99話
さて、問題があるということでしたが。
これは、詳しい話を聞かねばなりません。
というわけで、奴隷二人は別室に下がってもらって……。
「では、お話いたします。
あの二人の共通の問題というのが、性奴隷になることに拒絶しているのです」
へぇ、でも、それって普通じゃない?
というオレの疑問に答えるように、
「女性の奴隷冒険者では珍しいことでして……。
基本的に冒険者が奴隷になるのは、お金のトラブルです。借金してしまうものが多いのですよ。
怪我してしまったり、装備品が破損してしまったり。
まぁ、これは女性に限らず、冒険者全体につきまとう問題なのですが……それはともかく」
それはそうだろうな。依頼に失敗した、魔物を倒しても素材を剥ぎ取る余裕がなかった、逃げるしかなかった、となったら、報酬はなく、それどころか赤字になる。
「借金して奴隷になった。ならば、借金を返しさえすれば、元の身分に戻れる。
性奴隷なら、高く買い取ってもらえ、もしかしたら、主人に情が出てきて、奴隷から解放してもらえるかもしれない。
であれば……おかしな話ではないでしょう?」
「ふむ」
「女性側としても、危険な冒険に出ると、気分が高まります。その場合、男娼を買うこともあります。
……女性にだって、欲はあるのですよ。ましてやそれが冒険者なら」
まぁ、それは理解した。
女性の奴隷冒険者だって、事情はあるのだ。
性奴隷として買われていっても、それが本人の選んだ結果なのだろう。
「それをふまえて、彼女たちです。
奴隷を買う側からすると、性奴隷になることを拒否する二人は、どうしても買いにくいのですよ。他にもいますからね」
「しかし、奴隷が欲しいのは、男性ばかりではないでしょう。
女性の冒険者だったら……?」
「そうですね。でも、彼女たちの抱える問題はまだあります」
おっと?
「ドワーフの彼女──レベッカといいますが、ドワーフ種族固有の能力が使えません。
正確に言うなら、役に立たないのです」
ドワーフ種族固有の能力……なにそれ、kwsk。
「【無魔法】の『修復』といいますが。
これは、金属製の武具をその場で簡易的に修復する魔法です。
歯こぼれ程度なら、すぐに直してしまうそうで、この魔法によって、ドワーフの冒険者は人気なのです」
おぉ! すごい。
確かにその魔法は、便利だ。
「しかし、レベッカはその魔法が苦手なようでして、ドワーフの奴隷はすぐに売れるのですが……。
彼女も、当然努力しています。砥石を使って剣を研げますし、それだけでなく、料理も裁縫も、なかなかの腕前なのです」
ただ、魔法の便利さには敵わないのだろう。それに、砥石の分、荷物が増えるし、砥石がなければ剣を研げない。
料理や裁縫だって、彼女でなくてもよい。
なるほど。問題ですね。
「もう一人の女性は、どうなのです?」
オレの問いに、奴隷商さんは苦渋の表情を浮かべた。
「彼女──エリーゼといいますが、能力的には問題ありません。
性奴隷になれないのも、年齢と種族の掟がありますので……」
聞くと年齢は十二歳だそうだ。それであの体型か……。
それに掟で、同族じゃないと性行為はダメだそうです。
「それなら……?」
「エリーゼは以前のパーティーにいた際、ダンジョンアタックに挑戦したそうです。
そこで罠にかかり、パーティーの男性冒険者と二人ではぐれてしまいました。
周囲は魔物だらけだったそうで、僅かな空間に男性冒険者と二人で隠れていたようです」
ふむ。
まぁ、ここにいる以上、命は助かったけど……といったところか。
「男性冒険者は、エリーゼを囮にして自分だけ助かろうと考えたそうです。
そのついでに、エリーゼに強姦しようとしたのです。どうせ死ぬのだから、と。
結局、それは未遂に終わり、他の仲間が助けに来てくれたのですが、抵抗した際、相手に大怪我を負わせてしまい……。
彼女は何重にもショックを受け、男性冒険者の怪我の治療費を払うために借金をして、今ここにいます」
うわ。へヴィーだなぁ……。
「しかし、その男性の治療費を払う必要があったのですか?
こういう場合、ギルドは?」
「もちろん、きちんと双方の話を聞いた結果、エリーゼにはなんら問題はありません。
しかし、ショックを受けたエリーゼは、パーティーから離れるために、あえて借金をして奴隷になったのです。
ギルドも間に入り、その男性冒険者は治療費を受け取る代わりに、エリーゼに近付かないという誓約書を書かせました。それは、パーティー全員も同様です。
こうして、事態は終息したのです」
言葉も出ない。
事実は小説より奇なり、とはよくいったものだ。
十二歳の女の子の身の上に起こることかね?
「あれ以来、エリーゼは冒険と戦闘が苦手になってしまいまして」
ん?
それって、冒険者として致命的では?
「そうなのですが……かといって、エリーゼもいつまでもここにはいられません。
そんなときに、ちょうどよいお客様が……」
うん、オレのことですね。
しまった、今の話を聞いて、彼女たちを買わないと断るなんて、相当難易度が高いぞ。
先日から、交渉事で良いところがないなぁ。
この世界の女性が強かなのか、オレが女性に弱いのか。
……きっと両方だよね。
はぁ……お金の工面をしないとな。




