53話
デュラハン。
イギリスだったか、アイルランドだったか、はっきりとは覚えていないが、その辺りに伝わる自分の首を持つ鎧姿の男性の姿をしている。
コシュタ・バワーという首なし馬の引く馬車に乗る妖精だったり、あるいはRPGではアンデッドだったりと、その正体ははっきりとしない。
最近では、とあるラノベに登場するデュラハンは、鎧ではなくライダーズスーツにヘルメットを被り、首なし馬ではなくバイクに乗っている女性が有名だ。
オレが覚えているのは、これくらいだ。
かなり曖昧だが、逆によくこれだけ覚えていたなぁ。
それこそ、ラノベの知識だが。
そして、オレの目の前にいるデュラハンは、ディーネによると精霊らしい。
『死を司る精霊』というそうだ。
デュラハン、かっけーです。
確かに、デュラハンは死神とかいう説もあったような、なかったような。
だから、『死を司る精霊』も特におかしくない。
いきなり、襲いかかってきたくらいだし。
うん?
このデュラハンは暴走した結果、近くにいた魔力の強い存在に攻撃を仕掛けた。
その魔力の強い存在が、ディーネ。
何故、攻撃するのかといえば、その魔力を取り込むことで、さらに自身の力が増すから。
だから、襲われた……ということ?
ディーネはコクコク頷いた。
では、何故、暴走したんだろう?
ふむ。
何らかの理由で、ナッシュ君を取り込んでしまった。
そのことで、デュラハンの魔力は強化されたが、強くなりすぎて制御ができなくなってしまった……か。
じゃあ、ナッシュ君を助ければ、自然にデュラハンの暴走も収まる?
そうらしい。
では、やろう。
氷漬けのデュラハンは大人しくなったけど、どうすれば良い、ディーネ?
オレがデュラハンと契約する?
ディーネとやったように?
キス、するの?
ここで?
人が集まってきたよ?
あ、霧なんて発生させることができるのですね。
いや、だからと言って、ヤダよ、男となんて……。
ぎゃあ!?
兜ごと首が取れた!?
……あれ? そういえば、デュラハンだった。
ディーネさん、そんな無造作に人様の生首を扱っては……あぁ、兜はもっと丁寧に外してあげて。身体の方がジタバタしてますよ、氷漬けだけど。
……って、女性だったの?
え? デュラハンって、女性しかいない?
ナニソレ? 初耳です。
首だけ、だけど。
綺麗な女性です。
いや、綺麗というよりは、格好いい──女性に言う言葉ではないが。
背も高いし、その凛とした表情はどこかの歌劇団にいたら、トップに立つだろう。
首だけ、だけど。
興味深く、ジッと見ていたら、目を逸らされた。
恥ずかしかったようで、赤くなっている。
それもそうか。
首だけ見られているわけだし。
ごめんなさい。
待て。
ディーネさん、何故、オレの身体を押さえる?
待て。
ディーネさん。何故、その彼女の首を近付ける?
待て。
デュラハンさん。何故、目を瞑る?
あ、やわらか──
長らく、オレは弱っていた。
そのオレを見付けた獣人の子供は、精霊草を使ってなんとかしようとしたのだろう。
まだ時間があるはずだったが、精霊に会った獣人の子供を見たオレは、その存在を知り我を失った。
近くに強い精霊がいる。
その力を得れば……?
オレはそう考えた。
今は弱い。強い精霊に勝てない。
そうだ。
目の前の魔力を取り込んで力にすれば、敵うかもしれない。
そうすれば、強い精霊に勝って、もっと力が強くなれる。
力が強くなれば、もっと生きられる。
だから、オレは──
「……生きる……ためには……」
ハッと気付いた。
横になっていた身体を起こす。
ふよん、と顔に柔らかい何かが当たったようだけど、鋼の意志で無視する。
ディーネが膝枕をしてくれていたようだ。
礼を言う。
オレの足元には、デュラハンが跪いていた。
──自分の首を小脇に抱えて。
その背後には、気絶しているらしきナッシュ君を乗せた首なし馬もいる。
なんというシュールな絵面だ。
デュラハンの首が美人なだけに、なおさらそう思う。
ディーネに訊くと、そんなに時間は経ってない、とのこと。
そういえば、霧はまだ晴れてないな。
うーん?
事態の収拾をどうやってつけよう?
逃げたいけど、オレとディーネのことは、バレているしなぁ。
どうしたものか?




