158話
「ラムダ、お主、学校に通うつもりはないか?」
ジーク師匠、本当にお久し振りですね。
そして、突然戻ってきて、何を言ってるのですか?
オレの呆れた表情を見て、師匠は唐突過ぎたと気付いたのか、一つ頷いた。
「急にスマンな。
茶を飲みながら、ゆっくり説明しよう」
まぁ、玄関口で話すことではないけどね。
オレたちは食堂に向かい、そこにいたエリーゼにお茶を淹れてくれるように頼んだ。
おや?
お茶請けは、キュウリの浅漬けだな。
アヤノさんてば、いつの間にこんなものを作ったんだ、ポリポリ。うん、美味しい。良い漬かり具合です。
「それで、話の続きじゃが……。
お主とアヤノには、儂らの国に来てもらいたいんじゃよ。
で、ついでに学校に通っては? という提案なのじゃ。
……あぁ、お主らの状況は、クライネに聞いておるから、わかっている。
それを踏まえての、提案じゃ」
ふむ。
ジーク師匠は、アーガスト聖王国が日本人を召喚した件について話し合うために、一旦戻ったんだったな。
だとすると、そこに来て欲しい云々は、当然それ関連についてだ。
「我々を呼ぶ理由は、なんなのでしょう?」
「まぁ、簡単に言うと、保護じゃな。
実は、ここ──メルガルド大森林のある大陸は、中立を謳い文句にしていてな。国家間の争い事は、表向きタブーとなっている。
じゃが、逆に言うと、何かトラブルがあっても、国の支援は求められん。
その分、冒険者ギルドなどの力は強いのじゃが、それでも限界はある」
んー?
つまり、どういうことです?
「あれじゃな。アーガスト聖王国が、お主らを襲撃しようと考えたら、防ぐ手段がない、というわけじゃ。
他国なら、まだ連中は躊躇う可能性があるがな……」
「そこまで強引な真似、しますか?」
「しない、とは断言できん」
やれやれ、と言わんばかりに、首を振るジーク師匠。
むぅ。
現状、アーガスト聖王国は、アヤノさんの居場所を掴んでいるとは思えない。
だが、それが未来永劫、そうだとは限らないわけで。
もしそうなったとき、ここにいるのは危険だということだ。
なんせ、広大な森の中である。
目撃者も何もいない。
多少強引な手段を選んでも、誰からも文句は出ないのだ。
さて。
アヤノさんはどう思いますか?
「えと……ありがたいお話ではあるんですが、その、大丈夫なんでしょうか?
わたしを保護することで、そちらの国に迷惑がかかるのは……」
「なに、こっそりやれば問題はない」
……そういうことじゃないと思います。
「気にしなくても良い。
迷子になった少女を、儂が勝手に保護するだけじゃ。
確かに儂は国に仕えてはいるが、もう半分引退したジジイじゃし。
仮に、聖王国が文句を言ってきたら、逆に言い返してやるわ。
『召喚された者を、満足に保護もできん貴様らに、文句言われる筋合いはない』
とな。
実際、アヤノは奴隷になってしまっておる。
これは、明確な協定違反となる」
「あれ?
だとすると、アヤノさんを奴隷から解放した方が良いですかね?」
今のままだと、非難を浴びるのは、オレになってしまうじゃないか。
「いや。そうはならない良い言い訳がある」
言い訳って……。もうその時点で、ダメなんじゃね?
「ラムダもニホンジンだと言えば良いんじゃ。
ただ、聖王国に召喚されたわけではなく、たまたま迷い込んでしまった、哀れなニホンジンじゃ、と。
実際、お主は記憶喪失なのじゃろう?
顔立ちも似ておるから、バレる心配はない」
えぇ……?
なにそれ?
「そして、そのニホンジンであるラムダが、奴隷になってしまったアヤノを保護している、というのは、周囲に対して、良い言い訳となる」
んー。
でも、記憶喪失なら、アヤノさんに対しても、保護する理由がないのでは? だって、覚えてないんだから。
「そこは、多少曖昧でも構わん。
『なんとなくそうしなければならないと思った』
とか言っておけば、周りが勝手に良いように解釈してくれる」
うーん?
まぁ、そんなものか。
「それに、アヤノを奴隷のままにしておかないと、拉致されて隷属させられかねんのじゃ。
いや、拉致なんてさせるつもりはないが、な」
確かに、奴隷のままなら、アホなことを考える奴らの牽制になるかな?
ニホンジンの価値は、未だに高い。
そうでなくとも、アヤノさんは美少女だし。
「整理すると、こうなる。
メルガルド大森林に迷い込んだニホンジンのラムダ。記憶喪失なのじゃが、それをたまたま儂とクライネが発見した。
国に連れて行く準備をしているときに、ラムダは奴隷になってしまったアヤノを見付けた。
記憶はないが、なんとなく同郷と思ったので、保護することにした。
と、こういう筋書きじゃ。
いろいろ突っ込まれそうじゃが、これくらい曖昧な方が誤魔化しやすい。
何か聞かれたら、覚えていない、わからない、と言っておけ」
うん。
事実とそんなに違っていないわけだけど。
ま、いっか。
さて。
どうしようか?
クライネ師匠とジーク師匠の国か……。
どうしても行かなければならない理由はない。
ルキア様関係のトラブルはあるけど、そこまで切羽詰まってはない。
アヤノさんにしてもそうだ。
保護すると言うことだけど、実際は監視したいのだと思う。
あわよくば、囮となって、アーガスト聖王国が何か仕出かさないか、と狙っていそうだし。
でも、じゃあ断るか、というと、そこまでの理由もない。
オレたちにデメリットはさほどないと思うし。
アーガスト聖王国が出てきたとき、ジーク師匠──というか国を盾にすれば良いのだから、悪い話ではない。
むしろ、ありがたいくらいだし。
んー。
しばらく、厄介になろうかな?
面倒事が起きたら、逃げれば良いのだし。
それに、異世界に行って学校に通うのは、テンプレイベントの一つだろう。
あ、口に出しておけば、フラグが立つかな?
アヤノさんには是非、王子さまを巡って、悪役公爵令嬢とライバル関係になって欲しいなぁー。
「絶対に、イヤです!」
楽しそうなのに……。




