54話
霧を晴らして、泥を乾かしてるうちに、城から騎士が数名やってきた。
少ないし、そもそも遅いし。
……と思ったけど、今やってきた騎士は追加戦力で、既に一陣が壊された城壁の方に向かって行っていたようだ。
デュラハンが速すぎた上に、建物の屋根を跳び越えて駆けていったから、すれ違いになったのだ。
それは仕方ない。
暴れていたはずのデュラハンが、オレの近くで跪いているのを見た騎士たちは、困ったようにお互い顔を見合わせた。
まぁ、問答無用で剣やら槍を突きつけられないだけ、有り難い。
面倒だ、と思うも、オレは簡単に事情を説明した。
かくかくしかじか。
ついでに、魔法使いギルドでもらった精霊である証の水晶を見せて、ディーネが精霊だと話すと、城の中に連れていかれた。
デュラハンも一緒に、と言うと、渋い顔をされる。
しかし、城に仕える魔法使い(宮廷魔法使い)が現れ、デュラハンがオレと契約している精霊だと話してくれた──見てわかるらしい──ので、事なきを得た。
城内の一室に案内された。
お茶にお茶請けまでついて、意外と厚待遇。
精霊のお蔭です。
気絶しているナッシュ君は、侍医(って聞いたけど、良いのか?)に診てもらえるというので、別室に寝かせている。
連絡を受けた魔法使いギルドの副ギルドマスターもやってきて、ナッシュ君のそばにいる。
なんでも、後見人なんだとか。
少し待っていると、四〇代半ばくらいの男性が、ローブを着たいかにも魔法使いだという老人と部屋に入ってきた。
イケメンなオジサマ、オジイサマである。
お二方とも若い頃は、さぞかしモテたのだろう。
「待たせてしまったな。俺はグレイ=アッシュバーン。近衛騎士団の団長をしている」
「ワシは筆頭宮廷魔法使い、メゼル=デルソンじゃ」
オレは慌てて立ち上がって、
「失礼しました。私はラムダと申します。こちらは、水の精霊であるディーネ。それと、デュラハンの……」
しまった。名前、わからん。
「ほぉ。精霊の名付けをまだしておらんのか。
これは良い。ワシは見たことがないのじゃ。
差し支えなければ、今、ここで名を付けてくれんか?」
えー? ここで? 良いのか?
デュラハンの方を見ると、やたら頷いていた。
頷くっていうか、首を手で上下に振っているけど、大丈夫なのか、それ?
「それでは、えと、うーん?」
女性なんだよな?
なら……デュラハン……デュラハ……デュリハ……?
「ジュリア、でどうかな?」
さっきまではハートブレイクしてたし、ちょうど良いか(自分で言うのもなんだが、古い)。
デュラハン──ジュリアは、またまた手で首をシェイクしている。
三半規管、強いな。
そんなオレたちの様子を見ていたメゼル様は、
「ふむ。文献によると、名を付けることで精霊の力が強まる、とあったが、見たところ、変化はないな。しかし、力というのが何を表しているのか、それによって……」
ふむふむ、となにやら頷いている。
あー、オタク系の人は、こんな感じになりがちだよな。
友人にもいたよ。
「このシジイは、まったく。
……すまん、こうなると、面倒なんだ。無視して構わん。
それより、立ってないで、座って良いぞ。
茶も替えよう」
グレイ様はそう言うと、控えていたメイドさんにお茶を入れさせた。
なんか、苦労性なお人なのだろうか。
オレたちはふかふかのソファーに座って、お茶を頂いた。
さっきもそう思ったけど、お茶が旨い。
日本にいたら飲めなかった、と考えると、不思議な気持ちになる。
「何度も繰り返させて悪いが、話を聞かせてくれ」
オレの話せることはそう多くない。
依頼を受けた。
その依頼を終わらせて戻ったら、依頼人がいない。
手がかりがたまたまあったので、探そうかと思ったら、暴走した精霊に襲われた。
その精霊を拘束して、大人しくさせるために契約した。
これだけだ。
オレは巻き込まれた、というか、受動的であり、能動的に何かしたわけではない。
結局のところ、ナッシュ君から話を聞かなければならないのだ。
なので、オレの話は本筋とはあまり関係ないところで盛り上がる。
主に、メゼル様のせいで。
「メルガルド大森林で精霊草を? どうやって見付けたんじゃ?」
「ディーネ殿は、精霊の気配がわかるのか?」
「デュラハンをどうやって拘束したんじゃ?」
「拘束したら、何故大人しくなったんじゃ? ……氷漬けにされて、頭が冷えた、じゃと? そんなこと、あるのか?」
などなど。
目を覚ましたナッシュ君が、副ギルドマスターと一緒に部屋に入って来なかったら、メゼル様の質問は、いつまでも続いていただろう。
来てくれて、ありがとう、ナッシュ君!




