25話
部屋から出て、城門へと戻る。
いかつい顔の門衛さんがいたので、会釈した。
「おう。手続きは済んだのか? 書類を見せろ。……よし。通っていいぞ。
それから、その書類はなくすな。なくすとお前も俺達も面倒だからな。
多分、既に何度も言われているとは思うが、何度繰り返しても、なくす奴は減りはしねえんだ」
まぁ、そういうものでしょう。
オレもなくしたいわけではないので、ストレージにさっさとしまいます。
「忠告、感謝します。
ところで、聞きたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「なんだ?」
いかつい髭面だが、思ったより親切だ。
「身分証って、どうやったら取得できますか?」
まぁ、テンプレなら冒険者ギルドみたいなところに行くんだろうな。
「そうだな。……ギルドに行くのが手っ取り早いだろうな」
やっぱり。
「一応、ここの都市民になる、というのもあるが……」
「何か問題でも?」
「金も時間もかかる。申請してから1年か2年後、その間は都市から出ることができんし、仕事もあまりないだろう。当然、犯罪などもってのほかだ。疑われることも、あってはならない」
なるほど、厳しい。
でも、当然だろうな。余所者なんだし。
日本でだって、海外から来た人が国籍を取って住むのは、大変だったと記憶している。
「ギルドのことを、詳しく聞きたいのですが……」
「ギルドはいくつかある。冒険者ギルド、魔法使いギルド、商人ギルド、職人ギルドだ。
どこでも良いから、ギルドに加入すると身分証が手に入る」
すらすら答えてくれる。よくある質問なのかね。
「どこでも良い、ですか。1つだけですか? それとも、複数のギルドに加入しても良いのでしょうか?」
「特に決まりはなかった、はずだが、自分で確認して欲しい」
「それもそうですね。あともう1つ……」
門衛さんに、視線で促された。
結構、時間を取ってもらっているけど、ヒマなのか。それとも、案外話好きなのか。どっちかね。
「オススメの宿屋を教えてもらえませんか? 安くて、料理が美味しくて、清潔なところ」
オレのムチャぶりにも関わらず、真面目に考えてくれている。
世話好きなんだな。
「そうだな。『黄金の仔犬亭』という宿屋がある。城門を入って、正面の大通りを少し行ったところだ。看板を見ればわかる」
「何故、その宿屋がオススメなんです?」
「冒険者ギルドが近い。
……あと、俺の同僚の家族が経営している」
ふむ。なんか変な間があったような気がするけど、まぁ良いか。
「わかりました。行ってみたいと思います。
いろいろお世話になりました、ありがとうございました」
「気にしなくて良い。
ようこそ、メルガルドへ」
※※※※※
オレとディーネは城門を通り、教えてもらった宿屋に向かう。
確か、大通りを少し行ったところ……あっ、あれか。
ディーネに腕を引かれたので見ると、大きな看板に仔犬のイラストが描かれ、『黄金の仔犬亭』とあった。
「わかりやすい。が、ありがたい」
早速、中に入る。
「いらっしゃい」
若干薄暗いが、もう3時過ぎだし、こんなものだろう。
それより、隅まで掃除されているようだし、今も女将さん(だと思われる)はカウンターを磨いている。
店が綺麗なのは、好感が持てる。
なにより――
「すみません、泊まりたいのですが、空いてますか? 門衛さんに紹介してもらったのです」
「あら? 弟かしら?」
そう。さっき話していた門衛さんそっくりの女性がいたのだ。
背が高く大柄だけど、体型はとても女らしい。
特に目元がそっくりで、考えてみれば門衛さんは髭のない状態の顔は、結構女顔かもしれない。
しかめ面して、いかつい顔していたけど。
「ええ。貴方にそっくりの。
ここがオススメだ、と教えて頂きました。
ただ、同僚の家族の宿屋だ、とおっしゃってまして」
「あっはっはっは。
まぁ、間違ってはないんだ。あたし達は双子の姉弟で、あたしの旦那ってのが、あいつの言う同僚だから」
……なるほど。別に嘘をついたわけではないけど、本当のことを話したわけでもない、と。
「いえ、あいつを責めないで。多分、オススメを聞かれて咄嗟に答えたんだろうけど、そこが自分の実家だとは、言いにくかったのね。
実際、あいつはもうここに住んでないんだよ」
ふむ。まぁ、気持ちはわからないでもない。
癒着、とかとは違うけど、気にする人はいそうだ。
「いえ、責めるつもりは全くないです。それより……」
「おっと、泊まりだったね。一泊食事付きで、500Eだ。食事は朝、夕の2食。
あー、悪いけど、今は1人部屋が1つしか空いてない。それでもいい?」
おや。それは困った。
……考えてみれば、ディーネは送還すればいいんだ。そうすれば、宿代も1人分で済む。
と思ってディーネを見ると――ものすごい悲しい顔をしている。
良心が痛い。罪悪感がパない。
「……えーと、では、その部屋をお願いします――2人ですが」
それを聞いたディーネは、大輪の華が咲いたように微笑んだ。
良かった。なんかわからんが、良かった。
「そう。悪いね。宿代だけど、2人で750Eで良いかな。食事も少しサービスしよう」
「ありがとうございます」
オレは亭主に代金を払う。そして、宿帳に名前を書いた。
「すぐに部屋に行く?」
「いえ、冒険者ギルドに行きたいのですが……ここから近いと聞きまして」
「あぁ、ここを出て、広場へ行って。多分、見ればわかる。
っと、そうだ。あまり遅くなると、食事ができなくなっちゃうから、気を付けて」
「はい、わかりました」
次は、冒険者ギルドで身分証を手に入れよう。
あと、買い物しよう。




