30話
はぁ……。
危ないところだった。
ディーネの柔らかい身体に、負けるかと思った。
スキルも決められなかった。
どれも良さそうなんだよね。
まぁ、これは今すぐじゃなくても良いか。
ただ、その中にあった【睡眠無効】のスキル。
これは耐性系統の一つで、つまり、【状態異常無効】は、その複数ある耐性系統のスキルを一つにまとめたものだと思う。
だとすれば、今オレが一晩眠らないでも、全く眠たくないのは、スキルの影響なのではないだろうか?
もう少し検証がいるけど、それが正解だ、とオレは思っている。
恐らく、今後オレは眠ることはないだろう。
睡眠薬みたいなのも無理だろう。毒の類いも無効だし。
気絶はできるかもしれないが、いちいち夜になるたびに気絶なんてしていられない。
そんなこと、ディーネに頼めない。
これはもう、そういうものなのだと思うしかないな。
メリットはあるだろう。
眠るための時間を他のことに使えるし。
旅をするなら、野宿の必要はなくなる。
だが、デメリットも大きい。
他人にバレたら、説明が面倒だろう。スキルなんだ、で誤魔化せたら良いけど。
それに、肉体的な疲れはともかく、精神的な疲れは眠らないと取れないかもしれない。
もしそうなら、どうなってしまうだろう? 急に倒れたりするかもしれない。
何か備えが必要か?
ふと思い付いて、スキル一覧を見る。
……見つけた。【精神異常無効】。
これも【状態異常無効】に含まれるはず。
だとすれば、大丈夫だろう。
そもそも、あの女神様はオレが精神疾患になることは、許容しないだろう。そんな気がする。
楽観的だけど、そうでも思わなければ、やってられない。
もうちょい、気楽にいきましょう。そうしましょ。
この切り替えの良さも、スキルの影響なんだろうな、と思いながら、ベッドから起き上がる。
さあ、この世界にきて二日目。
もう一月くらい経っているのではないか、とか思うほど濃い一日だった。
今日も楽しく参りましょう。
ディーネも起きた。よく眠れたようで、スッキリした顔をしていた。
そういえば、精霊も人と同じように眠るのか?
なぬ?
眠る必要はない?
眠りは趣味嗜好ですと?
お、オレは一晩モンモンとしてたのに……。
必要のないモンモンだったのか?
なんてことだ……。
ちくしょう! 男の純情を弄びやがって!
そんな小首を傾げて、こっちを見やがって……かわいいじゃないか!
これからも、よろしくお願いいたします!
※※※※※
女将さんは、オレ達を見てニヤニヤしていたが、挨拶だけして無視した。
宿屋の食堂で、食事を摂る。
精霊は、食事も睡眠と同じように、趣味嗜好であるらしい。
ただ、魔力を取り込むことができるので、欠かさない方が良いそうだ。
そういう話は、昨日すれば良かったね。
宿屋を出て、城門へと向かう。
身分証を手に入れたので、仮の証明書を返すのだ。
城門に到着。
生憎、昨日会った髭面の門衛さんはいなかったけど、事情を話して問題解決。
払った通行税の半額を還してもらい、城門から離れて、魔法使いギルドに行く。
獣人の少年に会おう。
ディーネ――精霊様に頼みがある、と言っていたが、さてなんだろうな?
途中で、美味しそうな匂いのする屋台を見つけて突撃。
いくつか買い込んで、ストレージに入れる。時間経過しないらしいので、入れておけば、冷めずにいつでも美味しく頂けるだろう。
朝市のようで、いろいろなものが並んでいる。
興味深く、いつまでも見ていたいが、そうもいかないか。
後ろ髪引かれる思いで、足を進める。
「遅いぞ!」
魔法使いギルドに着きました。
獣人の少年にいきなり怒鳴られたが、はっきりとした時間を決めなかった君が悪い。
まぁ、それはオレもそうだけど。
「それで? 私に話とは?」
「お前じゃない。精霊様に話があると言ったんだ」
……帰ろうかな。
そんなオレの雰囲気を感じ取ったのか、少年は慌てたように、
「いや、違う。待って、待って下さい。
えっと、依頼があるんです、精霊様に」
「……依頼を精霊様に、というけれど、私が彼女を使役している。つまり、私に依頼する、ということになる。
それでも、構わないのか?」
「……う、も、もちろん、です。お願い、します」
少ししどろもどろになったけど、まぁ良いか。この少年は、口が悪いだけなのだろう。
オレは少年に話を促す。
「依頼というのは……メルガルド大森林で、とある薬草を取ってきて欲しいのです」




