51話
揺れは収まったが、煙なのか、土埃なのか、よく見えない。
ディーネが城壁の上から、手招きしている。
いやいや、上がれませんよ。
そんな顔されても、ムリなものはムリです。
周辺を見回したディーネは、何か見付けたようだ。
ロープみたいだ。
固定してオレのところに、落としてきた。
上がれ、と?
ハァ。
まぁ、良いか。
オレもあの揺れは、気になる。
よいしょっと。
日本にいた頃は、こんなことできなかったよな。
そもそも、トラブル的なものには近寄ろうともしなかった。
変わったもんだ。
ロープを便りに、城壁の上に上がる。
景色はなかなか。
そして、オレの目に見えるのは都市を囲む壊された壁の向こう──
土埃に紛れているが、黒くて、暗い闇の塊がうごめいている。
次第に、その塊は形を成していき、同時に風が舞い、周囲の土埃を払っていくと、はっきりとその姿がわかる。
馬に騎乗した鎧を纏った騎士だ。
それも、ただの騎士ではない。
首がないのだ。
兜を小脇に抱えているが、あれはもしかして?
よくよく見ると、馬にも首がない。
ということは……?
「……デュラハン?」
オレの口からその単語が漏れた。
その答え、というわけではないだろうけど、首なし馬が前肢を振り上げいきり立ち、走り出す。
騎士は慌てずに、馬の手綱を掴み、小脇に抱えていた兜をかぶる(首はないが、鎧に固定できるようだ)。
デュラハンは、どこからともなくランスを出して、突撃を始めた。
周囲にいた人々は慌てて逃げ出し、警邏隊が駆けつけようとしたが、混乱に拍車がかかるだけだった。
巧みに手綱を操り、首なし馬──コシュタ・バワーっていうんだっけ?──は、人の頭を障害レースのように跳び越していく。
そのままジャンプして、建物の屋根に上がり、一直線に城の方に向かってきた。
すなわち、オレとディーネのいるところだ。
「……なんでこっちに来る? ディーネがいるから、そうですか。
逃げられるかな? ムリですか、そうですか。
まだ、距離はあるな」
狙撃してみよう。
石の弾丸に魔力を注ぎ、高速回転させる。【魔力制御】のせいか、とてもスムーズです。
準備している間に、どんどん近付いてくるデュラハン。
ディーネが牽制の水弾を放つ。
デュラハンが避けた瞬間、石の弾丸をぶっ放す。
これは避けられないだろうと思ったが、デュラハンはなんとランスを盾にした。
ランスは砕けたが、石の弾丸も砕け散ってしまった。
石だものな、むしろランスを砕いたことを自画自賛したい。
デュラハンにダメージはないが、バランスを崩して、屋根から落ちる。
しかし、宙で体勢を直し、うまく着地した。
なんだ、あれ。
騎士がスゴいのか、馬がスゴいのか。
いずれにせよ、無傷です。
こちらを睨むデュラハン。
今度は、ランスと一緒に盾も取り出し、構える。
なにそれ、ズルい。
っていうか、ランスとかどこから出しているの?
まぁ、オレも同じことはできるけど。
やられると意外と堪えるなぁ。
戯れ言はさておいて、これからどうしよう?
逃がしてはくれない。相手の方が足が圧倒的に速い。
倒せるか? オレもディーネも、決定力のある攻撃方法がない。
正確にいうと、なくはないのだが、タメに時間がかかってしまい、その間に接近させられてしまうのだ。
とにかく、デュラハンの機動力をなんとかしたい。
そのためには──
「ディーネ。馬──コシュタ・バワーを狙おう。
倒すか、そうでなくても、足を潰して機動力を削げば、勝ち目が見えるはず」
小声でディーネに言う。
今、オレたちは城壁の上にいる。
これはかなりのアドバンテージだ。
デュラハンがこちらに攻撃するためには、オレたちの前に来なくてはならない。
それより先に、オレたちの攻撃で倒す。
それしかない。




