198話
「『ストーンバレット』」
……よし、ヒット!
そこそこ距離はあったけど、スピアーホースの身体を石弾が貫通した。
交尾中だったので男としてとても申し訳ないが、心を鬼にして狙撃しました。
周りにいた野生馬たちは、スピアーホースが殺された瞬間に逃げ出した。
まぁ、倒そうと思えば倒せたけど……仕方ない。
「むぅ。心が痛む……」
王子様がぼそりと呟くけど、全く同意見です。
せめて、他の馬は逃げてもらって、幸せに暮らしていただきたい。
……自己満足なのは承知の上ですけどね。
「『アポート』」
死んだスピアーホースを引き寄せる。
近くで見るとかなりの巨体だな。
今回は不意打ちで仕留めたけど、正面から戦ったら結構苦戦したかも。
額の槍もスゴいし。
名前の由来になっただけのことはあるね。
何より……アレがデカイ。
よく例えで『馬並み』なんて使うけど……いやはや。
これはビビる。
つか、イザベラ嬢もなにまじまじと見つめているのさ。
まぁ、年頃のお嬢さんなら興味はあるんだろうけど……。
アヤノさんですら横目でチラチラ見ているし。
王子様は王子様で、自分の下半身を気にしている。
隠しているようだけど、ああいうのは端から見てると結構わかってしまうのだよ。
てか、比べたってそもそもの身体の大きさが違うから勝てるわけないんだけど……ま、男としてわからなくもないか。
オレ?
ノーコメントで。
ええい!
ディーネ、肩をポンポンと叩くな。慰めているつもりか!
こほん。
このままでは気まずいし、とっとと〈アイテム〉に収納しちゃいましょう。
「さて、殿下」
「……う、む。なんだ?」
「これで一つ、依頼は完了ですね。
あとは、ワイルドドッグの討伐ですけど、これは帰る途中に遭遇出来ると思いますので、少し休憩してから戻りましょうか」
「あ、ああ、そうだな……いや、待て」
「待ってください!
スピアーホースは、わたくしたちが倒したわけではありません。
これでは、依頼を完遂したことになりませんわ!」
ち。気付いたか……。
うやむやで誤魔化せるかと思ったけど、ダメだったとは。
イザベラ嬢の頬の赤さを指摘して、話題を変えるか?
いや、ムリそうだな。
王子様も自分でやらないと気が済まないだろうなぁ。
そんな表情をしているし。
でも、あのスピアーホース、かなり強そうに見えたけど……この二人で大丈夫なのか?
勝てないことはないだろうけど、ここは平原だから、地の利はスピアーホースにある。
まともに戦闘にならない気がするんだけど……。
むふー、と鼻息を荒くしているイザベラ嬢を見ていると、そこまで深く考えてないようにも思える。
どうしようか?
「先生。大きなものではなかったですが、スピアーホースが群れを率いていたことに違いはありません。
異常事態である、と判断しましたけど、わたしたちはどうしたら良いでしょうか?」
お?
アヤノさんが軍曹先生に質問しているけど……なるほど、それは上手い手だ。
「ふむ。
異常事態……とまでは、何とも言えんな。
いずれにせよ、調査が必要にはなるだろうが……」
顎に手を当て、深く考え込む軍曹先生。
まぁ、アヤノさんも本当は、異常事態とまでは思っていない。
確かに、普通ならば1頭でいるか、せいぜい番の2頭でいるところでしか目撃されないスピアーホースが群れていたことに、疑問は感じるけれども。
それでも、そういうこともあるかもな、と思うくらいだ。
だけど、まさか王子様とイザベラ嬢がスピアーホースを自分の手で倒すことにこだわって、まだ帰ろうとしないとなると、話は別だ。
何か通常と違うようだ、異常事態かもしれない、ということにして、早く戻ろうと促しているのだ。
アヤノさんの目からすると、王子様とイザベラ嬢の二人ではスピアーホースに敵わないと判断したようで、でも、直接そうは言えないから、遠回しに戻ることを提案しているというわけだ。
そうなんだよね。
これで王子様が怪我しようものなら、周りからオレたちに何を言われるかわかったものではない。
別に気にすることはないんだけど、面倒ではある。
それを避けられるなら、詭弁くらいは弄しましょう。
……って言うか、今思えばちょっと失敗したな。
さっきのスピアーホース、みんなで奇襲を仕掛ければ良かったんだ。
王子様とイザベラ嬢も攻撃をさせれば、それで気が済んでいたかもしれない。
それが、オレの魔法の一撃で終わってしまったから、それでは王子様もイザベラ嬢も消化不良となるのも無理はない。
でもなぁ……あのときは、いろいろ考えてあれが最善だと思ったんだし。
馬のくせにハーレムをこしらえやがって死ねばいいのに、いや、オレがヤってやる、と思ったからオレが倒したのではないのです。
本当ですよ……。
おほん。
まぁ、済んだことは良しとして。
王子様とイザベラ嬢の顔を見ると、このまま帰るのは……無理かな?
軍曹先生もそれがわかるから、ちょっと考えているのだろう。
「よし。調査……とまではいかないが、少し周辺の様子を確認しておくぞ。
他のスピアーホースがどうしているか、あるいは他の魔物はどうなのか?
無理をしない範囲で調べる」
はぁ。
仕方ありません。
もうちょっと、我慢しましょう。
オレはアヤノさんと顔を見合わせて、大きく溜息を吐いたのだった。




