31話
薬草、ね。
それに、メルガルド大森林。
「いくつか聞きたいことをあるのだけど、メルガルド大森林というのは……? それと、薬草はどのような?」
「ここの南にある、ありますとても大きい森、です。
森を切り開いて、この都市ができた……できました」
猫の獣人である少年――名前を聞いてないな。
「申し訳ない。その前に、自己紹介を忘れていた。
私はラムダ。精霊の彼女が、ディーネ。
昨日、この都市に来たばかりなんだ」
ディーネがお辞儀をした。見本にしたいほど、綺麗だな。
「あ、こちらこそゴメンナサイ。
ボクはナッシュ。猫人族だ。じゃない、です」
「話し辛かったら、普段通りの口調で良いよ」
あからさまにホッとしたようだ。
それもそうか。オレも神様と話すときは緊張したし、楽にして良いと言われて、ホッとしたしね。
ナッシュくんは、ネコミミをピコピコさせている。
ネコミミはふわふわもふもふで、肩くらいまであるショートボブ(おかっぱともいう)の髪はサラサラとしていて、髪質がかなり違うようなのが、不思議です。
自分では男だと言うが、女の子と間違えるくらいかわいらしい顔をしている。
まぁ、この年齢――10歳ならそういうこともよくあるし、成長期になれば、嫌でも男らしい顔つきになるはず。
オレも小さな頃はそうだった。よく女の子に間違われたけど、中学生くらいからはなくなった。
ただ、体毛が薄くヒゲがあまり生えないので、年齢より若く見られるのが悩みです。
閑話休題。
「薬草というのは、そのメルガルド大森林にしかない?」
「そう、といわれている。もっとも、他のところでは見つかってないだけ、かもしれないけど」
「うーん、どうして私に依頼する? 昨日、ギルドに登録したばかりなんだが……」
もっとベテランな人がいる。
そういう人に依頼すれば、確実に手に入るだろう。
「ううん、あんたに、っていうか、精霊様じゃないと、駄目なんだ」
「そう断定するからには、精霊様ではないとならない理由がある?」
「資料にはそう書いてある。実際に見つけたのは、精霊様を連れた人達ばかりだし」
ふむ。そういうものなのか。
「だから、精霊様を連れているあんたに声をかけたんだ。エルフの方は期待外れだったし」
精霊と契約できるのは、基本的にエルフとだが、では全てのエルフが契約できるかというと、そんなことはない。
精霊を見つけることができるか、そしてその精霊が契約してくれるかは、運任せらしい。
昨日、ナッシュくんと口論していたエルフは、運のないエルフだったようだ。
「……その薬草は、森のどの辺りにあるのかわかるのか? あの広い森を闇雲に歩きたくないのだが」
「一応、過去に見つかった場所は記録されているよ」
「期間は? 急ぐわけではない? 薬草ということは、怪我人か病人がいるんじゃないか?」
「えっと、早い方が良いけど、今すぐでもない。怪我人とかとは違うんだけど……」
ナッシュくんは目を逸らして、口ごもる。
まぁ、緊急ではないのはわかっていたけど、何か事情がある様子だね。
どうしたものか。
子供が貴重そうな薬草を欲しがる。その理由がいまいちわからない。
急病人がいるから、とかならまだわかる。
でも、ナッシュくんの様子からそんな感じはしない。
何か悪いことに使う、かもしれない。
そうなった場合、責任の所在はどこになる?
ナッシュくん? ギルド? ディーネ? オレ?
迂闊に返事はできない。
「……うん? なに? ディーネ」
ディーネがオレの服を引っ張っている。
顔を見ると、ディーネは頷く。
大丈夫です、と。
……うん。決めた。
「わかった。依頼を受けよう」
「ホント!?」
伏せていた顔を上げて、ナッシュくんは笑う。
子供は笑っている方が良いね。
「その薬草の名前と、形状を知りたい。他にも詳しい情報があるなら、教えて欲しい」
「えっと、名前は精霊草。単純な名前の付け方だよね。
ボクはある資料を見て知ったんだ。だから、ボクの知っていることは、そこに書いてある。
今、それを話したいけど、ボクはこれから仕事なんだ。だから……」
「わかった。もちろん、仕事を優先してくれ。
その資料はどこに? あと、君はどこで仕事を? 連絡先として知りたい」
「うん。資料は職人ギルドの資料室で読んだんだ。
それと、ボクは薬師なんだ。まだ見習いだけど。ここ魔法使いギルドで働いているよ」
なら、薬草――精霊草とやらを見つけたら、ここに来れば良いわけだ。
わかりやすい。
「依頼料だけど……ゴメンナサイ。そんなにたくさんは払えないんだ。
5000Eまでならなんとか……」
相場はわからないが、日本円で50000円と考えると、子供が払うには結構な額だ。もちろん、ここは日本ではないから、なんとも言えないけど。
子供相手に交渉するのも、どうかと思うし。
「それで充分だ」
「じゃあ、受付に行こう。
指名依頼だから、評価は高くなるよ」
たいへん結構です。




