2-8話 お供え
大樹の蔦に下ろされて、ようやく地面に足がついた。あー、怖かった。
小鬼族たちは、まだ額をつけたままだ。三十体が一列に並んで、ひれ伏している。端っこの方、見えないぞ。
「……お前ら、もう起きていいぞ」
「かみさまがおはなしでち!」
「かみさまのおこえ、きいたでち!」
むしろ興奮が増した。
俺は、深く息を吐いた。
そこへ、ようやく三体が駆けつけてきた。
「殿!ご無事で!!」
「遅い!お前らのせいで袋叩きにあったんだが!?」
「申し訳ありませんでした!!!」
柵が、号泣しながら頭を下げた。鍬も「俺としたことが!!」と蛇の腕をわたわたさせている。
御座だけが、小鬼族の群れを静かに見渡して言った。
「……随分と、増えましたね」
「そうなんだよ!どうすんだこれ!」
小鬼族たちは、御座や柵や鍬をちらちら見ながら、それでもアゲルから目を離さない。
「かみさまのけらいでち?」
「つよいでち……」
「でも、かみさまがいちばんでち」
なんで。俺、さっき一番ひどい目にあってたけど。俺の方が弱くね?
翌朝。
目が覚めると、御座の屋根の上に、何かが置いてあった。
丸くて、茶色い、よく分からない物体。
「……なんだこれ」
「かみさま!おそなえでち!」
いつの間にか、小鬼族が一体、俺の目の前に正座していた。
両手で、丸い物体を差し出している。目が、きらきらしている。
「お供え?」
「かみさまに、いちばんおいしいものを、もってきたでち!」
俺は、恐る恐る受け取って、匂いを嗅いだ。
土の匂いがした。
「……これ、なに?」
「どんぐりでち!いちばんおおきいやつでち!!」
どんぐり。
大きめのどんぐりを、最上のお供え物として捧げてきた。
「……あ…ありがとう」
俺は、どんぐりを、そっと受け取った。
小鬼族の目が、さらにきらきらした。
「かみさまが、うけとったでち!」
「かみさまが!どんぐりを!うけとったでち!」
後ろに控えていた二十九体が、一斉に歓声を上げた。
うるさい。森中に響いてるぞ。
それからというもの、小鬼族たちは、ぞろぞろとついてくるようになった。
三十体全員が、俺の後ろを、小鴨のように連なって歩く。
川に行けばついてくる。
「かみさまおみずのむでち!」
「おんなじでち!おんなじでち!」
飯を食えばついてくる。
「かみさまたべるでち!」
「かみさまのたべかた、まねするでち!」
木陰で休もうとすればついてくる。
「かみさまやすむでち」
「しずかにするでち」
「……しずかにするでち」
このくだりだけは、わりと静かだった。
御座が、俺の隣で静かに言った。
「随分と、慕われておりますね」
「うるさい」
「はっはっはっはー!!主の人望よ!!」
「お前が一番うるさい!!!」
大樹の笑い声が、森に響き渡った。
三十体の小鬼族が、びくっと肩を震わせてから、また俺の周りに集まってきた。
「かみさま!」
「かみさまでち!!」
「……はいは〜い」
俺は、どんぐりを握りしめたまま、空を見上げた。
なんで俺、森の中で小鬼族三十体に囲まれてるんだろう。
これからどうなるんだ、俺の人生。
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