76話
「────────ッ!!!」
それは、憤怒の叫びだった。
それは、怨嗟の叫びだった。
そして、それは──歓喜の叫びだった。
ざあっと風が吹いて、土砂が散っていった。
そこにいる『何か』の姿が見えてきて、言祝ぐかのように、陽光に照らされた。
あれは……なんだ?
距離があるからハッキリしないが、大きい。
五m……いや、十m近くはある。
一見すると、上半身が女性の姿で、下半身は蛇という、ラミアに見える。
けど、微妙に違う
背中に蝙蝠のような羽があるし、所々に鱗が生えている。
そして、最大の違和感は、下半身だ。
蛇のようにも見えるが……。
あ。
もしかして、龍かな?
なんか鬣っぽいのもあるし。
それに……脚がある。鳥類の脚みたいだけど。
ふむ。
思い出した。
某悪魔召喚のRPGで見たことがある。
ヴイーヴル……だったかな?
額に宝石がある女性の精霊で、蝙蝠の羽、鷲の脚を持つドラゴンだ。
確かによく見ると、額に紅い宝石がある。
あれを奪うと、言うことを聞かせられる、っていうのを読んだのを覚えている。
でも、あのサイズだと、ムリだよね。
っていうか、どうやって奪うんだ?
うーん? うろ覚えだから、もしかして勘違いしているのかな?
まぁ良い。
あんなのは相手にしていられない。
メチャクチャ暴れているし。
逃げよう。
……っていうか、本当に、ここはどこだ?
メルガルド大森林のお屋敷にいたはずなのに。
森も、建物も全くない。
どうなっているんだ?
とりあえず、ヴイーヴルから離れよう。
ジュリアにはコシュタ・バワーに、ディーネと二人で乗ってもらって。
オレはそれに並走しよう。
馬車だと、いざというときに困るかもしれない。
では、準備ができたので、行こう。
走って、走って、走りまくって。
目の前には、ヴイーヴルが暴れている。
なんでだよ!?
方向転換。
直角に曲がる。
また、走って、走って、走って。
目の前には、ヴイーヴルが暴れている。
おかしい。
ループしているようだ。
まさか?
お屋敷でループしていた。
原因は魔法陣だ。
その魔法陣を、オレは破壊した。
結果、ここがループしている?
逃げられない。
ならば、どうする?
ヴイーヴルを倒す?
なんかしっくりこないが……他に原因らしきものが見当たらないんだよな。
倒したからといって、はたしてここから出られるのか?
わからない。
わからないけど……。
ぞくり、と悪寒がした。
顔をあげる。
頭の中で【危険察知】が反応し出した。
……遅いよ。
ヴイーヴルと目が合った。
いつの間にか、暴れていたヴイーヴルがじっとオレのことを見ている。
その眼差しの中にあるのは──純粋な殺意。
額の宝石が陽光を反射して、ギラリと光り。
龍尾をくねらせ、腕を振り上げ。
「────────ッ!」
喚声を上げ、その巨体でオレを押し潰さんとばかりに、突進してきた。
腕と龍尾を振り回し、あるいは全身でもって攻撃してくる。
避けられない!
大きな身体は、それだけで武器だ。
近寄られて、その身体を振り回すだけで、オレは巻き込まれて、吹き飛ばされる!
ぐう……。
ただ、ヴイーヴルの質量に対して、オレの方が断然軽いので、潰されないように吹き飛ばされれば、死ぬことはない。怪我だけで済む。
怪我だけならば、すぐに治る。
「────────ッ!」
また、蝙蝠の羽が羽ばたき、空に舞い上がるや、急降下して鷲の脚で掴まんと突撃してきた。
全力で回避する。
ギリギリとか考えない。
次第にタイミングが掴めてきた。
攻撃パターンもそんなにないので、ちょっとしたアクションゲームみたいな感じだ。
何度も繰り返せば、イケるな、これ。
タイミングをみて反撃してみた。
カウンターで振るった剣と魔法は龍鱗に弾かれる。
龍鱗のない場所でも、その体格差からほとんどダメージが与えられない。
ヤバい。
攻撃手段がない。
ヴイーヴルの攻撃は、対処できるようになった。
ただ、どうやって倒したらいいか、わからない。
あー! もうやけくそだ!
「────────ッ!?」
おや?
大きな落とし穴を掘ってみたら、意外にも簡単に落ちた。
穴の縁に手をかけて這い上がろうとするヴイーヴルだが、そうはさせない!
ディーネに合図して、二人で魔法攻撃をする。
狙いは肘の辺り。
上半身は人と同じなので、カックンと肘を曲げてしまうヴイーヴル。
顔が地面の近くまで下がる。
そこをコシュタ・バワーに乗ったジュリアが、騎士槍でもって突撃した。
「────────ッ!?」
額の宝石に槍が当たる。
直前に頭を振るように避けたので、掠めるような、ほとんどダメージのないような一撃だったが、ヴイーヴルは絶叫を上げた。
やっぱりアレが弱点なのか!?
ならば!
ディーネとジュリアに牽制をしてもらい、ヴイーヴルに落とし穴から出られないように頼む。
オレは、【空歩】で上空に向かう。
ヴイーヴルは、ディーネとジュリアに気を取られ、オレから視線を外している。
その隙に、ヴイーヴルの死角である頭上に行った。
落下。
【空歩】を駆使して、額の宝石に触れる。
零距離からの魔法攻撃。
【魔闘撃】も考えたのだが、【空歩】からの切り替えがうまくできそうになかったので、単純に魔法を放つことにした。
属性魔法にする手間も省き、その分、破壊力を重視した【無魔法】。
オレはヴイーヴルの額の宝石に触れたまま、全力で魔力を解放したのだった。




