7話
「はぁ……はぁ……」
あーしんどい……。足に力が入らない。
地面に膝を付くと、目の前に血まみれの犬が……。
「……うぇ、げほ……」
びちゃびちゃ、と音が聞こえた。どうやら嘔吐したようだ。自分のことなのに、ふわふわと現実感がない。
胃の中が空っぽになり、喉が痛くなった。それでようやく、身体の感覚が戻ったような。
でもそのためか、血と吐瀉物の臭いで、また気分が悪くなっていくので、ふらふらとその場から離れる。
杖を支えにしばらく歩くと、だいぶ気分も良くなったので、オレは目の前にあった樹の根本に腰を下ろした。
水が欲しい。
水筒を『アイテム』から取り出した。軽く口をすすいでから、いったん吐き出し、改めて水を飲む。ぬるめの水が喉を通る感覚が、心地よい。
大きく息を吐き出した。さぁっと風が吹いて、服にこもった熱を払っていく――
慌てて立ち上がり、辺りを見回す。……危ない。さっきと同じミスをするところだった。
安全だとわかるまで、気を抜くな。
オレは杖を構え、油断することなく辺りを見回し……、
「……さっぱりわからん」
獣の気配なんてわかるか! 40年近く生きてきて、こんな森の中なんて来たことない、生粋の現代っ子なんだぞ!
「……はふぅ」
オレは上を見る。絶対ではないけど、現状より安全なところと言えば……樹の上かなぁ?
見たところ、太い枝も多いし、密集している。上手くやれば、見つからないだろう。少々楽観的なのは自覚しているが、他に考えつかないし。早く休みたい……。
オレは持っていた水筒と杖を『アイテム』に収納し、ぐるっと見回して、目についた登りやすそうな樹に登る。
木登りなんて30年ぶりぐらいだなぁ、などと思っていると、意外に簡単にできた。息も切れないなんて、スゴいな、オレ……というか、この身体。
調子に乗って、結構高くまで登ってしまった。下から見るとわからなかったが、この樹はかなり高かったようだ。
「……うわぁ、すげぇ」
オレは枝から立ち上がる。樹はざっと30m――10階建てのマンションぐらい――はあるようだ。周囲の他の樹は15〜20mぐらいだから、まわりが良く見える。
呆然とする。なんと見る限りこの森は、地平線まで続いていた。さらに……。
「……なんじゃあれ?」
地平線のさらに奥。距離がありすぎて、もはや霞んで見えるが、それでもそれが見える。その存在感がスゴすぎて、圧倒的とかを通り越し、現実感がなくなるほどだ。
「……なんだ、あの、巨大な、樹は……」
その樹は地平線の奥にあるので、ここからでは幹が見えない。それほど離れていてなお、枝葉は天にも届けよう、周りの木々をも覆い尽くそう、とばかりに伸びているのがわかる。
「……異世界、スゴい」
オレは、はじめて異世界に来たことを、実感した。




