2-7話 元いた場所に返してきなさい。
翌朝、小鬼が三十体増えていた。
「……oh〜」
寝ぼけてるみたい。昨日より、明らかに多いもんね。二度寝しようかしら。
「かみさま!おはようでち!!」
「あたらしいなかまも、つれてきたでち!!」
「かみさまにあいたかったでち!!」
新顔らしい小鬼たちが、目をきらきらさせながら押し寄せてくる。
"ダメです!うちでは飼えません!"
“元いた場所に返してきなさい。"
“誰が世話するの?“
"お母さんは面倒見ないからね!“
"ちゃんと最後まで責任持てるの?"
“かわいいだけじゃ飼えないのよ。“
昔、猫を拾った時に、お母さんに言われたなあ〜。今が使いどきかな〜。
なんて現実逃避をしながら、俺は数分立ち尽くした。
「……お前ら、増やしてきたのか」
「かみさまがあらわれたって、みんなにおしえたでち!!」
「そしたら、みんなもきたいってなったでち!!」
なるほど。勧誘活動に勤しんでいたわけだ。
こうしている間にも、どこかでまだ「でちでち」言いながら布教しているやつがいることだろう。
どこまで膨れ上がるんだろうって?今朝増えた報告を聞いてから、その件については、考えるのをやめた。
とにかく今は、目の前の問題だ。
六十体を超える小鬼族が、森の中をあっちへふらふら、こっちへふらふらしている。足並みを揃えるどころじゃない。時々どこかへ逸れるやつがいて、そのたびに周りの小鬼が「あっちいったでち!!」「もどってきてでち!!」と大騒ぎになる。
うるさい。静かな森だったのに。
「このままじゃいけないよねー……」
俺は、頭をかきながらつぶやいた。
「ずっと考えていたんだが」
柵が、珍しく真剣な顔つきで話しかけてきた。
「殿、拠点を作るのはどうだろう」
……柵がまともなことを言っている。
四六時中筋肉のことしか考えていないもんだと思っていた。悪かったな、柵。
「それイイじゃん〜!採用!」
「良い案だと思います」
御座もそう言っている。御座がそう言うのなら、もうそうだろう。
「ただ、どこに拠点を構えるかっすね〜……」
うーむ、と鍬が蛇の腕を組みながら考え出す。
「なに、簡単なことよ」
大樹が、蔦をマントのようにぶわりと広げながら言った。
「小鬼めらに聞けば良いでは無いか」
……大樹がまともなことを言っている。
四六時中自分のことしか考えていないと思っていた。小鬼のことも頭の隅にあったんだな。悪かったな、大樹。
「それだ」
俺は立ち上がり、大樹を見た。
「大樹、頼む」
「はっはっは!!任せよ、主よ!!」
蔦が伸びてきて、俺の体を持ち上げる。どこも痛くないけど、黄金の蔦もセットでついてくる。もうこれがデフォルトになりつつある。
六十体超の小鬼族が、一斉に顔を上げた。
「かみさまがうかんでるでち!!」
「ひかってるでち!!」
「ありがたいでち!!」
俺は、咳払いを一つして、口を開いた。
「聞け!!小鬼達!!」
森が、しんと静まった。
六十体が、一斉にこちらを向いている。
「俺たちは気づけば、六十を超える集団となった!!」
「「「おおーでち!!!」」」
「そこで我々は、次の段階へ進もうと思う!!」
「「「おおーでち!!!」」」
乗ってくるじゃないか。
「強兵は手に入った!!次に何が必要だと思うか??」
小鬼族たちが、ざわざわとざわめく。
「たべものでち?」
「なかまでち?」
「ひなたぼっこでち?」
「違ーーう!!」
俺は、拳を握りしめた。
「城だ!!俺たちには城がない!!」
「「「おおおおおーでち!!!!」」」
「小鬼達に指令を出す!!城を!!探せぇ〜〜い!!!」
次の瞬間、六十体が、一斉に動き出した。
どたどたどたどたどたどた。
烏合の衆が、濁流のように森中を跳ね回り始めた。木をよじ登るやつ、地面を掘り始めるやつ、なぜか円陣を組んで踊り始めるやつ。
やる気あんのか、お前ら。
「こっちでち!!」
「あっちでち!!」
めちゃくちゃだ。でも、なんか、動いてる。
大樹の頭上から、その光景を見下ろしながら、俺は静かに思った。
……俺、なんでこんなことになってるんだろう。
でも、まあ。
「……どこに、連れて行ってくれるんだかな」
俺は、黄金の蔦に揺られながら、でちでち響く森を眺めた。
本日は、18:00、19:00、20:00に投稿をします(^^)




