなかった。

 代わりに、別の何かが。

 そこに、立っていた。

最後まで読んでいただきありがとうございます

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