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75話

 床一面の魔法陣。

 その中央に刺さった杖。


 うん。

 この上なく怪しい。


 なんでこんなの見逃すんだ、オレ?

 言い訳するなら、頭の中が沸騰しかけていたのだろう。

 だって、しょうがないじゃないか。

 お腹が空いたし、風呂に入れないし、黒いGが出てくるし。

 情状酌量の余地はあると思うよ。


 ……戯言(ざれごと)はさておき。

 問題は目の前のこれである。

 ディーネ、これがループ現象の原因?


 ふむ。


・『何か』を封印している

・その『何か』が持つ魔力を利用して、この魔法陣を維持している

・万が一封印が解けても、建物をループ化させることで、『何か』が外に出られないようにしている

・だから、外から中に入るのは簡単だった

・オレたちが外に出るためには、魔法陣を壊すしかない

・壊すと『何か』が暴れる可能性が大きい

・封印せざるを得ない『何か』が暴れるのは、避けたい


 ……詰んでるなぁ。

 その『何か』と話し合いはできませんか?

 争いでは、何も解決しないよ。


 強引に封印させられて。

 身動き取れなくされて。

 魔力を勝手に使われて。


 これじゃ、話し合いには応じませんよね、そうですね。


 どうしたものか……?


 ふぅ。

 いくら考えてもムダだな。

 オレはここから出たい。

 その考えは、変えられない。

 であれば、オレはオレのエゴのために、我を通すだけです。

 封印された『何か』には気の毒だが、諦めてもらうしかない。


 最悪、逃げよう。

 魔法陣を壊せば、建物内ののループはなくなるから、脱出は可能だ。

 その『何か』を解き放つことになるが、しょうがない。


 ──それでも、オレはここから出たいのだ。


 魔法陣の中に入る。

 一瞬、抵抗を感じるが、無視して進む。

 中央の杖の前に立った。


 オレの身長より少し高い。いわゆる、長杖というものだ。

 材質は何なのか、見てもわからない。

 金属のようにも、木材のようにも見える。

 ただわかるのは、それが凄まじい魔力を帯びている、ということだけだ。


 ゆっくりと指で触れてみる。

 指先からピリッとした感触があった。

 ……魔力が漏れている。


 封印が弱くなっている。

 いずれこの封印は、自然に解けるだろう。

 そう思うと、少し気が楽になった──なってしまった。


 遠くないいつか、勝手に封印が解ける。

 ならば、今、オレが封印を解いても同じだ。

 オレのせいではなくなる。

 そう考えてしまった。


 ハハハ。

 両手で長杖を掴む。


 ハハハハ。

 おもいっきり、床から長杖を引き抜いた!


 ハハハハハ!

 その勢いのまま、長杖を降り下ろし、再び床に突き刺した!

 そして、オレは自分の魔力を全力で制御もせずに、魔法陣に流し込んだ!


 ハハハハハハ!

 滑稽だね。

 身勝手だよ。


 自分のエゴで壊すはずなのに、それが自分のせいではなくなるのを知ると、安堵するなんて。

 なんて勝手な!


 魔力を流しながら、オレは自嘲する。


 開き直ったつもりで、でも罪悪感があって、それが和らいで。

 違うだろう。

 この封印がいつか壊れる、なんて関係ない。

 今、オレが、壊しているんだ!

 それはオレのせいなんだ!


 元々の魔法陣の魔力が、オレの魔力に反発して、逆流してくるが、無理矢理抑え込んだ。

 負荷が掛かって、腕の血管が破裂し、血がしぶいた。

 しかし、すぐに治り、また破裂する。

 何度も繰り返す。


 オレのせいで封印を壊す。

 ならば、徹底的にそうしてやる!


 魔法陣が強く発光しだした。

 その光は、どんどん強くなる。


 どうなっても構うものか!

 いくらでも抑えてやる!


 光が拡がり、何も見えなくなり──


 ……………………

 ………………

 …………

 ……


 反発していた魔力がなくなり、オレの魔力が際限なく魔法陣に注がれていくのがわかる。

 が、それも次第に収まっていき、やがて注ぎきれなくなったところで止めた。

 一時的に魔力が空になったせいか、なんかスッキリです。


 強い光で何も見えなかったが、視界は徐々に回復していった。

 何度か瞬きをして、周囲を見回す。


 ディーネとジュリアが少し離れたところにいるのは、わかっていた。

 特に異常はなさそうだ。


 ……?

 ここはなんだ?

 オレはお屋敷の地下室にいたはずだけど……。


 周囲を見ると、そこは平原だった。

 平坦で何もない。

 上空には太陽の光が、燦々と降り注いでいる。


 不思議に思って、簡易マップを見た。

 現在地は、メルガルド大森林の中のお屋敷のままだ。

 メニュー画面から、『地図』(マップ)を見ても、オレはメルガルド大森林にいる。


 どういうこと?

 いるはずの場所と、目に映る光景が違いすぎる。


 ……考えられるのは、地図機能が壊れた。

 もしくは、オレの目がおかしくなった。

 あるいは──


 ドォオォォォォン!


「うおっ!?」


 なにごと!?


 音のした方を見ると、土砂が巻き上がっていた。

 そして、その土砂に紛れて大きな影が──


「────────ッ!!!」


 吼えた。


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