2-1話 お前らは、ここで待ってろ(ニッコリ)
ツーフ樹海を抜けた。
二週間ぶりに見る、開けた空だ。
地平線まで続く草原の向こうに、小さな町が見える。煙突から煙が上がっている。
町だ。本物の、町だ。
「殿、あの町に向かわれるおつもりですか」
御座が、静かに言った。
「まあ、ちょっと見るだけ。様子見」
「傭兵の件が、気になりませんか」
……そういえば。
昨夜、御座から聞いたあの三人組の情報が頭をよぎった。
三等級傭兵団。ベルトルト、ガラナ、ダルズ。報告されているなら、もう手配が回っている可能性もある。
「殿、ご懸念なら、私めが偵察を」
「いや」
俺は、草原の風を胸いっぱいに吸い込んだ。
正直に言う。森暮らしに、飽きた。川の水も、獣の肉も、星空も、全部最高だった。でも二週間は長い。それに。
「生まれてこのかた、ツーフ村の外なんて出たことなかったんだよ、俺」
誰も、何も言わなかった。
「……行ってきます」
「殿!我らも!」
「待て待て待て待て、待てーい!」
四体が一斉に動き出したので、俺は全力で両手を広げて押しとどめた。
「お前らは、ここで待ってろ(ニッコリ)」
「な、なりません!殿の御身を!」
「大丈夫。ちょっと見るだけ」
「しかし!!」
「俺が言ってるんだから、聞けって」
……五分後。
「絶対動くなよ。いいな?」
「「「「……はい」」」」
四体が、しぶしぶ草原に座り込んだ。大樹だけは「主よ……我を置いていくとは……」と蔦をしょんぼりと垂らしていた。
俺は、足早に町へ向かった。
ーーーーーーーーーー
町の入り口には、小さな看板が立っていた。
マルタの町、と書いてある。
門番らしき男が二人いたが、俺の顔を見ても特に何も言わなかった。手配書、まだ回ってないのかもしれない。御座の言う通り、小さい町で良かった。
中に入ると――一気に、音と色が押し寄せてきた。
石畳の道。木造りの建物が並ぶ通り。野菜を積んだ荷車、干された洗濯物、走り回る子どもたち。
「……おお」
思わず声が漏れた。
ツーフ村より、全然でかい。人も多い。
ふらふらと通りを歩いていると、すぐに素材買取の看板が目に入った。「傭兵御用達・素材専門買取」と書いてある小さな店だ。
「そーいや、お金ないじゃん」
俺は、魔物の胃袋で作った背嚢を肩から下ろし、樹海で取っておいた素材を取り出した。魔物の皮、熊型魔物の爪、その他もろもろ。三体が「念のため」と言って持たせてくれたやつだ。
店の主人は、袋の中身を見た瞬間、目を丸くした。
「……これ、全部ツーフ樹海のやつか?」
「まあ……そうですね」
「珍しいな。あそこに入れる人間、そうそういないぞ」
主人は、素材を一つ一つ確認しながら、金貨を数え始めた。
その額を見て、俺は思わず固まった。
「……え、これ全部?」
「ああ。樹海産は希少だ。特にこの爪、等級3の魔物のやつだろ。買い手がすぐつく」
手のひらの上に、金貨が積み上がっていく。
ツーフ村で一月働いて稼ぐ額の、何倍もある。
「……はは」
思わず笑いが出た。
高揚感が、じわじわと全身に広がっていく。
俺は、財布を握りしめたまま、表通りへと飛び出した。
今日も三話更新します(^^)




