10話 後だ
あの三体が、急に止まった。
ガラナには、その理由が分からなかった。
ベルトルトの魔法が展開されてからというもの、三体とまともにやり合えてはいた。ただ、「やり合えている」という感覚が、むしろ怖かった。
均衡魔法とは、周りにいる者の力を平均化する。つまり、自分の力が上がれば上がるほど、相手がどれだけ格上かを、数値として直接思い知らされる。
「……ベルさん」
ガラナは、じわりと滲む冷や汗を拭いながら言った。
「これ、やばいっすね」
「ああ」
ベルトルトも、短く答えた。
そんな時だった。
三体が、ぴたりと動きを止めたのだ。
次の瞬間、三体は――揃って、一方向へ、全力で走り出した。
その方向の空に、赤い光の柱が、ぼんやりと立ち上っていた。
「……あれは」
「分からん。だが」
ベルトルトが、静かに息を吐いた。
「今が、唯一の機会だ」
ガラナは、一瞬だけ赤い光の柱を見つめた。気にはなる。なるが――。
「……しゃーない。行きますか」
魔法を、もう一度練り始めた。連発には向いていない。視界が、じわりと痺れる。
「後始末は、またベルさんに任せますよ」
「……任せろ」
ダルズは、アゲルと大樹の前で、まだ振り子を握ったままだった。
涙は、いつの間にか止まっていた。
ただ、手が震えている。
「……名前、聞いてもいいか」
さっきの少年の声が、耳に残っている。
怖い。怖いのに。
なのに、あの声は、なぜか――。
その時。
景色が、歪んだ。
「ダルズ!!!」
ガラナの声が、耳に飛び込んできた。
気づくと、ガラナとベルトルトが、すぐそばに立っていた。
「生きてたか」
ベルトルトが、ダルズの状態を素早く確認しながら言う。その目が、すぐにアゲルと大樹へ向いた。
「ベルさん……あの赤い光は」
「後だ」
短く、それだけ言った。
ガラナも、アゲルを一瞥して、口を閉じた。
その時だった。
森の奥から、地面を揺るがすような足音が近づいてくる。
ドッドッドッドッ。
ぶわり、ドサッ。
三体が、木々の間から飛び出してきた。
柵が、鍬が、御座が――アゲルの姿を見つけた瞬間、勢いそのままに、地面に膝をついた。
「殿!! ご無事で!!」
「お側を離れてしまい、申し訳ありませんでした!!!!」
柵と鍬が、頭を深く下げる。御座は、静かに、深く、伏せた。
傭兵団の三人が、目の前にいるにも関わらず。
森の中に、奇妙な静寂が落ちた。
傭兵団の三人と、アゲルと四体の魔物が――改めて、向かい合った。
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