14話
いつの間にか目の前に現れた女性に驚いて、オレは大声を上げながら、後退りする。腰抜けた……。
どこから来たんだ? いや、いつからいた? オレがここに来てから十数分経っているはず。その間は水を飲み、やたら増えた白髪を見つけて、ショックを受けただけだ。少し警戒心がなくなっていたかもしれないが、それでも誰か来れば気付くと思う。
ふと、簡易マップを見る。自分の光点とは別に、もう1つ光点がある。青色をしている。仮に赤色が敵性だとするならば、青色は味方なのだろうか?
っていうか、ものすごい美女さんだ。緩く波打った長い藍色の髪に、大きな翠瞳は少しタレ目だが、口と鼻のバランスと相俟って、とても綺麗です。
この世界の人は、皆がみな、美男美女なのだろうか。いや、オレが出会ったのは神様と女神様だけで、厳密に言うと人ではなかった。ということは、異世界での出会い第一号は、目の前の女性となるだろうか?
しばらく呆然としながら、女性と見つめ合う。どうやら、相手も驚いているようだ。水面に腰を落としてしまっている。
「……ん?」
オレは違和感を覚えて、首をかしげる。そんなオレを見て女性の方も首をかしげた。
まじまじとオレが見ていると、
「……(てれてれ)」
頬に手を当てて、女性は照れている。そんな顔は、美しいというよりとてもかわいい。
その時、ざあっ、と大きく風が吹いた。木の葉が舞い落ち、水面が波打ち、女性の黒髪が乱れ、今まで髪の毛で隠れていたその豊満な身体が露になった――瞬間、オレは咄嗟に目を逸らした。あぁ、木々の合間から見える空が青い。
しかし女性は自らの身体を隠さずに、ただ乱れた髪の毛を抑えるだけだった。しかも、目を逸らしたオレを見て顔を近付ける。大きな胸がたゆん、と揺れた。
そこで、オレはようやく違和感に気付いた。遅い。スキルの【高速思考】はどこいった? 仕事しているか? それとも戦闘中じゃないと、ダメなのか?
彼女は今、全裸で水面の上に女の子座り――正座を崩した座り方――で、水面の上に手をついて前屈みになってオレの方を見ているではないか。
何も支えのない水面の上に、だ。
おかしい、おかしすぎる。人間にできることではなかった。――厳密に言うと、なんらかのトリックを使えばできないことはないが、今それをする必要はない。しかも、全裸で(ここ大事)。
改めて彼女を見る――無論、顔から上を――と、どこか浮世離れした雰囲気があり、それは、神様や女神様に通ずるものだった。
「あなたは……? ……はぁ、精霊ですか」
だからだろう、言葉ではなく、別の手段で意思を伝えて来ても、もうおかしいとは思わなかった。




