91話
オレはクライネさんに、型の構えをいくつか教えてもらった。
攻撃用の型だったり、防御用の型だったり。
流派によって、それは千差万別らしい。
とにかく、何度も何度も同じ動作を繰り返し、身体に覚えさせていく。
意識しないでもその動きができるように、とのことだったが、いつになることやら……。
そんな無意識に動ける、なんて漫画みたいなこと、本当にあるのかね? まぁ、今は黙って身体を動かそう。
ちょっと油断すると、身体というのは楽な動きになりたがるようだ。その度に、クライネさんから修正が入る。それも口ではなく、木剣で小突かれるのだ。
これが、なかなか痛い。
その痛みで覚えろ、ということなんだろうな。
今までの人生では、あまりなかったことなので、少し新鮮です。
最初だけだとは思うが……。
まぁ、投げ出さないように、頑張ろう。
一通り済ませると、休む間もなく、素振りをすることに。
これもクライネさんから、散々修正が入った。
ただ振れば良いってものでもないんだな……。
とにかく正しい構えから、正確に振る。
それを身体に覚えさせろ、とクライネさんは言う。
特に、疲れたときでも、いや、疲れたときこそ、キチンと振れるようになれ、というわけだ。
無茶なことを言っているわけではないのは、横で一緒に素振りをしているクライネさんを見ればわかる。
一振り一振りが、とても綺麗なのだ。
いや、綺麗という表現が正しいのかわからないけど、オレもそうなりたい、と思える動作なのは確かだ。
言われた通りに続ければなれるのならば、やってやろうと思う。
無心になって素振りをしていると、気付いたらかなり時間が過ぎていた。
スキルの【超回復】の効果で、疲労も回復するのだから、恐らくいつまでもできるのだろう。
実際は、そこまで集中力が保たないだろうけど。
考えてみれば、オレは眠らなくても良いのだから、稽古の時間は充分にある。
でも、こればかりやっていたら、頭がどうにかなってしまうかもしれない。
クライネさんと話し合った方が良いかも……。
ということで、クライネさんにオレのスキルのことを話す。
まぁ、本当のことは話せないので、誤魔化しながらだけど。
「ほぉ……。
呪いで、眠らなくても良い、怪我や疲労もすぐに回復する、と?」
「そうなんです。そのせいでみたいですけど、以前のこともあまり覚えてなくて……」
・気付いたら森の中にいた。
・過去の記憶はほぼない。
・精霊──ディーネに出逢い、それが呪いのせいだと教えてもらう。
・その呪いは、身体の異常を回復までしてしまう。
・何故、呪われたのかはわからない。
というの設定にした。
嘘をついたのは、一部分だ。
記憶がないことと、呪われた原因がわからないこと、だ。
あぁ、それをディーネに教えてもらった、というのも嘘だな。
ま、いずれにせよ女神様のことを話せないので、こればかりは仕方ない。
「ならば、少しくらい厳しくしても問題ないわけじゃな。
よろしい。そこまでお主が言うならば、あたしもそれに応えよう!」
クライネさんの目がキランと光ります。
あれ?
「え? いや、そうではなく……」
「一日のスケジュールをしっかりと決めんと……。
痛めつけても良いが、壊してはならんな」
なんか物騒なことを呟いている。
「生活費も稼がなければ……。
ラムダにやらせれば……? しかし、変なクセがつく可能性も……いや、精霊様がいる。ならば……」
……。
オレ、どうなるんだ……?
現在、午後9時です。
ちょっと遅めの夕食を食べ終わった。
買い込んだ食事を〈アイテム〉から出すだけの簡単なものだったが、誰も料理ができないのだから、仕方ない。
オレは全くできないわけではないが、レパートリーも少ないし、日本のような便利な調理器具や、便利な冷凍食品があるわけではないので、ちょっと遠慮したい。
これは、今後の課題だな。
「簡単にだが、お主の一日のスケジュールを決めた」
0600〜素振り、型の反復練習など。
0800〜技の習得など。
1000〜クライネさんとの模擬戦。
1200〜町で雑用など。
1400〜クライネさんとジュリアと模擬戦。
1900〜クライネさんと精霊たちと実戦。なんでもあり、本気でやること。
2000〜魔物狩り。金を稼げ。
2400(0000)〜自由時間。ただし、遊ぶな、無駄にするな。
「こんなところじゃ。時間通りにやるのではなく、多少のズレは良いじゃろう。
あぁ、そうじゃ。魔物と戦うのは、精霊様に任せるように。ラムダも戦うつもりなら、魔法のみでやれ。わかったな?」
「えと、何か理由が?」
「あたしが許可するまで、あたしのいないところで剣を振るな」
「では、素振りとかもダメですか?」
「それは構わん。実戦では使うな。変なクセがつくと、直すのが面倒だ」
「はぁ、了解しました」
その場合、苦労するのは、オレなんだよな……。気を付けよう。
「では、解散。
魔物を狩ってこい。
あぁ、ラムダ。その前に……」
「? なんです、クライネさん? あ、師匠とか先生とか、呼んだ方が良いですか?」
「好きにしろ。
そうではなく……酒をくれ。買ってあったじゃろう?」
……。
いや、何も言うまい。
ただ、寝坊はしないでくださいね、師匠。




