9話
「は?」
……死んだ? 誰が? オレが? じゃあ、今ここにいるオレは?
「今の貴方は魂だけの存在となり、ここにいます。
ちなみに、何故わたくしの寝室に呼んだかと言いますと、兄が来れないように、です」
「では、何故私を呼んだのですか?」
それに、お兄さんというと……神様ですよね? まぁ、妹の寝室には入りづらいか。
「兄のことはともかく、貴方に言いたいことがあるからです」
言いたいこと。一つしかないか……。
「わたくしの頼みを、貴方が断ったことです。
もちろん、貴方の言い分も理解できます。
わけもわからず、異世界に行け、などと言われて首肯するのは、愚か者です」
「……そう言って頂けると。しかし、貴女がそれを言いますか」
「ええ、でも、愚かな子ほどかわいいのです、とっても。
彼らは皆、愛すべきかわいいわたくしの子」
女神様はそう言って微笑む。
しかし、口では微笑っているが、オレを見る目はそうではない。そのプレッシャーは、オレから抵抗する力を奪う。女神様の方を見ることができない。
……これが本来の神か。
「だから、愚か者ではない、わたくしの子ではない貴方のことが嫌いです。恨みます。憎みます。わたくしの前から消えて欲しいです。でも……」
不意にオレへのプレッシャーが止む。顔を上げると、そこに女神様はいない。
どこに行ったんだ? いくらなんでも、移動すればわかるのに……。
「貴方は、わたくしの世界に来た。ならば、貴方もわたくしのかわいい子の一人。許しましょう。そして、愛しましょう」
声が聞こえると、背後からそっと抱き締められる。その両の腕はオレの首に回っている。
「っ!?」
「うふふ。でも、ただ許すのでは駄目だわ。示しがつかないもの。罪には罰が必要。なにが良いかしら」
たおやかな指が、オレの頬を撫でる。嗜虐的で、それでいて官能的で。
「そうだわ。
貴方は死んでしまった。でも、せっかくわたくしの世界に来たのだから、楽しんでもらわないと。だから、生き返らせてあげる。死ぬ度に生き返らせてあげる。いいえ、死んでは駄目ね。死ぬほどの傷を負っても、すぐに治すわ。老いも許さない。老いて死ねるなんて思わないで。
――貴方に死ぬことを許さない」
オレの頬を撫でていた女神様の指は、いつしか胸の――心臓の辺りを触っていた。
あたかも、この心臓は自分のモノだと言わんばかりに。
「そうだった。貴方はお兄様から、加護をもらっていたはず。それなら、その加護を強化しましょう。
――お兄様とわたくし、二柱の加護。
もうどんな神でも、貴方の加護をはずすことはできない。たとえ、お兄様であっても……」
女神様の指がオレの胸を貫き、心臓に何かが刻まれる。
「貴方への加護。
貴方への祝福。
貴方への呪――
絡み合ったこれらは、未来永劫、貴方を縛る。
忘れないで。
これがわたくしから贈る貴方への――愛なのです」
女神様の言葉と共に、視界がぼやけ、やがて暗転した――




