表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/27

幕間① グランガウズ アウトサイド

 転送魔法を使い終えた直後、ガラナはその場にへたり込んだ。


「……いやあ、さすがに堪えましたわ。今日だけで何回使ったと思ってるんすか……」


 独り言のように呟きながら、地面に大の字になろうとした、その瞬間。


「報告に向かうぞ」


 ベルトルトの声が、頭上から降ってきた。


「え゛っ」


「調査報告が任務だ。今から向かう」


「いやいやいやいや〜、ちょっと待ってくださいよベルさん、俺、今マジで限界なんすけど……」


「ダルズ、歩けるか」


「……はい」


 ダルズが、静かに立ち上がった。


 ガラナは、二人の顔を交互に見た。


「……あ"ー、もう!!」


 重い体を、無理やり起こした。


 傭兵団のギルドは、樹海を抜けた先の街に拠点を構えていた。名をグランガウ傭兵団。平原が広がる大都市『グラン』の名を冠している。


 バルツは、三人が戻ってくると、いつも通りの笑顔で出迎えた。


「おっ、早かったじゃないか。どうだった?」


 三十歳にしか見えない顔に、屈託のない笑みを浮かべている。


 ベルトルトが、一歩前に出た。


「報告します」


「ああ、聞かせてくれ」


 バルツは、椅子に深く座り直した。足を組み、顎に手を当てる。興味深そうに、目を細めた。


 ベルトルトは、淡々と話し始めた。


 「マ」属性の村人。触れたものを魔物に変える力。三体の魔物、そして調査中に新たに生み出された四体目。治癒の力を持つ蔦の魔物。均衡魔法をもってしても、三体相手に時間稼ぎが限界だったこと。


 バルツは、一度も口を挟まなかった。


 ただ、話が進むにつれて、目の奥が少しずつ変わっていった。笑みはそのままに、その奥に、静かな光が灯っていく。


「……それで」


 ベルトルトが話し終えると、バルツは静かに口を開いた。


「お前たちの見立ては?」


「三等級傭兵三人では、対処できる相手では、ありません」


 ベルトルトは、迷いなく答えた。


「ガラナは?」


「……同意見っす」


 珍しく、ガラナが真面目な顔で頷いた。


「ダルズ」


 バルツの声が、少しだけ柔らかくなった。


「お前は、どう思った」


 ダルズは、少し間を置いた。


「……厄災、と呼ばれていました。でも」


 振り子を握る手が、わずかに動いた。


「……あの人は、俺を傷つけなかったです」


 バルツは、その言葉を聞いて、ふっと笑った。


「そうか」


 椅子から立ち上がり、伸びをするように両腕を上げる。


 虎鉄尾傭兵団の本拠地は、この国で最も大きなギルドだ。


 盗賊狩り、街の治安維持、村からの依頼――迷宮探索のような派手な仕事より、地に足のついた任務を積み重ねてきた結果、今の規模になった。魔物による大きな被害が数年に一度しか起きないこの国では、それで十分だった。


 少なくとも、今日この報告を聞くまでは。


「等級3じゃ足りない、か」


 三人は、黙って団長の背中を見ていた。


「依頼先の村の名前は何だったか…」


「はい」とベルトルトが答えた。「ツーフ樹海の奥にある村です。ツーフ村と呼ばれているようで」


「ツーフ村……」


 バルツは、その名前を一度だけ繰り返した。


 それきり、しばらく何も言わなかった。


 窓の外には、何事もない、穏やかな街の夕暮れが広がっている。


 この国で、戦争はない。魔物の大きな被害は、数年に一度。

 それでも。


「面白いな」


 バルツが振り返った時、その顔にはいつもの笑みが戻っていた。


 けれど三人は知っている。あの、目が笑っていない時のバルツは――本気で動く時だ。

最後まで読んでいただきありがとうございます(^^)!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ