2話
……これからどうしようか。
こんな真っ白な空間に放置されてしまった。
周りを見ても何もない。
ヤバい、頭の中がパニックです。
パン、パン!
手を叩いてみたが、当然なにも起こらない。
足踏みしてみる。
跳ねてみる。
なにも起こらない。
困った……。こんなことなら、女神様のさっきの話に頷くべきだったのだろうか。
でも、なにも聞かされず不用意に安請け合いすべきじゃないよなぁ……。
背中が冷や汗で濡れてきた。
世界を救え、か……。オレにはムリだよな、やっぱり。
運動が出来るわけでもなく、知識があるわけでもなく、勇気もない。
流されるままに動いて、出来ることなら、トラブルは避けたい。
そうやって40年近く生きてきたんだ。
今さら変えられないし。
……後悔してもしょうがない。
まずはこれからどうしようか考えよう。
落ち着け、すーはー、頭を冷やせ、すーはー。
うーん、ここから移動するか? 遭難したら、その場から動くべきではない、と聞いたことがある。
でも、それって救助があることが前提だしなぁ。
こんなところにいて、助けがくるのだろうか? 神界ってことだし、他の神様とか……、
「あ、良かった、見つかった。助けに来たよ」
突然現れた眼鏡の男性に声をかけられ、おもわず顔をしかめてしまった。
嬉しいんだけど、ちょっとご都合主義だと思うのは、オレの性格が悪いんだろうか?
「いや、そんなことないよ。さっきのこともあるし、疑うのも当然だよ」
もしかして心を読んだ? それにさっきのことって……。
「そうだね、表層的なことなら分かるかな。それと、さっきのことっていうのは、見てたから」
見てたのなら、なんとかして欲しかったですけど……。
「離れたところにいたから、ちょっと難しかった。ごめんね」
……いえ、そういうことなら。
「あと、あれは妹なんだ。それも含めて、ごめん」
女神様が妹……。つまり、この優しそうな眼鏡の男性は……。
「そう、僕も神だよ。ああ、別に態度とか、言葉遣いとか気にしなくて良いよ。大変だろうし、疲れるでしょ」
……はぁ、ありがとうございます?
「うんうん。敬ってもらって嬉しいんだけど、若い子が四苦八苦してるのを見ると、もっと楽にしてって思うんだよ。まぁ、それはさておき……」
神様はそうおおせられると、溜め息をおつきに……、
「ストップ。普通で良いってば」
……神様はそう言うと、溜め息をついた。
「……本題に入るよ。君は妹――女神に召喚された。本来であれば、そのまま異世界に行くところなんだけど……」
オレは断ったから。
「あの子は今まで断られる、なんてことなかったから」
? そんなに異世界に行きたがるものだろうか……。
「基本的には、そういう人を選別してる。あとは断りにくい状況にしたり――例えば、トラックに轢かれる直前とか。
でも、今回は違う。一人――君が助けた女子高生だよ――を選んで、さらにその周囲の人を数人召喚した。
残酷なようだけど、君はその数人の内の一人」
あぁ、あの子……っていうか……えぇ……マジか。ひでぇ。別に勇者と呼ばれたかったわけじゃないけど……なんかハズい。
「君以外の人たちは皆、異世界に行った。だから、なおさら君が断ったのがショックだったんだろう」
赤くなった顔を冷やしつつ、思う。
だったら、オレいらなくない?
帰って良い?
良いよね。
「悪いんだけど……ムリなんだ、特に君は」
どういうことですか?
「召喚の直前、事故があって術式がバグってね、そう、階段から落ちたアレ。女子高生の子は本命だから急いで直したけど、君は間に合わず」
……つまり?
「通常の術式であれば肉体ごと召喚されるけど、君の場合、魂が複製されてその魂のみ召喚されてしまった。
今さら戻っても、魂の入る余地はないんだよ。無理矢理入ると、君と『君』が肉体の主導権を争ってケンカして、どちらかが、あるいは双方が消滅する」
階段から落ちた後、自分の姿がチラリと見えたのはそういうことか。あのときのオレはすでに魂だけの存在だったわけか。
「……意外に冷静だね」
そうでもないです。FBIです、ファンタジーに(F)、ビビって(B)、います(I)。
「……(スルーしよう)君に選択肢を与えよう。
1、元の肉体に戻る。ただし、先ほども言ったが、1つの肉体に2つの魂は存在できないので、どちらか、あるいは双方が消滅する。
2、このまま何もしない。まぁ、僕が話相手になろう。しばらくすれば消滅する。自殺ともいう。
3、異世界に行く。肉体がないけど……僕が用意しよう。それくらいはサービスかな」
…………頭が冷えた、気がする。もしかして、
「!? いや! 違う! 確かに君からしたら僕と妹がグルなんじゃないかと疑うような選択肢だけど! ほんとに違うんだ! 信じて、お願い!」
はふぅ、疑えばキリがないか……。
そもそも、神様の話が本当か、確認できないしなぁ……。
っていうか、目の前にいるのは本当に神様なのか、実は悪魔だったりするんじゃないか。
「そこからかい……? 申し訳ないけど、信じてもらうしかないんだ。先ほどの選択肢にしても、君の状況から他にはない。これ以上、僕から言えることはないんだ。本当にすまない」
……わかりました。
「異世界に行こうと思います」




