2-9話 何でも知ってるんだな、御座
小鬼族大捜索戦が始まって、数週間が経った。
どうやら小鬼族たちは、この森を北に越えた森にまで範囲を広げているようだ。毎日のように「みてきたでち!」「きいてきたでち!」と報告が来るが、城らしきものは一向に見つかっていない。
俺の足元では、未だに地面を掘っているやつや、石を持ち上げて何かを確認しているやつらがいる。
他の小鬼を見習え、お前ら。そんなところに城はない。
「きゅーほーー!でちー!!」
甲高い声が、森に響いた。
小鬼が、こちらに向かって全速力で駆けてくる。息を切らしながら、俺の目の前でばたりと転んだ。
「一体何があった!?」
「し、しろがあったでち!!」
「……はあ?!?!」
俺は、思わず前のめりになった。
「本当か!?どこだ!?」
「きたのもり、もっとさきでち!!いっぱいあるきでち!!でも、あったでち!!」
三体が、目をきらきらさせながら口々に言う。
「たてものがいっぱいあったでち!」
「だれもいなかったでち!」
「おおきかったでち!!」
俺は、三体の顔を見渡した。
……本当に、あるのか。
「よし。みんなを集めるぞ」
そこで俺は、ふと思い出した。
確か、号令魔法を持つ小鬼がいたはずだ。「なかまよびのふえ」とかいう魔法を使えると、自慢げに言っていた。
「ギコ、いるか!?」
「でちーー!!ここでち!!」
人垣をかき分けて、小柄な小鬼が飛び出してきた。小鬼族の中でも特に小さく、頭に木の葉を一枚乗っけている。なぜかいつもそこに乗っている。本人的にはお気に入りらしい。
「仲間を全員呼んでくれ」
「まかせるでち!!!」
ギコが、両手の指を口に当てた。
ぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃ——————。
澄んだ音が、森中に広がっていった。
しばらくすると、あちこちから足音が聞こえてきた。
どたどたどたどたどたどた。
木の上から降りてくるやつ。遠くから走ってくるやつ。地面から顔を出すやつ。
どんどん、どんどん、集まってくる。
俺は、その数を、なんとなく数えようとして——やめた。
……多い。最初の三十体が、いつの間にこんなことになったんだ。
「殿……」
鍬が、隣で引き気味に言った。
「おおよそ、三百はいるっすね……」
「もっといるかもしれないっすけど……」
三百。
まあ、今数えても、どうせまた増えるんだろうな。今度何かしら考えよう。今は考えないことにした。
全員が集まったのを確認して、ギコが俺の前に進み出た。
「かみさま!みんないるでち!!」
「ありがとう、ギコ」
ギコの頭の葉っぱが、誇らしげに揺れた。
「それで」
俺は、ギコに向き直った。
「城があったという場所、詳しく教えてくれるか」
「うん!ここからきたに、ずーっとあるくでち。おおよそ、ふたつぶんのあるきでち!」
「二週間か……」
「たてものがいっぱいあったでち。でも、だれもいなかったでち。しずかだったでち」
廃村、あるいは廃墟。
人気のない建物が、森の中に残っている。
「森の中に城があるという情報は、入っておりません」
御座が、静かに言った。
俺は振り返ることなく呟く。
「……お前、そういう情報まで知ってるのか」
「知っている限りは、という話ですが」
何でも知ってるんだな、御座。俺はお前が恐ろしいよ、御座。
「つまり、地図に載っていない場所、ということか」
「可能性としては、そうなります」
俺は、しばらく黙って考えた。
地図に載っていない。誰も知らない。人気がない。
……悪くない。むしろ、最高じゃないか。
「よし」
俺は、三百を超える小鬼族を見渡した。
また大樹が蔦を伸ばしてきたので、乗っておく。黄金の蔦もセットでついてくる。もうこれがないと締まらない気がしてきた。
「我々は、城へ向かう!!」
「「「おおーでち!!!!」」」
「ついてこい!!」
「「「でちーーーー!!!!!!」」」
どたどたどたどたどたどた。
三百体超の大行列が、森を北へ向かって動き出した。
俺の予想通り、道中でまた小鬼族が増えた。
どこから湧いてくるんだ。
大行列は、少しずつ、少しずつ数を増やしながら——見ぬ「城」を目指して、森を進んでいくのだった。
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