88話
かくかくしかじか。
……ではないが、なるべく簡単に説明した。
もちろん、オレのことは最小限に話したよ。
別の世界から女神様に連れてこられた、とか、不死にされた、とか、余計なことだし。
焦点は、ヴィヴィのことです。
過去に暴れていた魔物が、歳月が経って、精霊になることなどあるのか?
ディーネによると、可能性としてなくはない、ということだった。
精霊がどういう条件で生まれるのか、本人(本精霊?)でさえよくわかっていなく、いつの間にか存在しているし、そんなことは気にしたことがないのだという。
だから、魔物が精霊になってもおかしくない……かもしれない。
って、言われてもなぁ……。
ヴィヴィに以前のことを聞いたが、よくわからない、気付いたらあそこに閉じ込められていた、とのことだった。
いずれにせよ、ヴイーヴル──ヴィヴィはオレと契約した。
今後、暴れることなく生きていくだろう。
クライネさんには、それで納得してもらうしかない。
「そうかい……。
しかし、あの魔物が、こんなかわいらしい嬢ちゃんになるなんて……夢想だにしなかったのう……」
ちなみに、ヴィヴィがクライネさんの言う魔物か確かめるために、一度お屋敷から出て、ヴィヴィに元の姿に戻ってもらっていた。
クライネさんは、とても驚いていたが、理性的な様子のヴィヴィを見て、また驚いていた。
「まぁ、なんじゃ、何事もなく済んで、良かった良かった。
今なら、あの魔物を倒せる自信はあったが、それでも何が起こるかわからんからなぁ」
……確かに、クライネさんなら、あのヴイーヴルを一人で倒せそうだ。
マジで何者なんだろう、この人?
「これから、どうするおつもりで?」
「そうじゃな……特に用はないのじゃから、帰るか。
……?
考えてみれば、ここへ跳んできたのは良いが、どうやって帰れば……?」
……。
は?
「しまったな、食糧も金もないぞ。
そもそも、ここは大森林のどこら辺じゃ?」
……頭痛が痛いです。
「あの……クライネさんのお住まいはどちらです? この大陸ですか?」
「いや、ここから北にある小さな島国じゃ」
聞けば、異変を知った仲間の魔法使いさんに呼び出されたクライネさんは、そのときはまだ事情を知らなかったので、手ぶらだったそうだ。
そして話を聞いて、自分が魔物を倒すべく、現地に行くことに決めたのだ。
魔法使いさんは、クライネさんがそうするだろうと予測してたので、剣と鎧を既に準備していた。
このときに、互いに思い違いが生じた。
魔法使いさんは、クライネさんは旅慣れているので、最低限の準備はしているのだろう、と。
クライネさんは、剣と鎧を用意してもらったので、ついでに旅費などは用意してあるのだろう、と。
そして互いに確認することなく、「行けるか?」「うむ」とのやりとりだけで、転移してきたのだ。
「あっはっは。
うっかりしていた。
これは完全に年じゃな!」
……笑い事ではないですよ。
森の中ですよ。のたれ死んじゃいます。
「いやはや、参った参った。
どうしたものか……」
笑うのをやめて、クライネさんは真剣な顔で何かを考え出した。
最初から、そうしてくださいよ。
「と言っても、あたしにできることなんて、ひとつしかないね。
すまんが、助けてくれんか?」
と言って、クライネさんはオレに頭を下げた。
……まぁ、そうなんだよね。
ディーネの転移については、既に話してある。
じゃないと、オレたちがこんな森の中にいる説明がつかない。
ディーネに港町に転移してもらえさえすれば、後は船に乗れる。
旅費は自分で稼げるだろうし。
「もちろん、タダとは言わん。あたしにできることはなんでもしよう」
「あー、それじゃ、お願いが一つあります」
「なんじゃ?」
「このお屋敷、私に譲って頂けません?」
「む? ここを、か? 確かにもう来ないから必要ないが……。こんな僻地にある建物じゃぞ?
そんなことで良いのか?」
「はい」
そんなことが良いのです。
「……そうか」
そう呟いて、クライネさんはしばらく考え込んだ。
あれ?
そこまでの要求だったのかな?
少しして、クライネさんは顔を上げた。
そして、ニヤリとした。
その表情は、オレの背筋を粟立てる。
……スゲー嫌な予感がしますよ。
「良いだろう。
この屋敷は、これよりお主のものじゃ」
「……ありがとうございます。
では、早速ですが、これから町に行きましょうか。お手数ですが、裏庭の方に……」
「まぁ待て。そう慌てるな。
あたしも折角こんな遠方まで来たんじゃ。
少しはノンビリしたい」
クライネさんは、ニヤニヤ笑っている。
「いや、しかし、ここは何もないですし、ノンビリするには適さないと思うのですが……」
「何もないから、ノンビリできるんじゃ。
すまんが、あたしを助けると思って、面倒みてくれんか?」
ぐ……やられた。
オレがこのお屋敷をもらう条件は、クライネさんを助けること。
逆に言えば、助けなければ、お屋敷はもらえない。
そして、『助ける』ということの、しっかりとした内容は決めていなかった。
オレは勝手に、町に転移してしまえば良い、と思っていたけど、クライネさんは、お屋敷に滞在するから自分の面倒をみろ、という。
オレはその要求に応えないと、お屋敷はもらえないのだ。
いや、もうクライネさんが譲ると宣言してしまったから、オレに要求に応えないという選択肢はない。
なんということでしょう。
オレが迂闊だったのか、クライネさんが一枚上手だったのか。
今オレの顔は、とても引き攣っているんだろうなぁ……。




