159話
「おほほ! 殿下に付き纏う泥棒猫は、とっとと田舎に帰って小麦を育てていなさい! 貴女にはそれがお似合いですわ!」
「彼女を侮辱するのは、止めるんだ! それが、公爵家の令嬢としての物言いか!」
「まあ、殿下! そんな女を庇うのですか!? わたくしは、わたくしこそが殿下の婚約者ですのに……!」
うん。
カオスです。
そして、テンプレさん。
こんにちは、いつもご苦労様です。
アヤノさんが、ジットリとした目でオレを見てくるけど、さっくりスルーします。
だって、こんなことになるなんて、オレだって予想してないよ!
自分の目の前で修羅場が展開されるなんて!
こういうのは、陰でこっそり眺めているのが楽しいのに!
そうです。
オレはもうアラフォーなのに、何故か一七歳のアヤノさんと一緒に学校に通うことになってしまった。
それというのも、ちょっとしたトラブルの防止のために、クライネ師匠とジーク師匠の仕える国──ニューカント王国にお世話になることにしたのだが。
実は、ちょっと訛っているけど、ここは過去に紆余曲折あって日本人たちが建国した国である。
関東出身の人が多かったので、新関東→ニュー関東→ニューカントとなったようだ。
民主主義にしたかったようだけど、馴染めなくて、結局王制になった、という経緯がある。
閑話休題。
ジーク師匠の取り計らいで、ニューカント王国にやって来たオレたち。
師匠の転移魔法で、その日のうちに到着した直後、馬車に乗せられた。
どこに行くのか気になったけど、ジーク師匠のお宅に行くのかなぁ、なんて思って呑気にしていたが。
それが甘い考えだと知ったのは、その数十分後、王立魔法学院の前に馬車が停まったときだった。
確かにジーク師匠はオレに、学校に通うつもりはないか、と聞いてきたけど、それはアヤノさんについてのことだと思っていた。
まさか、オレまで学校に通わせる気だったとは、夢にも思わなかったよ。
それも、貴族の子女が通う国立の教育機関の学校(日本で言うなら東大か?)である。
そこらの有象無象が行って良いところじゃない。
「……師匠。私はもうすぐ四〇になるんです。
さすがに、貴族の子女に交じって、勉強は出来ません」
「儂からしたら、一七歳も四〇歳もたいして変わらん。
勉強など、いくつになってもやるものじゃ」
「いや、建前はそうでしょうけど……。実際に通うとなると、いろいろ問題が出てくると思います」
いや、ジーク師匠。
やれやれ、みたいなポーズするのは、止めてくれません?
それをしたいのはオレです。
「と言うか、お主は見た目からして、四〇に見えん。せいぜいその半分くらいじゃ。じゃから、黙っとけば問題はない。
それから、儂とクライネはこれから少々忙しくなる。よって、その間は、学院で学んでいろ。これも修業の一貫じゃ。
さらに言うと、アヤノだけ学院に通わせることは無理じゃ。
絶対にアーガスト聖王国が何か言い掛かりを付けてくる。
じゃが、お主がいれば問題ない」
むぅ……。
落ち着いて考えてみよう。
そもそも、本来のアヤノさんの所属はアーガスト聖王国になる。
それは過去の協定で決められたことだ。
切っ掛けはどうであれ、アヤノさんが最初に異世界に足を踏み入れたのは、かの国だからだ。
だから、聖王国は(事実はさておいて)逃げ出したアヤノさんを発見したら、その身柄を確保する義務がある。
アヤノさんが一人でのこのこ学校に通っていたら、あらゆる手段を使って、聖王国に連れ戻そうとするだろう。
そして、ニューカント王国はそれを拒絶するのは難しい。
しかし、ニホンジン(ということになっている)のオレがアヤノさんを保護していたら?
そして、そのオレが、過去のニホンジンが建国したという歴史のある、ニューカント王国にいたら?
アーガスト聖王国は、アヤノさんについての交渉はオレとするしかなくなるし、そのオレはニューカント王国に庇護されているわけで、オレがその交渉を嫌だと言えば、ニューカント王国はアーガスト聖王国に対して、オレへの接触を拒否することが出来る。
二重にアヤノさんを守ることが出来るのだ。
実際は、そこまでして学校に通うことはないんじゃないかと思う。
それなら、アヤノさんの存在を隠しておけるし。
表にでなければ、そもそも見付からない。
……のだけど、アヤノさんのことを考えると、そんな日陰者扱いは可哀想だし。
さらに、オレへの修業の一貫なのだ、と言われたら、オレは学校に通うしかなくなる。
んー。
逃げ道がないな……。
はふぅ。
仕方ない。
学校に通うか……。
──そんなわけで。
オレとアヤノさんは、ニューカント王国王立魔法学院に通うことになった。
住まいは、ジーク師匠の家の離れを借りることにした。
防衛のこととか考えると、他の選択肢はなかった。
ついでに、クライネ師匠もそこに住むことになった。
これは、ボディーガードとしてだ。
だから、その世話役にレベッカとエリーゼも連れてきた。
まぁ、森の中のお屋敷に残しておくわけにもいかない。
もし、オレの身に何かあったら、森の中から出られなくなる、という事態も考えられたからだ。
誰もいなくなるお屋敷は、暇を見付けて、掃除をしに行こう。
明日、学院に行くけど、準備は特にしなくても良いそうだ。
そこら辺は、ジーク師匠が手配してくれるのだという。
ありがたく思います。
精霊たちはどうするか?
許可をもらえれば、一人だけなら連れて歩いても良いそうだ。
そこで、精霊たちの壮絶な話し合いの結果、ディーネに決まった。流石です。
……あれ、オレの膝がガクブルしてるけど、何でだろう? 脳裏に浮かぶのは、ディーネの微笑みなんだけど……。
いや、思い出すのは止めよう。
何もなかった。そう、何もなかったんだ……。
そして、明くる日。
オレたちは、午前中に簡単な試験と面接を受けて、そのまま、午後に授業を受けるべく教室に向かい、
「おほほ! わたくしは殿下の婚約者なんですの!
貴女みたいな泥棒猫は、わたくしと殿下の前から立ち去りなさい!」
金髪縦ロールが現れた!
何を言っているのか、全くわからない!
唐突なテンプレイベントの発生に、オレはアヤノさんと顔を見合わせるしかなかった。




