199話
「殿下!
下がってください!
魔法で足を止めるので、仕掛けるのはそれからで!」
「イザベラ様!
真後ろに立ってはいけません!
後ろ足の蹴りを受けては死んでしまいます!」
だあっ!
なんであの二人は、そんなに突撃したがるんだ!
もっと慎重になってくれ!
午後1時。
昼食を食べて、調査を開始しました。
スピアーホースが群れを率いていた原因を調べます。
今まで確認されたことがなかったこの現象。
ただ知られていなかっただけなのか?
あるいは、何らかの異常があるのか?
調べる必要があります。
と言っても、本格的なことはしない。
ノウハウもないので、周辺を歩き回るくらいしか出来ないからだ。
王子様とイザベラ嬢が納得すれば、それで良いのである。
元々、我々はスピアーホースの討伐にやってきた。
そして、その目的は達成されているのだから、あとは帰るだけなのだけど。
王子様とイザベラ嬢は、スピアーホースとの戦闘に参加出来なかったことに納得がいかなかったようだ──まあ、オレが遠距離から魔法で狙撃しちゃったしね。
改めて、自分たちの手でスピアーホースを討伐したいとの仰せです。
しかし、スピアーホースは強敵である。
王子様とイザベラ嬢だけでは、少し不安が残る。
いや、ちゃんと作戦を練って、奇襲をするとか、罠を仕掛けるとかすれば勝率は上がるのだけど、二人の戦闘スタイル的に出来なさそうです。
アヤノさんから見ても、スピアーホースと正面から戦うと、二人だと勝てないと判断したようだ。
もちろん、オレたちがフォローすれば大丈夫だろう。
軍曹先生もいらっしゃるし。
でも、フォローのさじ加減を間違えると、二人のプライドが傷つきかねない。
そうなると、また続けなければならなくなる。
少々面倒くさ──げふんげふん、お二人が怪我する可能性が増してしまいます。
そこで、オレたちは一計を案じた。
調査と称してそこら辺を歩き回り、スピアーホースを避けながら適当な魔物を狩りつつ、タイムアップを狙うのだ。
……改めて考えてみると、大した計画ではないね。
うん、まぁ。
そんなこんなで、周辺を探索することにした。
ゴブリンやワイルドドッグを見付け次第倒していき、薬草や毒草を採取していった。
なるべく王子様とイザベラ嬢には、スピアーホースのことを忘れてもらうためにも、目の前のことに集中して欲しい。
だけれども。
王子様もイザベラ嬢も何かを持っている人間なのか。
はたまた運命に愛されているのか。
あるいは、オレが女神に嫌われているのか。
スピアーホースがオレたちの前に現れたのだった。
オレが簡易マップの反応に気付いたときには、もう遅かった。
土煙を上げて猛烈な速度で近付いてくるスピアーホースを、王子様が見付けてしまったのだ。
尤も、あれに気付かなかったら視力の異常を疑うけど。
それくらいスピアーホースがスゴい勢いで駆けていた。
「いたぞ! スピアーホースだ!
俺がやるから、手出しは無用だぞ!」
「殿下!
わたくしが背後に回って、逃がさないようにいたします!
仕留めるのは殿下が!」
ちょっと待て。
くそ!
あんな速度で駆けている奴の前に行くなんて、自殺志願者か!
「殿下!
下がってください!
魔法で足を止めるので、仕掛けるのはそれからで!」
「イザベラ様!
真後ろに立ってはいけません!
後ろ足の蹴りを受けては死んでしまいます!」
アヤノさんが王子様とイザベラ嬢の腕を掴んで、走り出そうとする二人を止めた。
その隙にオレとディーネで魔法を発動する。
「『ウォーターウォール』」
水──ではなく熱湯で出来た壁を、走るスピアーホースの前に作った。
もちろん、ディーネも同じ魔法を使う。
連続で交互に壁を作ったので、スピアーホースは壁を突き破る度に、熱湯のダメージを受けていた。
同時に、水(熱湯)壁によって走る勢いは削がれている。
土の壁を作れば、多分それに激突して死んでいただろうが、それでは意味がないので、水(熱湯)で。
一〇枚を越えたところで、スピアーホースの足がオレたちの前で止まった。
熱湯のダメージはなかなか大きかったようで、全身が赤く爛れかけている。
それでも火傷くらいでは、この魔物は死なないようだ。
スピアーホースは、敵意マシマシでオレたちを睨み付けている。
その正面に王子様が立ち、剣を突き付けていた。
ただ、その名前の由来になった額の槍の存在が、簡単に攻撃させないでいる。
王子様の横にアヤノさんがいるけど、あまり手出しは出来ない。彼女がやると、恐らく一撃で仕留めてしまうだろうからね。
かといって、ほどほどなんて考えていると、返り討ちに遭いかねないし、難しいところだ。
まぁ、本当に危なかったら、王子様なんて無視してしまうだろうけど。
イザベラ嬢は少し離れた場所にいる。
彼女はメイスと盾を持ち、魔法と併用する戦い方なのだけど、それ故にスピアーホースの背後に立って、攻撃しようと考えていたようだ。
でも、馬の後ろ足キックは尋常ではないので、離れたところから魔法を使ってください、マジで。
ふむ。
スピアーホースの槍はアヤノさんに対応してもらう。
イザベラ嬢は、魔法で足を狙って。
その横から、王子様が剣で止めを刺してもらうか。
スピアーホースの突進からの槍という、一番怖い攻撃はもうないので、無理なことをしなければ、仕留めるのはもう難しくないだろう。
じゃあ、戦闘開始です!




