141話
醤油と味噌が【錬金術】で出来てしまった。
恐る恐る、味見してみる。
……なんか、微妙。
風味というか、雰囲気というか、見た目も何もかも醤油と味噌なんだけど、どこか足りない。
感想として、微妙としか言えない。
何故かはわかる。
使った材料が、大豆ではないからだと思う。
では、何を使ったのかというと、『バカマメ』である。
正式名は知らない。
誰もが、バカマメと呼んでいるこれは、大豆より少し大きく、炒るか、茹でるかして食べるのだ。
大体、塩で味付けして、おつまみとして出される。
ドワーフはこれが好物らしく、濃い目に味付けして酒の肴にしているらしい。
レベッカにどうしても食べたいと言われて、大量に買っておいた。
土に蒔いたら、ほとんど手をかけることなく育つらしいけど、それも、すぐに成長するしたくさん採れるので、放置すると、逆に大変なことになるようだ。
過去に、飢饉になったときも、この豆のおかげで助かった国も多かったという。
今も、お屋敷の庭の片隅に、レベッカによって蒔かれている。
これで、飢えることはないっす、と言っていたが、正直、豆だけで腹を膨れさせたくはないので、頑張ってお金を稼ごう。
さて。
そんなバカマメを使った醤油と味噌だけど、とりあえず、アヤノさんに味見してもらおう。
料理にちゃんと使えるというのであれば、増産すれば良いんだし。
というか、日曜日の夜にテレビで、アイドル5人組が無人島を開拓するという企画があって、そこで無人島に生っていた豆を使って味噌を作る、というのがあった。
それを思い出して、手元にあったバカマメを使ったのだけど……。
魔法というか、【錬金術】がスゴすぎる。
そのテレビ番組ではうまく味噌は作れなかったけど、オレが適当にやったらそれなりのものが出来てしまったのだから。
ファンタジー、恐るべし。
ただ、作ってみてわかったけど、日本の醤油と味噌は本当にすごいものなのだな。
手間暇かけて、伝統を守って。
向こうにいるときは、当然だと思っていたけど、離れてみて初めてわかるありがたさ、ということなんだろうな。
オレも、日本の職人さんを見習って、これからも精進して、美味しい醤油と味噌を作っていきましょう。
……なんか違うような気がするけど、ま、いっか。
夜が明けました。
同じ姿勢でいたために強張ってしまった身体を軽く柔軟体操でほぐしつつ、クライネ師匠が起きてくるのを待つ。
あ、その前に、アヤノさんに醤油と味噌を渡さないと。
もう起きているのかな?
まだでも、台所の目立つ場所に置いておけば、気付くよね?
では、忘れないうちに……。
そう考えて台所に行くと、アヤノさんにレベッカ、エリーゼの三人が既に朝食の仕度を始めていた。
「おはようございます」
「おはようございますっす」
「うん、おはよう」
エリーゼは声こそ出さないが、調理の手を止めて、頭を下げてくれた。
……うん。もう少し、好感度を上げないと、だな。
「どうかしたっすか? 朝食のリクエストは受け付けていないっす」
「いや、そういうわけではないから。
アヤノさん、これなんだけど……」
レベッカの軽口を受け流し、アヤノさんに甕に入った醤油と味噌をみせる。
アヤノさんは蓋を外して、ソッと匂いを嗅ぐと、表情を変えて味見をする。
しかし、期待していたような表情はすぐに消えてしまった。
ふむ。
やっぱりか。
「ラムダさん──様。これは?」
「言いやすい呼び方で構わないよ、あぁ、二人もそれで良いから。
その調味料は、私が試作したものなんだけど……。どうかな?」
いちいち呼び方を変えるのは面倒そうなので、好きなように呼んでもらおう。アヤノさんだけだとちょっと問題なので、レベッカたちもだ。
「醤油と味噌……みたいですけど、ちょっと違いますね。何て言うか、味に奥行きがないと言いますか……というか試作?」
アヤノさんの疑問はスルーして。
うん。同じような感想だね。
やっぱり、大豆じゃないとダメか?
あるいは……。
「でも、出汁を加えるとか、何かもう一手間かければ、変わるかもしれません。いろいろ試してみたいです!」
「そっか。なら、お願いするよ」
「はい!」
うん。是非とも頑張って欲しい。
それからレベッカ。味見は構わないけど、パンに付けても、美味しくないと思うぞ。
現状、塩辛いだけだし。
さて、醤油と味噌はアヤノさんに任せて、稽古に励みますかね。




