46話
午前11時。
昼になる前に城門についてしまった。
門衛さんに会釈して、ギルドプレートを見せた。
特に何か言われることもなく、城門をくぐり都市の中に入った。
昨夜、オレはやたらと情緒不安定になっていた。
精神が高揚して、魔法の練習をしてしまったり。
火の明るさにつられて近寄ってきたモンスターを殴ったり。
はたまた、落ち込んで焚き火をじっと見つめたり。
急に寝転んでみたり。
かなりおかしかった、と思う。
特に寝転んだとき、膝枕をさせてしまった。
本当にディーネには、申し訳ない気持ちで一杯です。
横になっていたお陰か、しばらくして──具体的には明るくなってから、冷静になった。
思うに、オレのあの状態は、ストレスだったのだろう。
人は本来、眠らなければならない生き物だ。
それなのに、オレは一晩中起きていた上に、魔物という謎の生物と戦い──それも苦手な上に巨大な虫──続けていたのだ。
さらに知らない場所に連れてこられたし、謎の力──魔法やらスキルを身に付けるし、で、オレの限界はあっさりと突破したのだろう。
それは情緒不安定にもなるさ。
そもそも、基本的にオレはマイペースというか、一日の行動があまり変化しない生活をしていた。
働き始めはともかく、一〇年、一五年も経てば、そんな変化のあることは起きないし、オレの場合、特にそうだった。
ルーティンという言葉が流行ったが、オレは毎日の生活をする上で、なるべくルーティン化させていたのだ。
何も起きないし、起こさせない──そんな毎日を求めた。
それなのに、オレの日常は激動した──させられた。
ストレスが溜まるし、しかしそのストレスも、【状態異常無効】のスキルでなくなるし、眠れなくなる。
感情の揺れ幅は、そのまま、オレの行動に出て、おかしくなった。
昨晩までのオレの異常は、こんなところだったのだと思う。
まぁ、専門家じゃないし、合っているかなんてどうでも良い。
オレ自身がそうなのかな、と納得できたので、それで良いとするのだ。
肝心なのは、これからどうするかである。
これまでの行動において、何が良くなかったのか。
それは、自分の身体に何が起きているのか理解しないままに、前に進んでしまったことだ。
とりあえず立ち止まって、もっと慎重になるべきだったのだ。
具体的には、安全な場所で落ち着くことです。
数日は街中に、引きこもっていれば良かった。
なので、これからしばらくは、そうしていようと思う。
オレとディーネは城門をくぐり、宿屋──『黄金の仔犬亭』に向かった。
今から行って、ついでに昼食を食べられないかな、なんて考える。
目に入ったのは、わかりやすい看板だ。
ここだ、と思いながら、中に入る。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ。っと、あなた達ね」
ニヤリ、と笑みを浮かべながら、女将さんは言った。
「ええと、泊まりたいのですが、空いてますか?」
「大丈夫。前と同じ部屋で良い?」
「できれば、部屋を二つか、そうでなければ、ベッドが二つある部屋をお願いします」
「いえ、他の部屋は空いていないの」
「……では、そこで」
「ハイハイ。ありがとうね。代金は一緒よ。一泊で?」
「いえ、数日……とりあえず、一〇日分で」
「なら、7500Eで構わないわ」
支払う。そういえば、食事は朝夕の二食だっけ?
「今、食事ってできます?」
「料金を払ってくれれば、用意するけど。どうする?」
「お願いします。部屋で食べても良いですか?」
「じゃあ、持っていくわ、待ってて。お金はそのときで」
「ありがとうございます」
部屋に入って少しすると、女将さんが食事を持ってきてくれた。
朝食の残りだったようで、ボリュームがあるわりにかなり安かった。
二人でゆっくりと食事をして、しばらくベッドで横になった。
ディーネが膝枕をしてくれるというので、その言葉に甘えることにしよう。
膝枕はもう何回かしてもらっているので、いまさら恥ずかしくはない。
しかし、上を見ると豊かな双丘が見えて、その破壊力には未だに慣れない。なので目を瞑り、これからのことを考える。
今はのんびりしよう。
頭の下の柔らかい感触を楽しみながら。




